桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシの本領発揮……?


百物語

 トイレに行って部屋に戻ってくると、何故か会長が蝋燭に火を灯してした。

 

「あれ、停電ですか?」

 

「いや、せっかくだから百物語をやろうかと」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 

 べ、別に怖いわけではないけど、雰囲気的に怖がった方が良いかと思っただけだから大丈夫。

 

「じゃあまずは私からだな。こんな都市伝説を知っているかな? ある研究者が禁断の実験を行った話だ。まず目隠しをした被験者に水をたらし続ける。その水を被験者に本人の血だと錯覚させす。その結果被験者はショック死してしまったらしい」

 

 

 な、なかなかの話ね……だがまぁ、耐えられないことも無いわね……

 

「それ私もやった事があります」

 

「え?」

 

 

 やった事があるって、この話だと人が死んでるわけで……

 

「感度の低い相手に」

 

「(もっとだ。もっと空気を壊してくれ)」

 

 

 私が出島さんにそう願っているのを知ってか知らずか、今度は七条先輩が怪談を始める。

 

「これは私が実際に体験した事なんだけど、夜寝てたら窓の外がガタガタ鳴ってたの。その日は風もそれほど強くないのに変だなー、って思ったんだけどその時はそのまま寝ちゃったんだよね。でも気になって朝起きてカーテンを開けてみたら。窓一面に人の指紋と――」

 

「し、指紋と……?」

 

「乳紋が!」

 

「皆さん、何故私を見詰めるのですか? 照れるじゃないですか」

 

 

 またしても出島さんのお陰で空気がぶち壊れてくれた。これなら何とか私が怖がってるのを隠し通せるかもしれない。

 

「では皆様の期待にお応えして、今度は私が話しましょう」

 

 

 今まで雰囲気ブレイカーだった出島さんだけど、この人の怪談はなんだか本格的そうで嫌ね……

 

「心理学の話をしましょう。パラドックス技法というのをご存知ですか?」

 

「何ですか、それ?」

 

「例えば、興奮状態の人が自分より興奮している人を見ると、逆に冷静になってしまうというからくりです」

 

「なるほど」

 

 

 会長が興味深そうに出島さんの話を聞いているけど、そのくらい私だって知っている。だけど今はそれを説明出来るだけの余裕が無かったので、説明は出島さんに任せたのだ。

 

「しかしこの技法、使い方を誤ると恐ろしい事になります」

 

「お、恐ろしい事……?」

 

 

 ここからが本番だと言わんばかりに声のトーンを落とした出島さんにつられて、私もつばを飲み込む。

 

「性的興奮している奴に使うと、静まるどころか――」

 

「オチたのでもういいです」

 

 

 タカトシが出島さんの話を遮った。まぁ、これ以上聞かされても怖い事も無かったでしょうけども、怪談ではなく猥談を聞かされても困るからちょうどよかったわ。

 

「じゃあ次はタカ兄だね~」

 

 

 この時、私はコトミの無邪気のこのセリフを止めればよかったと後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシの話を聞いていると、何故か部屋の温度が下がったような錯覚に陥り、私は隣にいるアリアの腕を掴んだ。

 

「シノちゃん?」

 

「アリア、なんだか寒くないか?」

 

「そう言われれば、なんだか涼しくなってきたかもしれない」

 

 

 

 いくら夜だからといって、真夏にこんなひんやりとした空気が入り込むだろうか?

 

「――という事だったのでした」

 

 

 私たちが寒さを感じているのを無視して、タカトシの怪談は終わった。

 

「こ、怖かったな……途中で体温が下がる錯覚に陥ったぞ」

 

「あぁ、それは……スズがトイレに逃げたから廊下の空気が部屋に入り込んできたんでしょう」

 

「何っ!? あっ、本当だ……」

 

 

 よく見れば萩村が部屋からいなくなっているではないか……つまり錯覚ではなく、本当に部屋の気温が下がったのか……

 

「それにしても、怖すぎるぞ君の話は」

 

「危うくお漏らししちゃうかと思ったよ~」

 

「何故それを俺に言うのかは気にしませんが、怪談をしようと言い出したのはシノさんたちですよ? 怖がらせたのにクレームを言われても困るのですが」

 

「まぁまぁタカ兄。それだけタカ兄の話が怖かったという事だよ。それじゃあ、蝋燭も最後の一本だし、これを消しておしまいにしましょう」

 

 

 コトミが蝋燭の火を消そうとしたタイミングで、萩村がトイレから戻ってきた。

 

「待って。蝋燭の火を全部消すとよくない事が起こるって言われてるから、あえて消さないで終わりにしましょうよ」

 

 

 恐らく火が全部消えて真っ暗になるのが怖いんだろうが、はっきりとそういえば良い物を……

 

「でも、バースデーケーキの蝋燭は全部消した方が縁起が良いって言いますよ?」

 

「そんなのは迷信だ!」

 

「落ち着け……というかコトミ、この状況でケーキの蝋燭なんて関係ないだろ?」

 

「いや~、スズ先輩が激しく狼狽してるのが楽しく手ですね~。相変わらず容姿相当な反応をしてくれるな~って」

 

「貴様ー!」

 

 

 萩村がコトミの事を蹴ろうとしたタイミングで、蝋燭の火が消えた。

 

「えっ?」

 

「私消してませんからね?」

 

 

 突如消えた火に全員が怯える中、タカトシが電気のスイッチを入れて犯人を捕まえていた。

 

「出島さん、面白がってましたね?」

 

「萩村さんだけでなく、お嬢様たちまで驚いてくれたのは想定外ですけどね」

 

「本気でびっくりしたよ~」

 

 

 コトミが消すものだと思っていたから、出島さんの存在を忘れていた……それにしても、相変わらずタカトシは冷静だな……




スズも見た目通りの反応を……

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