桜才学園での生活   作:猫林13世

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量産型なんですが……


ペアの定義

 生徒会の業務をしていると、さっきから会長の作業が進んでいないのが気になり声をかけた。

 

「会長、何か心配事でもあるんですか?」

 

 

 昨日までは普通に作業していたし、今朝も特にいつもと変わった様子が無かったので風邪や病気という事は無いだろうと思い、そうなると何か悩みがあるのではないかと考えての発言だったのだが、会長は驚いたようにこちらに視線を向けた。

 

「何で分かったんですか?」

 

「いえ、あてずっぽうですが……」

 

「実はですね、最近タカ君が姉離れをしてきたのではないかと思いまして」

 

「タカトシ君が、ですか?」

 

 

 元々それ程甘えていたようにも思えないのですが、会長からすれば何か変化があったという事なのでしょう。タカトシ君と義姉弟ではない私には分からない悩みとか、そんな感じの事が。

 

「それで、具体的に何かあったんですよね?」

 

 

 タカトシ君の態度からそう感じているのなら、そもそも最初からだと言えるのだが、それくらい会長だって分かっているだろうから、具体的な何かがあったと確信してそう尋ねた。

 

「タカ君とペアルックをしようと思ったんだけど断られた」

 

「最初からそんな事してくれないって思わなかったんですか?」

 

 

 タカトシ君は真面目な人なので、そんな事をすれば周りにどんな影響を与えるかを考えたりして断ったんだろうな。まぁ、家の中だけなら疑われることも無いから、付き合ってあげても良かったのかもしれないけど……

 

「だって、せっかくコトちゃんも含めてお揃いの服を用意したのに」

 

「恥ずかしかったんじゃないですか? そういう経験が無いと意外と恥ずかしいと思います。私は一人っ子だからそういう経験が無いですし、もしやれと言われたら恥ずかしいと思いますよ」

 

 

 タカトシ君がコトミさんとおそろいの服を着ていたとも思えないし、この歳になって兄妹でお揃いは恥ずかしいだろう。もし私に兄がいて、おそろいの服を着ろと言われたら、間違いなく恥ずかしさから断るだろうし。

 

「でも、恥ずかしがるタカ君が見たかったのに」

 

「じゃあ会長の邪な気持ちがタカトシ君に伝わったんじゃないですか? 恥ずかしい思いをさせたいって気持ちが」

 

「でも、恥ずかしがらせるのが目的だし、強制女装プレイは」

 

「そんな事だったのかよ!」

 

 

 それじゃあタカトシ君に断られて当然だし、そんな事で生徒会業務を滞らせていたのかと思うと、私はつい語気が強くなってしまった。でも会長はそんな事気にして無いようで、もう一度ため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日は英稜高校生徒会と合同で清掃ボランティア活動を行っており、授業中に寝た罰としてコトミも参加させたのだが、元々参加する予定ではなかったので軍手を持っていなかった。

 

「タカ兄、軍手貸して!」

 

「……ほら」

 

 

 文句ばかりでまったく作業しなくなるのが目に見えていたので、俺はコトミに軍手を貸し作業するよう指示する。

 

「そもそも何で私がボランティア活動なんてしなきゃいけないのさ!」

 

「授業中に寝たからだろ? それとも、大人しく留年して家から出て行くか?」

 

「大人しく掃除します!」

 

 

 多少マシになってきたとはいえ、コトミのこれまでの事を考えれば何時留年が決定しても不思議ではない。そして留年したアイツの面倒を見てやるほど、俺も両親も暇ではないのだ。

 

「まったく……」

 

「お兄ちゃんは大変だね?」

 

「サクラ……まぁ、脅せば大人しく作業してくれるだけマシだと思うようにしてる」

 

 

 前はそこまで危機感が無かったのか、脅してもまったくやらなかったからな……

 

「ところで、タカトシ君は手、大丈夫なの? 今日結構寒いけど」

 

「まぁ何とかなるだろ」

 

「良かったら私の軍手使って」

 

「でもそうするとサクラが寒いんじゃないか?」

 

 

 男女差を考えれば、サクラが軍手を使った方が良いだろう。絵的にも何だか変な感じがするし、このくらいなら我慢出来なくもないからな。

 

「大丈夫だよ、予備があるから」

 

「そういえば、常に予備を持ち歩いてるんだっけか?」

 

「うん。まぁ、ものによるけどね」

 

「そりゃそうか」

 

 

 サクラから軍手を受け取り手にはめる。無くても問題は無かったが、あって邪魔になるわけでもないので素直に受け取っただけだったんだが、向こうから凄い形相で義姉さんが迫ってきた。

 

「タカ君、お義姉ちゃんとのペアルックは断ったのに、サクラっちとのペアルックは気にしないんだね」

 

「ペアルック? あぁ、この軍手の事ですか?」

 

 

 俺は義姉さんの前に軍手をはめた手を差し出し尋ねる。

 

「そう! それが大丈夫なら、家の中でくらいお義姉ちゃんと――」

 

「これをペアルックと認識するとは思えませんが? 普通の軍手ですし」

 

 

 どこででも売ってるような軍手と、女物の服を同列視する方こそどうなんだとは思うが、そんな正論で大人しくなる人じゃないしな……

 

「コトミが俺の軍手を持っていったから、サクラが予備を俺に貸してくれただけですよ」

 

「じゃあその軍手を私に貸して。タカ君にはお義姉ちゃんの軍手を貸してあげるから」

 

「……それで義姉さんの気が収まるなら」

 

 

 殆ど意味はない交換だが、義姉さんが心中穏やかに作業出来るならそれで良いか……




嫉妬する程では無いと思うんだがな……

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