桜才学園での生活   作:猫林13世

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自分は昔風呂場に閉じ込められたことがあります


閉じ込められた生徒会役員共

 一学期の終業式も終わり、生徒会室で細々とした作業を済ませ、それも無事に終わった。

 

「これで無事に夏休みを迎えられるな」

 

「そういえば、コトミちゃんのテストの結果はどうだったの~?」

 

「お陰様で、平均すれすれでした」

 

 

 タカトシとカナが普段から散々勉強を教えているというのに、何故コトミの頭は良くならないのだろうか……

 

「一ヶ月無人になるので、戸締りをしっかりとしておかないといけませんね」

 

「まぁ、何日かは登校してもらう日もあるだろうが、それも夏休み後半だからな。畑が忍び込む可能性もあるし、戸締りはしっかりとしておくに限る」

 

 

 ついこの間も、生徒会室にカメラが仕掛けられていたのだ。もちろん、タカトシがすぐに撤去してくれたお陰で、おかしなものは何も撮れていないのだが。

 

「これでよし。後は私たちが出て、扉に鍵を掛ければ密室の完成だ!」

 

「シノちゃん、推理小説の読み過ぎじゃない?」

 

 

 珍しくアリアにツッコまれたので、私は思わず笑ってしまった。

 

「アリアにツッコまれるなんて、何時以来だろうな」

 

「とにかく、早く出ましょう」

 

「そうだな……?」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、開かないんだが……」

 

「……ノブが壊れてますね」

 

「マジで!?」

 

 

 冷静にドアノブを見たタカトシが、困ったように告げてきたので思わず声が裏返ってしまった。まぁ、助けを呼べばいいだけだろ。

 

「みんな、携帯は?」

 

「教室に置きっ放し」

 

「同じく」

 

「私も……」

 

「むっ……私も持ってきてないぞ……」

 

 

 誰かしら持っていると思っていたんだが、どうやら助けを呼ぶのは難しそうだな。

 

「すでに下校時間も過ぎて人も少ない……閉じ込められてしまったか」

 

「電気を付けたまま夜を迎えれば、異変に気付いてもらえるかも」

 

「もう少し早期解決を狙おう」

 

 

 現在の時刻は午前十一時。いったい何時まで生徒会室にいさせるつもりなんだ、アリアは……

 

「萩村、どうかしたのか?」

 

「実はトイレ我慢してまして……」

 

「ペットボトル使う?」

 

「いやいや、タカトシの前でするのは……」

 

 

 タカトシがいなかったら考えたのだろうか……まぁ、女子同士なら気にすることも無いか。

 

「仕方がない。誰か通るまでトークでもして気を紛らわそう」

 

「そうですね」

 

 

 まだ先生方は残っているだろうから、見回りに来た時に外から開けてもらえば何かとなかるだろうと考え、萩村の気を紛らわせる方向にシフトチェンジした。

 

「そういえば私たちが置かれてる状況って、あの都市伝説に似てるね」

 

「都市伝説?」

 

 

 アリアが仕入れてくる都市伝説は、結構な割合で胡散臭いのだが、こういう時興味を惹かれるんだよな……

 

「とある学校での話なんだけど、終業式の日に扉が壊れた倉庫に生徒が一人閉じ込められちゃったらしいんだよね。周囲には人はいないし携帯も持ってなかったから助けも呼べずじまい。結局彼が発見されたのは始業式……ミイラとなって――」

 

「尿意加速させるな!!」

 

「あの、シノ会長?」

 

「な、何でもないぞ!? アリアの話が怖くて腰を抜かしてしまって、自力で立てないから君にしがみついているわけではないからな!」

 

「はぁ……」

 

 

 あんまり信じてもらえてない感じだが、とりあえず足に力が戻ってきたのでタカトシから離れる。

 

「しかし、このままでは冗談では済まなくなりそうだな……タカトシ、このドアを蹴破る事は可能か?」

 

「やろうとすれば出来ない事もないですが……修繕費はどうするのですか? ノブだけならそれほどかかりませんが、ドア丸ごととなると――」

 

「そうか……それでは、蹴破るのはあくまでも最終手段という事にして、早く誰か通らないだろうか……なんだか私もトイレに行きたくなってきたぞ」

 

「シノちゃんも? 実は私も……」

 

 

 この場にタカトシがいなければ、三人ともペットボトルで済ませる事が出来たのに……

 

「仕方ありませんね……」

 

「タカトシ? そっちは窓だぞ」

 

 

 何故かドアから離れ、窓の方へ向かうタカトシに、私たちは何をするのかと視線で問いかける。

 

「この程度なら、死ぬ事は無いでしょうし」

 

 

 そう言ってタカトシは窓の鍵を外し、おもむろに窓を開けて外に飛び降りた。

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 一切躊躇なく飛び降りたので、私たちは尿意も忘れて窓の外に顔を出しタカトシの安否を確認する。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「平気です。とりあえず、外からなら開けられるんですよね?」

 

「あぁ、多分な」

 

 

 実際に開けたわけではないので何とも言えないが、外からなら開けられると思う。

 

「じゃあとりあえず戻りますね。もしダメなら、職員室から工具を借りてドアを外しましょう」

 

 

 タカトシが昇降口から校内に戻ってくるのを見送り、私たちは今の一連の動作について話す事にした。

 

「相変わらずの運動神経だな」

 

「いや、それで片づけられないと思いますが……」

 

「足とか大丈夫なのかな?」

 

「タカトシの事も心配だが、今は我々の尿意も心配だ……タカトシがいない今、ペットボトルで済ませてしまおうか?」

 

 

 全員の視線がペットボトルに向けられたタイミングで、外からドアを弄る音が聞こえた。

 

「お待たせしました」

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

「スズ、廊下は――まぁいいか」

 

 

 走り去った萩村を追いかけるように、私たちもトイレに駆け込んだ。我が校の校則で、尿意がヤバい時は廊下を走ってもいい事になっているので、タカトシも見逃してくれたしな。




校則でOKですからね……

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