生徒会の手伝いとして、タカ兄と二人で校舎周りを見回っていると、角から会長が覗き込んできているのに気づき、私は駆け寄った。
「どうかしたんですか?」
「いや、やんちゃして落とし穴を造ったんだけど、誰もハマらなかったなと……もちろん、安全性を考慮して浅く掘ったんだが……」
「またですか……」
タカ兄が呆れてるのを見るに、ここ最近も何かやったんだなと察し、私は会長に微妙な視線を向けた。
「それなら私が手本を見せてやろうか?」
「何ですか、横島先生」
タカ兄があからさまな態度で横島先生を見る。その視線を受けて、先生が若干クネクネしたのを、私は見逃さなかった。
「私の穴は必ず相手を堕とす――ってあれ? 帰っちゃうの?」
話の途中で会長とタカ兄が校内に戻っていくので、私もその後に続いた。
「ちょっと気になったけどな~」
「そういう事は思っても口に出すもんじゃないぞ? コトミには乙女の恥じらいというものが足りないぞ」
「会長だって、ちょっと前までは私と殆ど変わらなかったじゃないですか~」
「そんな事ないだろ! ちょうどいい機会だから、コトミには淑女の嗜みというものを叩き込んでやろう!」
「えっ!? タカ兄、助けて!」
私はタカ兄に助けを求めたが、残念ながらタカ兄は私ではなく会長の味方だった。
「ではお願いします。俺は引き続き、校内の見回りをしてきますので」
「薄情者~」
遠ざかっていくタカ兄を恨みがましく睨んだけど、私はそのまま生徒会室に連れ込まれた。
「まずはお茶を淹れてみろ」
「それくらいなら出来ますよ~」
何だか馬鹿にされたような気もするけど、私は急須にお湯を注いで会長にお茶を出す。
「どーぞ!」
「随分と自信満々だな」
「このくらいなら出来ますからね~」
お茶を点てろと言われたら無理だけど、この程度なら私だって問題なく出来るという事を証明してみせた。
「コトミ……これ出涸らしだぞ。殆ど水だ」
「あれ?」
茶葉はそのままだったし、まだ大丈夫だろうと思ってたんだけどな……
「ちゃんと急須の中を確認しないからこうなるんだ」
「ごめんなさーい」
「謝ってる感じが微塵もしないんだが?」
「そんな事ないですよ~」
私としてはちゃんと謝ってるんだけど、どうやら会長にはその気持ちが伝わらなかったようだ。
午前の授業が終わり、お昼だと教室が騒がしくなると、タカトシが席を立ち何処かに行こうとしているのが視界に入った。
「何かあったの?」
「コトミの奴が弁当を忘れたらしく、俺の分を渡したからこれから購買に行こうかと思ってな」
「またなの、あの子は……」
ここ最近は勉強や授業態度は気を付けているらしいんだけど、この辺りの成長はまだ見られないのね……
「タカトシ君、良かったら私の食べて。今日たまたま作り過ぎちゃって」
「いいの?」
タカトシと私の会話を聞いていたのか、ムツミが自分の弁当箱を持って現れた。
「たまたまって、それアンタの適量――」
「っ!」
ムツミにツッコミを入れようとしたチリが、両頬を押さえつけられた。
「すいましぇん……」
「えっと……それじゃあ、貰おうかな」
「うん、いいよ!」
タカトシが何か言いたげな表情を見せたが、今のやり取りは無かったことにするようだった。というか、なんだかラブコメの空気が充満してきたな……
「スズちゃん、私の顔に何かついてるの?」
「べ、別に」
ついついムツミの顔を凝視してしまってたようで、私は慌ててムツミから視線を逸らした。
「それじゃあ、私も一緒に食べようかな」
「じゃあみんなで食べよー」
ムツミは何も感じなかったようだけど、私はムツミの邪魔をするつもりだったんだけどな……何となく罪悪感を覚えるのは気のせいだと思っておこう……
「ご馳走様でした」
「タカトシ君、食べるの早いんだね」
「そうか?」
あっという間に食べ終えたタカトシに、ムツミがそんな感想を漏らした。確かにタカトシは食べるのが早いけど、行儀が悪いわけではなく、純粋に男女の差で済む程度の早さなのだ。行儀云々で言うなら、コトミの方がよっぽど目立つくらいだしね。
「美味かったよ。将来いい嫁さんになるな」
「もー、口が美味いんだからーっ!」
タカトシの社交辞令に、ムツミは本気で照れている。さっきからタカトシの事を指でぐりぐりしてるし。
「三葉、痛いんだが」
「えっ?」
「(ひょっとして、急所を突いてるの?)」
ムツミのは照れ隠しではなく攻撃だったという事か……というか、社交辞令でもタカトシにそんな事言われた事ないから羨ましい……
「スズ? さっきから怖い顔をしてるんだが、何かあるのか?」
「べ、別に! 何でもないわよ」
「スズちゃん? もしかしてお弁当食べたかったの?」
何かを覚った表情のタカトシとは違い、ムツミは見当違いの言葉をかけてくる。
「そうじゃないわよ。本当に何でもないから」
「スズちゃんがそういうなら良いけど……私、何かしちゃった?」
「大丈夫よ。ムツミは何も悪くないから」
そう、悪いのはムツミに対して嫉妬してしまう私なんだから……
スズの嫉妬が目立つようになってきた今日この頃……