桜才学園での生活   作:猫林13世

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彼女の照れ隠しは過激だしな……


ムツミの照れ隠し

 生徒会の手伝いとして、タカ兄と二人で校舎周りを見回っていると、角から会長が覗き込んできているのに気づき、私は駆け寄った。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、やんちゃして落とし穴を造ったんだけど、誰もハマらなかったなと……もちろん、安全性を考慮して浅く掘ったんだが……」

 

「またですか……」

 

 

 タカ兄が呆れてるのを見るに、ここ最近も何かやったんだなと察し、私は会長に微妙な視線を向けた。

 

「それなら私が手本を見せてやろうか?」

 

「何ですか、横島先生」

 

 

 タカ兄があからさまな態度で横島先生を見る。その視線を受けて、先生が若干クネクネしたのを、私は見逃さなかった。

 

「私の穴は必ず相手を堕とす――ってあれ? 帰っちゃうの?」

 

 

 話の途中で会長とタカ兄が校内に戻っていくので、私もその後に続いた。

 

「ちょっと気になったけどな~」

 

「そういう事は思っても口に出すもんじゃないぞ? コトミには乙女の恥じらいというものが足りないぞ」

 

「会長だって、ちょっと前までは私と殆ど変わらなかったじゃないですか~」

 

「そんな事ないだろ! ちょうどいい機会だから、コトミには淑女の嗜みというものを叩き込んでやろう!」

 

「えっ!? タカ兄、助けて!」

 

 

 私はタカ兄に助けを求めたが、残念ながらタカ兄は私ではなく会長の味方だった。

 

「ではお願いします。俺は引き続き、校内の見回りをしてきますので」

 

「薄情者~」

 

 

 遠ざかっていくタカ兄を恨みがましく睨んだけど、私はそのまま生徒会室に連れ込まれた。

 

「まずはお茶を淹れてみろ」

 

「それくらいなら出来ますよ~」

 

 

 何だか馬鹿にされたような気もするけど、私は急須にお湯を注いで会長にお茶を出す。

 

「どーぞ!」

 

「随分と自信満々だな」

 

「このくらいなら出来ますからね~」

 

 

 お茶を点てろと言われたら無理だけど、この程度なら私だって問題なく出来るという事を証明してみせた。

 

「コトミ……これ出涸らしだぞ。殆ど水だ」

 

「あれ?」

 

 

 茶葉はそのままだったし、まだ大丈夫だろうと思ってたんだけどな……

 

「ちゃんと急須の中を確認しないからこうなるんだ」

 

「ごめんなさーい」

 

「謝ってる感じが微塵もしないんだが?」

 

「そんな事ないですよ~」

 

 

 私としてはちゃんと謝ってるんだけど、どうやら会長にはその気持ちが伝わらなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前の授業が終わり、お昼だと教室が騒がしくなると、タカトシが席を立ち何処かに行こうとしているのが視界に入った。

 

「何かあったの?」

 

「コトミの奴が弁当を忘れたらしく、俺の分を渡したからこれから購買に行こうかと思ってな」

 

「またなの、あの子は……」

 

 

 ここ最近は勉強や授業態度は気を付けているらしいんだけど、この辺りの成長はまだ見られないのね……

 

「タカトシ君、良かったら私の食べて。今日たまたま作り過ぎちゃって」

 

「いいの?」

 

 

 タカトシと私の会話を聞いていたのか、ムツミが自分の弁当箱を持って現れた。

 

「たまたまって、それアンタの適量――」

 

「っ!」

 

 

 ムツミにツッコミを入れようとしたチリが、両頬を押さえつけられた。

 

「すいましぇん……」

 

「えっと……それじゃあ、貰おうかな」

 

「うん、いいよ!」

 

 

 タカトシが何か言いたげな表情を見せたが、今のやり取りは無かったことにするようだった。というか、なんだかラブコメの空気が充満してきたな……

 

「スズちゃん、私の顔に何かついてるの?」

 

「べ、別に」

 

 

 ついついムツミの顔を凝視してしまってたようで、私は慌ててムツミから視線を逸らした。

 

「それじゃあ、私も一緒に食べようかな」

 

「じゃあみんなで食べよー」

 

 

 ムツミは何も感じなかったようだけど、私はムツミの邪魔をするつもりだったんだけどな……何となく罪悪感を覚えるのは気のせいだと思っておこう……

 

「ご馳走様でした」

 

「タカトシ君、食べるの早いんだね」

 

「そうか?」

 

 

 あっという間に食べ終えたタカトシに、ムツミがそんな感想を漏らした。確かにタカトシは食べるのが早いけど、行儀が悪いわけではなく、純粋に男女の差で済む程度の早さなのだ。行儀云々で言うなら、コトミの方がよっぽど目立つくらいだしね。

 

「美味かったよ。将来いい嫁さんになるな」

 

「もー、口が美味いんだからーっ!」

 

 

 タカトシの社交辞令に、ムツミは本気で照れている。さっきからタカトシの事を指でぐりぐりしてるし。

 

「三葉、痛いんだが」

 

「えっ?」

 

「(ひょっとして、急所を突いてるの?)」

 

 

 ムツミのは照れ隠しではなく攻撃だったという事か……というか、社交辞令でもタカトシにそんな事言われた事ないから羨ましい……

 

「スズ? さっきから怖い顔をしてるんだが、何かあるのか?」

 

「べ、別に! 何でもないわよ」

 

「スズちゃん? もしかしてお弁当食べたかったの?」

 

 

 何かを覚った表情のタカトシとは違い、ムツミは見当違いの言葉をかけてくる。

 

「そうじゃないわよ。本当に何でもないから」

 

「スズちゃんがそういうなら良いけど……私、何かしちゃった?」

 

「大丈夫よ。ムツミは何も悪くないから」

 

 

 そう、悪いのはムツミに対して嫉妬してしまう私なんだから……




スズの嫉妬が目立つようになってきた今日この頃……

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