今朝は一段と冷えるとの予報だったので、母に毛糸のパンツを穿くように言われ穿いたけど、この歳になってこんなパンツは恥ずかしいな……
「(まぁ、誰に見せるでもないし気にしなくても良いか)」
今日は体育もないし、スカートの中を誰かに見られる心配なんてするだけ無駄だったわね。
「萩村さん、こっち向いてくださいーい」
校舎周りを見回りしていたら畑さんに声をかけられたので、私は片手を上げてそれに応えた。ちょうどそのタイミングで――
『ふわり』
――いたずらな風が私のスカートを捲った。
「………」
「あっ、いや、その」
デジカメに収められた映像を見て黙り込んだ畑さんに言い訳をしようとしたが、上手く言葉が出てくれない。その隙に畑さんは校舎内に走り込んでしまった。
「ま、待て!」
畑さんを追いかけようと走り出したが、外履きから上履きに履き替えてた分をロスしてしまい、畑さんを見失ってしまった。
「ど、何処に行った……」
「冗談ですよ、萩村さんはからかい甲斐がありますね~」
「っ! じょ、冗談なら早くデータを消してください」
いきなり現れて驚いたけども、冗談で済むうちにデータ消去をしてしまおうと思ったのだけど、畑さんの手にカメラは無かった。
「今カメラ持ってないのよ」
「はい?」
「廊下を走った罰として会長に没収されちゃった」
「………」
な、なんてこった……よりによって生徒会に没収されるなんて……。これが風紀委員ならデータを見るなんてことしないと言い切れるんだけど、あの面子では誰がカメラを弄るか分からないじゃないの……万が一タカトシに見られたら――
「(ん?)」
そこまで考えて私は、何故タカトシに見られると想像したのだろうと、自分の思考に引っ掛かった。タカトシは人の物を勝手に弄るような人物ではないのだから、そんな心配しなくても良いじゃないか。
「兎に角、生徒会室に取りに行ってデータを消してください」
「放課後まで返してくれないって言ってましたので、私が行っても無駄ですよ」
「偉そうに言うな!」
とりあえず畑さんのカメラを取り戻す為に、私は生徒会室へと向かう。
「戻りました」
「おぉ、萩村。見回りご苦労だったな」
「それでシノちゃん、どうして畑さんが廊下を走ってたか聞いたの?」
「いや、カメラを持って走ってたから、また余計なものを撮ったんだとは思うんだが……」
「ん~?」
「私、デジカメのデータの見方が良く分からなくてな……」
「シノちゃん機械音痴だもんね~」
「………」
こ、この流れは何となくマズい! どう考えてもこの後、七条先輩がカメラを受け取ってデータを確認する流れだ。幸いなことにタカトシはいないけども、それでも見られて恥ずかしいのには変わりはない。
「アリア、ちょっと確認してみてくれ」
「分かった~」
「っ! ちょっとまっt――」
私の静止の声もむなしく、二人は私のパンツが写ったデータを見てしまった。
「いや、母が寒いから穿いてけってうるさくって、ですね……」
「毛糸のパンツってお尻のボリュームを出して身体のライン良く見せるのに良いんだよね」
「……そーそー、私もそれで穿いてたんです」
「え?」
私が七条先輩のコメントに乗っかったので、会長がポカンという表情で私を見詰める……いや、私だってあり得ないとは分かってますけど、そういう理由にしておきたいじゃないですか……
「会長、畑さんがカメラの返却を求めてるんですが……? 何かあったんですか?」
生徒会室にやってきたタカトシは、室内の空気がおかしい事に気付き、首を傾げながら私たちに問うてくる。
「べ、別に何にもないぞ! カメラの件だが、反省させるため放課後まで返さないと言ってあるはずなんだが」
「本人もそう言ってましたが、何でも見られたらマズいデータがあるので、それだけでも消去させて欲しいとの事です」
「じゃあ私が立ち会うから、その条件でなら一時返却しても問題ないですよね?」
私がタカトシの言葉に食い気味に反応したので、タカトシは不思議そうに私を眺めているけども、今はそんな事を気にしてる場合ではない。万が一タカトシが付き添いの下でデータ証拠を行うなんて流れになれば、他に余計なものが無いか検閲する可能性が出てきてしまうのだ。
「そ、そうか……では萩村の監視の下で一時返却を認めよう。萩村、このカメラを畑に届けて、データ消去が終わったらまた生徒会室に持ってきてくれ」
「分かりました」
会長からカメラを受け取り、私は足早に新聞部の部室へとやってきた。
「さぁ畑さん! 今すぐ消去してください!」
「津田副会長にお願いすればこうして返ってくるんですね~」
「一時返却です! 変な事を言うなら今すぐこのカメラに残ってるデータをすべて消去します」
「それは困ります! 分かりました、萩村さんのパ――」
「何を言うつもりなんだ、貴女は!」
他にも部員がいる前で余計な事を言いそうになった畑さんの口を塞ごうとしたけども、私の身長では届かなかった……
「女同士とはいえ、いきなり胸を触るのはどうかと思いますよ?」
「べ、別に触りたくて触ったわけじゃ……」
「分かってますよ。その代わり、この事を記事にされたくなければ、暫くは見逃してもらえませんかね?」
「……私個人で見逃す分には、構いません」
何となく従わなければいけない気持ちになり、私は畑さんとの交渉を終えたのだった。
おそらくタカトシは察してるんだろうがな