桜才学園での生活   作:猫林13世

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黙って見てろよ……


芸術交流会

 芸術交流会が開かれ、我々は今英稜の演奏を聴いている。

 

「あの指揮者の子、絶対音感の持ち主なんですよ」

 

「それは凄い」

 

「絶対音感の人って、心音や呼吸音も聞き分けられるから、お医者さんにむいているとか」

 

 

 そう言ってカナは、タカトシの胸に耳を当てる。

 

「くっつき過ぎだろ!」

 

「会長、お静かに」

 

「むっ……」

 

 

 確かに演奏中に大声を出すのは失礼だが、それとこれとは話が違うというか、何とも羨まけしからん状況というべきか……

 

「タカ君」

 

「何でしょう?」

 

「お義姉ちゃんがこれだけくっついてるのに、心音に変化が無いんですけど?」

 

「(何という鋼の精神の持ち主なんだ)」

 

 

 幾ら義姉弟とはいえ、カナのような女子にくっつかれれば、それなりに動揺したりすると思うんだがな……

 

「義姉さんがくっつくのなんて日常茶飯事じゃないですか」

 

「確かに、しょっちゅうくっついてますね」

 

「何だとっ!?」

 

「会長、お静かに」

 

 

 もう一度タカトシに注意されてしまったが、今聞き捨てならない事を言っただろ、お前ら。

 

「どうやら終わったようですね」

 

「次は私たちの番だし、そろそろ移動しよう」

 

「シノちゃん、早く行くよ」

 

「あ、あぁ……って、今の会話は無かったことになってるのか!?」

 

 

 アリアも萩村も我々の会話は聞こえてたはずなんだが、全く気にした様子が見られない……まさか、二人も鋼の精神を手に入れたというのだろうか……

 

「魚見さんがタカトシにくっつくのなんて、もう見慣れましたし」

 

「タカトシ君も特に気にしてないみたいだし、私たちが気にする必要は無いんじゃないかな? タカトシ君にとってカナちゃんは、異性というより義姉だし」

 

「う、うむ……?」

 

 

 確かにアリアや萩村の言う通りなのだが、イマイチ納得出来ないのは何故だ? 私が考え過ぎなのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英稜の演奏が終わり、今度はウチの演目、白雪王子様の番となり、私は隣にいるトッキーとマキと一緒に劇を観ていた。

 

『鏡よ鏡、世界で一番キレイなのは誰?』

 

「こうしてみると、王妃ってナルシストだね」

 

「そうだな」

 

 

 トッキーは言葉で、マキは頷いて私の感想に同意してくれた。

 

「だから自分の部屋に、あんなに大きい鏡を置いてるんだね」

 

「?」

 

「コトミ、それってどういう意味よ?」

 

 

 だが続く感想には二人とも疑問符を浮かべている様子だったので、私は自分の考察を述べる事にした。

 

「鏡で自分をオカズにしてるんだよ!」

 

「そーゆー妄想良いから」

 

「というか、そんな事考えてる暇があるなら、もっと真剣に劇を観なさいよ!」

 

 

 トッキーには呆れられ、マキには怒られちゃったけど、お義姉ちゃんなら共感してくれるはず。後で話してみようかな。

 

「あっ、スズ先輩」

 

「まぁあの先輩なら、妖精役がピッタリだろ」

 

「トッキー、それ萩村先輩に聞かれたら怒られるよ?」

 

 

 トッキーのコメントにマキが苦笑いを浮かべながらツッコミを入れてるけど、多分マキも同じことを想ってるんだろうな。

 

「妖精なんて、まるでメルヘンの世界だね」

 

「そうだな」

 

『それなら私たちと一緒に住みましょう』

 

「ひょんなことから始まる同棲生活って、ギャルゲーの世界のよう」

 

「そーゆーたとえ、良いから」

 

 

 再びトッキーに呆れられてしまったが、私のような考えをしてる人は他にもいると思うんだよね……

 

「そろそろクライマックスだし、黙って観てようよ」

 

「そうだね」

 

 

 舞台上では毒リンゴを食べてしまった白雪王子様(タカ兄)が倒れているのを姫騎士(シノ会長)が発見するシーンへと移っている。

 

『あぁ、なんと美しい王子様だ!』

 

「確か、キスした際に喉に詰まってた毒リンゴが取れるんだよね?」

 

「あぁ、確かそうだったはず」

 

「じゃあきっと、スロートキスをしたんだね」

 

「そーゆー考察、いいから」

 

「てか、ろくなこと考えないわね、アンタ」

 

「マキは知ってるでしょ。これが私だって」

 

「カッコよく言ってもダメだってば……」

 

 

 付き合いの長いマキに呆れられてしまったが、これが私なんだから仕方ないと開き直って、私は劇の続きを観る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよシノっちがタカ君にキスをする――実際はフリらしいが――シーンになり、私は隣にいるサクラっちに話しかける。

 

「サクラっち、飲み物どぞ」

 

「あっ、どうも」

 

 

 私が手渡したドリンクを受け取り、一口飲んだタイミングで、私の後ろに控えていた畑さんがサクラっちにマイクを向けた。

 

「森副会長、インタビュー良いですか?」

 

「っ!?」

 

 

 ストローで飲み物を吸っていたタイミングでマイクを向けられ、サクラっちは驚いた表情を浮かべた。だが問題は、マイクが音を拾っていた事にあり――

 

『ちゅうううう』

 

 

 ――シノっちが熱烈なキスをかましたような感じになってしまった。

 

「コラーっ! 誰だ濃厚なSEを入れたの! あれはフリだ! 本当にしてないからな!」

 

「あ、あの~ゴメンなさい。実はあの音、私が……」

 

「そんな嘘を吐いてまで事実を捻じ曲げようとは、もしや津田氏の事……?」

 

「畑さん、狙ってましたよね? 劇序盤では貴女の気配は体育館の奥の方にあったのに、あのシーンが近づき、義姉さんが森さんに飲み物を渡す直前、義姉さんの背後に移動し、ストローを吸ったタイミングでマイクを向けた。違いますか?」

 

「……ではっ!」

 

 

 タカ君の圧倒的推理力の前に、畑さんは逃げ去る事しか出来なかったようだ。それにしても、人前ではちゃんと苗字で呼ぶ当たり、タカ君は冷静だなぁ……シノっちは顔真っ赤だけど。




そして余計な事をする畑さん……

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