桜才学園での生活   作:猫林13世

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この作品で「おかず」って言うと厭らしく見える不思議……


おかずを求めて

 午前の授業が終わり、お昼ご飯タイムだというのに、私は空っぽのお弁当箱を見て落胆する。

 

「早弁するんじゃなかった……」

 

「自業自得だろ」

 

「今日に限ってタカ兄もお義姉ちゃんも早くて、私を起こしてくれなかったんだもん」

 

「それって完全に逆恨みだよね? 津田先輩も魚見さんも悪くないじゃん」

 

「分かってます……」

 

 

 マキの言うように、タカ兄もお義姉ちゃんも悪くないのだ。悪いのは自分一人で起きられなかった私なのだ。

 

「購買に行って何か買ってくれば?」

 

「それが、お財布忘れて……」

 

「定期だけはちゃんと持ってきたんだ……」

 

「ポケットに入れっぱなしだからね~」

 

「自慢する事じゃないだろ」

 

 

 トッキーにツッコまれて、私は机に突っ伏した。みんなが食べているのを見たくないというのもあるが、これ以上喋って余計なエネルギーを消費しないようにしたのだ。

 

「仕方ないな、少し分けてあげるよ」

 

「じゃあ私も」

 

「ほんとうっ!?」

 

「コトミ、お弁当箱貸して」

 

 

 マキにお弁当箱を貸して、何をするのか黙って見ている事にした。

 

「まずは津田先輩たちがいるであろう生徒会室に行こう」

 

「何でタカ兄?」

 

「事情を説明して、おかずを分けてもらおうと思って。あそこなら天草会長たちもいるだろうし」

 

「面白いって言って参加してくれるかもね」

 

 

 タカ兄は兎も角、シノ会長たちはノリノリで参加してくれるだろう。マキの提案に乗って、私たちは生徒会室を目指したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと話しておきたい事があったので、お昼に集まってもらったので、私たちは生徒会室で昼食を摂る事にした。するとそこに、コトミたち一年生トリオがやってきた。

 

「何かあったのか?」

 

「実はですね――」

 

 

 八月一日の説明を聞いて、タカトシが頭を押さえた。たぶん情けない妹だ、と思ったんだろうが、私たちはその企画に乗る事にした。

 

「まずはご飯を入れて」

 

「主食と野菜を入れて」

 

「うーん……彩りが寂しくありませんか?」

 

「赤が欲しいな」

 

「ですが、赤色なんてありませんよ?」

 

 

 タカトシはコトミに説教しているので、私たちだけでコトミの弁当を作っていたのだが、やはりここにいる面子だけでは厳しいな……

 

「よし! 各自の教室に行っておかずを提供してもらおうじゃないか!」

 

「じゃあまずはウチのクラスですね」

 

 

 意外とノリノリの萩村を先頭に、私たちは弁当箱片手に萩村たちのクラスを訪れた。

 

「えっ、おかずを分けて欲しい?」

 

「かくかくしかじか」

 

「そうなんだ。じゃあこのほうれん草の肉巻きを――」

 

「野菜食べなさい」

 

「んほーっ!?」

 

 

 おかずを提供してくれそうだった轟だったが、どうやら自分が嫌いなものをこちらに押し付けようとしてただけのようだった。

 

「次は職員室にでも行ってみるか」

 

「そうだね~」

 

 

 とりあえず別のおかずを貰い、私たちは職員室に向かった。

 

「えっ、おかずを分けて欲しい?」

 

「かくかくしかじか」

 

「事情は分かった。だがただではやれんな。私にじゃんけんで買ったらいいぜ。最初はグーな」

 

 

 そういって横島先生は縦にして拳を突き出す。親指が人差し指と中指の間に挟まっているのは、彼女の癖だろうか。

 

「厭らしい手つきしないでください」

 

「何言ってるんだ。手コキが厭らしいのは当然だろ」

 

「だな」

 

「そうだね~」

 

「……ちょっと待て。勝手に私のセリフを改竄するのは止めろ!」

 

 

 何故だか横島先生が思い返したセリフを理解した萩村が慌て始める。確かに平仮名の『つ』と片仮名の『コ』ってパット見ると似てるよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ兄に怒られている間に、シノ会長たちが私のお弁当箱を持って帰ってきた。

 

「寄せ集め弁当の完成だ!」

 

「わーおいしそ~」

 

「その前に言う事があるだろ」

 

 

 タカ兄に睨まれて、私は会長たちに頭を下げた。

 

「わざわざありがとうございました」

 

「意外と楽しかったから気にしないで~」

 

「そうだぞ。それに、早く食べないと時間が無くなるからな」

 

 

 アリア先輩とシノ会長の厚意に甘え、私は早速お弁当を食べ始める。

 

「むっ! これはシノ会長の卵焼き! 相変わらず絶品ですね~」

 

「分かるのか?」

 

「タカ兄のお陰で、舌には自信があるんです」

 

「ちなみに、人間って味覚よりも嗅覚で味を感じるらしいわよ」

 

「そうなんですか!? じゃあさっそく」

 

 

 私はスズ先輩から得た知識を使って、表現し直す事にした。

 

「あー会長のにおいは絶品だな~」

 

「ただの変態だろうが!」

 

「痛っ!?」

 

 

 タカ兄にチョップされて、私は叩かれたところを押さえる。加減してくれてるとはいえ、不意打ちはやっぱり痛いんだよね。

 

「ごちそうさまでした~! 皆さんのおかげで、午後も乗り切れそうです」

 

「そうか、それは良かったな」

 

「このご恩は、いずれお返ししますので」

 

「そんな、気にしなくて良いよ~」

 

「そうね」

 

「コトミが真面目になれば、それが一番の恩返しだからな」

 

「皆さん――」

 

『『『グー』』』

 

 

 私が感動したところで、三人のお腹の虫が鳴いた。私にご飯やらおかずやらを分けてくれた所為で、若干足りなかったみたい……

 

「えっと……タカ兄、お金貸して? 購買で何か買ってくるよ」

 

「……後で返せ」

 

 

 最初からタカ兄にお金を借りて、購買でお弁当でも買えば良かったよ……




だいぶ感覚がマヒってるんでしょうね……

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