桜才学園での生活   作:猫林13世

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何故途中で気づかなかったのか……


津田家での一幕

 カナと二人でお出かけを終えて、帰路についていると二人とも汗だくである事に気が付いた。

 

「暑いな……」

 

「ですね……」

 

 

 会話も続かないくらい暑いので、私たちはそれだけしか言葉を発する事はしなかった。

 

「そうだ! よかったらウチで冷たいものでもどうですか?」

 

「良いのか? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

 

 

 ちょうど近所に差し掛かったのか、カナの自宅に誘われた。

 

「ただいまー。さぁ、どうぞどうぞ」

 

「おい……何故津田家が『ウチ』なんだ! 押しかけ女房か!」

 

「だって、コトちゃんの宿題を見る為に昨日からここで生活してるので」

 

「あっ、お義姉ちゃんお帰り~。シノ会長もいらっしゃい」

 

「あ、あぁ……お邪魔します」

 

 

 正真正銘この家の住人であるコトミが、カナには「おかえり」で私には「いらっしゃい」だったのを受けて、私はカナに対する抗議を諦めた。

 

「タカ君は?」

 

「タカ兄なら庭の草むしりをしてますよ~。何でも『夏草は放っておくとすぐ伸びるから』らしいですけど。こんなクソ暑い中やらなくても良いのにとは思いますけど、タカ兄は真面目ですからね~」

 

「そうだね。それじゃあコトちゃんはしっかりと宿題をしておいてね? すぐ部屋に見に行くから、遊んでちゃ駄目だよ?」

 

「うへぇ……」

 

 

 コトミを部屋に向かわせてから、カナは私をリビングに案内する。

 

「少し待っていてくださいね。タカ君が作っておいてくれた麦茶がありますから」

 

「あぁ……」

 

 

 こうして考えると、カナは脱落したのではなく、圧倒的に津田家に来やすいポジションを手に入れたんだなと思い知らされる……前まではコトミの勉強を見るのは我々桜才生徒会役員だったのに。

 

「よし! 今日は私もコトミの面倒を見ようじゃないか!」

 

「シノっち……そんな事言って、少しでもタカ君と同じ空間にいたいだけなんじゃないですか? コトちゃんの勉強を見る事が主な理由なのでしたら、そっちはシノっちにお任せして私はタカ君のお手伝いをしますけど」

 

「何っ!? あっ、いや……」

 

 

 これではタカトシの手伝いではなく、カナにアシストしてるみたいで何だか困るな……

 

「どうしますか?」

 

「……少し休んだら帰るよ」

 

「そうですか」

 

 

 後日生徒会の業務の一環で、地域の子供たちを対象にしたラジオ体操の手伝いで会えるし、今日は大人しく帰るとするか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 草むしりを終えてリビングに戻ると、テーブルに突っ伏しているコトミと、苦笑いを浮かべている義姉さんが出迎えてくれた。

 

「お疲れ様」

 

「コトミはどうしたんですか?」

 

「シノっちに、今度のラジオ体操の手伝いの手伝いを命じられて、早起きできないって」

 

「ラジオ体操の手伝い? あぁ、今度生徒会業務の一環としてボランティアでやるあれですか。しかしなぜコトミに手伝わせることに?」

 

 

 別に人手が足りないわけでは無かったと思うんだが……

 

「コトちゃんが不規則な生活をしてるって私が話したら、シノっちが『それでは休み明けが辛いだろうから、今から矯正してやる!』って言って」

 

「あぁ、なら仕方ないですね」

 

 

 こいつの不規則な生活を矯正出来るとは思えないが、やらないよりやった方が良いだろうという事で、俺はそれ以上何も言わない事にした。

 

「何で私が生徒会の手伝いをしなきゃならないのさ……何かご褒美が欲しい!」

 

「高校生にもなって褒美が無ければ頑張れないというのはどうなんだ? 褒美をやるならその分罰を差し引かなければ割に合わないよな? そうなると相当な罰が課せられると思うんだが、それでも良いのか?」

 

 

 散々大目に見てきた事があるので、その罰を課して良いのなら褒美も考えなくはない。もちろん、そうなった場合罰の方が多いので、褒美は無しになるのだが。

 

「そんなことしたら大変だよ! ただでさえタカ兄には貸しがあるのに……分かった、大人しく手伝います」

 

「最初からそうすればいいんだ」

 

「タカ君も最近厳しくなってきたよね」

 

「そうですか? 前までが甘すぎただけだと思いますが」

 

「全然甘くなかったよぅ……」

 

 

 コトミが恨み言を言いながら部屋に戻っていく。恐らくまだノルマが終わっていないので、すごすごと逃げ帰ったというところか……アイツもやれば出来るんだから、しっかりやれば良いものを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトちゃんが部屋に戻り、タカ君も庭掃除が終わったので、私はタカ君に冷たいお茶を出す為にキッチンに移動して、コトちゃんが何のためにリビングに降りてきたのかとふと気になった。

 

「シノっちに言い渡されてショックだったのは分かるけど、タカ君に言い負かされると分かってるのに何で来たんだろう……まぁ、現実逃避をしたかっただけなのかな?」

 

 

 分からない箇所があった、という感じでもなかったし、ますますコトちゃんの行動理由が分からなくなったけど、後で本人に聞けばいいという考えに落ち着いた。

 

「タカ君、お茶です」

 

「ありがとうございます、義姉さん」

 

「それにしても、夏休みの間も生徒会活動は活発なんだね、桜才学園は」

 

「シノさんがそういうの好きだからでしょうね。企画しては人に丸投げするんですが」

 

「何となく想像がつく」

 

 

 シノっちはお祭り好きだし、こういう事でも楽しめるんだろうし、タカ君に任せておけば万事大丈夫だという事も理解出来る。タカ君は心底めんどくさそうだけど、私は楽しそうだなと感じてしまったのでした。




ウオミーの方が一枚上手だったな……

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