校内の見回りをしていると、掲示板に柔道部のお報せが貼られていた。
「体験入部?」
「ハイ! 柔道を気軽に楽しんでもらおうと思って。一緒に青春の汗を流しましょう!」
「じゃあ、体験してみようかな」
最近運動不足気味だし、体験入部程度なら私にだって出来るだろうし、アリアや萩村も問題無く出来るだろう。
「じゃあ俺は見学します」
「(シャワー浴びとかなきゃ……汗臭いかも)」
「青春の汗は?」
タカトシが見学に来るという事で、三葉が乙女モードに入ったのを察した萩村がすかさずツッコミを入れる。忘れがちだが、萩村もツッコミ側の人間だから、こういう時は素早いんだな。
「とりあえず皆さん、道着に着替えましょう」
「はーい」
「ん?」
柔道場に移動し、まずは道着に着替える事になった私たちだが、よく見れば一人増えているではないか……
「コトミも体験入部か?」
「違います。私は道場破りです」
「ふざけた事言ってると、タカトシとカナに報告して監視の目を厳しくしてもらうぞ?」
「そ、それだけは……」
「まぁまぁシノちゃん。コトミちゃんのこういった発言は何時もの事だし、素直に体験入部っていうのが恥ずかしいだけかもしれないしね」
「まぁ、そういう事にしておこう」
とりあえず道着に着替えた私たちは、コトミの冗談で始まった道場破りごっこを見学する事にした。
『始め!』
「道場破りを生で見るのは初めてだ」
「………」
「まぁタカトシ、コトミが自発的に運動をしようとしたことを褒めてあげて」
「この前太ったとか言ってたから、それが目的だとは思うがな……」
「なるほど……」
兄妹の仲がいいと、そういう事も伝わるんだな……というか、コトミも太ったのか? 見た感じではさっぱり分からないが……
『一本!』
「まぁ、ムツミに勝てるわけないわよね……」
「というか、あんなりすぐ負けたら、運動にならないんじゃないか?」
秒殺されたコトミに、タカトシは呆れているのを隠そうともしない視線を向け、コトミは恥ずかしそうにトッキーのところに逃げたのだった。
ムツミ先輩に瞬殺され、タカ兄の冷たい視線から逃げてきた私は、トッキーに柔道について教わっていた。
「――という感じだ」
「なかなか難しいね~」
「あとはルールを覚えるともっと楽しめると、主将があっちで言ってるな」
「ルール?」
「一本の時は腕を上に上げ、技ありの時は横に、有効の時は斜め下に、という感じだ」
「憶えられるかな?」
それ程多くは無いけども、私って興味がない事を覚えるのが苦手なんだよな……あっ、そうだ!
「女子らしく恋愛に置き換えれば覚えやすいかも」
「恋愛?」
「一本は四つん這いになってる相手にフィ〇ト〇ァックする感じで、技ありが腕枕、有効が手を繋ぐって覚えれば良いんじゃないかな?」
「何言ってるのか分かんねぇよ! というか、兄貴が怖い顔をしてお前の事を見てるが?」
「な、何でもないからね!?」
相変わらず勘が良いタカ兄が私の事を怖い顔して睨んでたので、私はすぐさま否定してトッキーと組手をする事にした。
「お前、帯解けてるぞ」
「あら」
「しっかりしめておけ」
「そんなにきつく締めたら、解けなくなるんじゃない?」
「そこまでじゃねぇよ」
トッキーにしっかりと帯を締めてもたらったお陰で、組手の間解ける事は無かった。
「ワリィ、ちょっとタイム」
「どうしたの?」
「トイレ」
「なるほど」
トッキーと一緒にトイレに向かうと、何故か困った表情で私の事を見てきた。
「解けない……」
「帯が?」
「ズボンのひもが……こんがらがった」
「相変わらずドジっ娘め」
「今わりと切羽詰まってるから!! というか、解くの手伝ってくれ!」
「仕方ないな~」
トッキーのズボンのひもを解くために、私はトッキーの前にしゃがむ。ちょうどそのタイミングでシノ会長がやってきて、驚きの声を上げた。
「トッキーがコトミを従えてるっ!?」
「チゲェよ!」
「ただのドジっ娘ですよ~。ズボンのひもがこんがらがったので、解いてあげてるだけです~」
「何だ、ビックリさせるなよな……てっきりトッキーがコトミに舐めさせてるのかと思っただろ」
「それはそれでありですね」
「無しだよ! というか、どんな発想だよ……」
「はい、解けたよ」
「サンキュー!」
余程我慢していたのか、トッキーは凄い勢いでトイレに駆け込んでいった。
「ところで、シノ会長はここに何の用で?」
「……しまった! 私も切羽詰まってるんだった!?」
「会長もドジっ娘ですか?」
「いや、ひもはこんがらがっていないが……」
「おーいトッキー! 会長がお漏らししちゃうから早く出てだってさ~!」
「そ、そんな事言ってないぞ!?」
ドア越しにトッキーに催促すると、会長が慌ててそれを否定する。だけで表情に余裕が感じられないので、恐らく私の言った事が大袈裟だという事は無いだろう。
「何なら本当に舐めましょうか?」
「その必要は無い! ちょうどトッキーが出てきたからな」
「あらら……ちょっと残念」
「私にそっちの趣味は無いからな!」
きっちりと否定していってから、会長はトイレに駆け込んだのだった。
ちょっと早いですが、よいお年をお迎えください