桜才学園での生活   作:猫林13世

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今回はカエデの番


ラッキーハプニング

 シノ会長とタカ兄からお願いされ――実質強制され、私はプール清掃の手伝いをする事になってしまった。

 

「面倒だな~」

 

「一度引き受けたんだし、しっかりと働きなさいよ」

 

「マキは自分から名乗り出てたけど、ボランティアを募っても集まらないから私が呼ばれたわけでしょ~? 実質身内だから選ばれた感が半端ないよ」

 

「家に帰ってもゲームしかしないんだし、たまには身体を動かしたら? プール掃除って、結構大変だし」

 

「バイト代が出るなら違うんだけどな~」

 

 

 もちろんそんな事をタカ兄に言えば、即座に説教されるに違いないので、口が裂けてもそんな事は言わないが……

 

「でも、こういう事を手伝っておけば、心証が良くなるんじゃないの? 減ってきているとはいえ、遅刻や居眠りで心証悪いんだから」

 

「そうですね……まぁ、タカ兄に見限られないようにするためにも、少しは手伝っておいた方が良いよね」

 

 

 そもそも生徒会役員と美化委員を除けば、参加希望者はマキとカエデ先輩の二人だけ。そこに私が加わったところで大した戦力増加では無いんだけどね……というか、タカ兄一人で殆ど終わらせることが可能だと、私は思っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プール掃除のボランティアに参加する事にしたけど、実はタカトシ君にお願いされて参加しているという事を、他の人は多分知らない。

 

「(参加者が集まらなくて困っていると相談されて、つい引き受けちゃったけど……)」

 

 

 私も授業で使うので掃除する事は仕方がないとは思っているけど、濡れてもいい恰好で掃除するのでちょっと恥ずかしいのだ。

 

「カエデちゃん、今日はありがとうね~」

 

「いえ、このくらいなら問題ありません」

 

「もう少し参加してくれる人がいると思ってたんだけど、皆忙しかったりするみたいなんだ~」

 

「そうですか」

 

 

 恐らく参加したくないのでテキトーな理由をでっちあげて逃げた人もいるんでしょうが、強制的に参加させてもあまり役に立たなさそうですし、仕方がないですね。

 

「それで、美化委員はあちら側を、生徒会とボランティアでこちら側を清掃する」

 

「分かりました」

 

 

 少し離れた場所で、天草会長と美化委員長が話し合いを進めている。効率的に清掃するために、普段から行動している面子で動いた方が良いという結論に至ったようで、美化委員とは別行動になったようだ。

 

「それでは、我々はこちら側を清掃する事になった。参加してもらった三人には後程何かしらの謝礼をするつもりだから、それなりに頑張ってくれ」

 

「そんな物いりませんよ」

 

「そうですね。私たちはボランティアですから」

 

「私はちょっと欲しいって思いましたけど」

 

 

 私の他に参加している一年生――津田さんと八月一日さんは、謝礼を断って掃除を始める事にした。

 

「しかし意外ですね。津田さんがボランティア活動に参加するなんて」

 

「実は、タカ兄に頼まれまして……少しでも先生たちの心証を良くしようと思って参加しました」

 

「そういう事情ですか」

 

 

 津田さんの心証はあまり良くないですし、他の人間が殆ど参加していないボランティア活動に参加すれば、確かに心証は少しは良くなるでしょう。ですが、そんな気持ちで参加してもあまり戦力にならないと思うんですよね。

 

「あっ、その辺り滑りやすいみたいですから、気を付けて――」

 

「はい?」

 

 

 津田さんからの忠告の途中で、私はその場所に足を取られて滑りそうになった。だけど誰かに抱き留められ大事には至らなかった。

 

「えっと、ありがとう――た、タカトシ君っ!?」

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 どうやら私のすぐ傍で作業していたタカトシ君に抱き留められたらしく、私の身体はすっぽりとタカトシ君の腕の中に納まっている。

 

「あー、カエデちゃん良いな~」

 

「風紀委員長が率先して風紀を乱すとはな」

 

「べ、別にそんなつもりは――」

 

「苔に足を取られただけでしょうし、狙ってやったわけじゃないんですから、そんな事言わなくてもいいんじゃないですかね? もちろん、狙ってたとしたら問題ですが」

 

「そ、そんなわけ無いじゃないですか! というか、津田さんに注意されるまで気がつきませんでしたし」

 

「もうちょっと早く言っておけば良かったですかね~? でも、カエデ先輩的には美味しい思いを出来たんですし、結果オーライ?」

 

「コトミ?」

 

「ヒィっ!? 真面目に掃除します!」

 

 

 タカトシ君に睨まれ、津田さんは弾かれたようにこの場から逃げ出し、離れた個所を掃除し始めた。会長たちも少し膨れてはいるが、わざとではないという事で何とか納得してくれたようだった。

 

「あの、ゴメンなさい……」

 

「いえ、何とか受け止められましたし、転んだら痛いですから」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 タカトシ君ならこう言ってくれるだろうと思っていたけど、実際に言われると何だか恥ずかしい。改めてさっきまでの体勢を思い返し、私はさらに恥ずかしくなってしまう。

 

「(さっきまで私、タカトシ君に抱きしめられてた……)」

 

 

 昔だったら逃げ出したか殴り倒したかしてたでしょうけども、今はなんだか恥ずかしいだけで、嫌な気分はしなかった。

 

「(男性恐怖症、治ってきてるのかな……)」

 

 

 これが他の男子だったらと想像して、私は急に寒気を覚えたのだった。




タカトシ的には普通の事なんでしょうがね……

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