桜才学園での生活   作:猫林13世

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そんなこと言えばどうなるか分かるだろうに……


言ってみたかったセリフ

 公正なるじゃんけんの結果、外の見回りは私とタカトシ君のペアになった。じゃんけんで決めると言い出したのはシノちゃんだったけど、この結果に不満を懐いてるようだったな……

 

「アリア先輩? どうかしたんですか?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

 

 私が上の空だったからか、タカトシ君が心配してくれた。こういったちょっとしたことでも嬉しくなっちゃうのは、私がタカトシ君の事が好きだからなんだろうな……

 

「いたっ!」

 

「どうしました?」

 

「ちょっと目にゴミが……」

 

 

 せっかく気分が良かったのに、これじゃあ台無しだよ……

 

「見せてください」

 

「えっ?」

 

 

 気づいたらタカトシ君の顔がすぐ近くに来ていた……一度キスした事あるとはいえ、こんなに近づかれたらドキドキしちゃうよ……

 

「下手に擦らない方がいいですね。ちょっと水を持ってきますから大人しくしててください」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 さすがにゴミを取ってもらうわけにもいかないので、私はタカトシ君が戻ってくる間で大人しく待つ事にした。下手に動いて痛みが悪化するのも困るし……

 

「お待たせしました。これで顔を洗ってください」

 

「ありがとう」

 

 

 タカトシ君が私の手に水をたらしてくれ、私はそれで目の中のゴミを掻きだす。思いのほか簡単に取れたので、下手に目を傷める事は無く済んだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん、もう平気。それじゃあ、見回りの続きを――シノちゃん? スズちゃんに横島先生も」

 

 

 視界が回復したので周囲を見回したら、校舎内の見回りをしているはずのシノちゃんとスズちゃん、そして横島先生が柱に隠れてこちらを見ていた。

 

「何してるの?」

 

「いや、横島先生が『あの二人がキスしようとしてる』とか言い出したから」

 

「それで『顔洗って出直してこい』って意味かもとか言っていたので」

 

「そんなんじゃないよ。目の中にゴミが入っちゃったから、タカトシ君が水を持ってきてくれただけ」

 

「というか、そんなくだらない事で見回りをサボったんですか? 生徒会長ですよね?」

 

「うっ、すまん……だが、乙女にとってはくだらない事じゃないぞ!」

 

「はぁ……それはすみませんでした」

 

 

 あんまり意味は良く分かってないみたいだけど、タカトシ君はとりあえずシノちゃんに謝罪する。確かに想ってる相手が別の相手とキスをするかもしれないと聞かされれば、見回りなんてしてる場合じゃないって思っちゃうかもしれないよね。

 

「それじゃあとりあえず、見回りを再開しよう」

 

「あっ、横島先生は後で生徒会室に出頭してくださいね。見回りが終わり次第お説教です」

 

「何だよ、天草や萩村だって気になっただろ?」

 

「それとこれとは話が別ですので」

 

 

 横島先生をここで叱らず生徒会室に呼び出したのは、タカトシ君なりの配慮なんだろうな……さすがに昇降口で生徒に怒られる教師の図は横島先生にとって後々に響くことになるだろうしね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の授業であった小テスト、結果は目も当てられないものだった……定期テストならタカ兄やお義姉ちゃんがガチガチに対策してくれるお陰でまともな点数になりつつあるけど、こういった突発的なテストでは散々な結果にしかならないのである。

 

「はぁ……」

 

 

 今は珍しくお母さんもお父さんも家にいるので、この結果を見せなければいけないのか……

 

「二人に怒られた後、タカ兄にも怒られそうだよ……」

 

 

 さすがに赤点ではないけど、すれすれの点数じゃタカ兄たちの苦労が何も実になってないという事を証明しちゃったって事だし……

 

「何してるんだ?」

 

「っ!? た、タカ兄……タカ兄も今帰りなの?」

 

「あぁ。今日は生徒会業務も無かったし、横島先生を怒る事も無かったからな」

 

「それってタカ兄の仕事なの?」

 

 

 横島先生は教師だし、生徒のタカ兄が怒るのっておかしいと思うんだけどな……まぁ、あの先生だし、タカ兄だしおかしくないのかもしれないけど。

 

「それで、何をしょぼくれてたんだ? 小テストの結果が芳しくなかったことか?」

 

「何でタカ兄がそれを!? って、先生から聞いたのか……」

 

 

 私の授業態度や小テストの結果は、逐一タカ兄に報告されることになっているようで、私が隠そうとしてもタカ兄には筒抜けなのだ……

 

「今回は私だけじゃなくて、クラスメイトの半分くらいは散々な結果だったんだから」

 

「それも聞いてるが、開き直る事では無いと思うが?」

 

「申し訳ございませんでした!」

 

「お母さんたちにちゃんと見せろよ?」

 

「……怒らないの?」

 

「大人しくお母さんに怒られるなら、俺は怒らない」

 

「タカ兄……」

 

「俺もテストがあったから一応見せるつもりだったし」

 

「そうなの?」

 

 

 それじゃあ、言ってみたかったセリフが言えるかもしれない……言ったところで怒られることには変わりないだろうし、それだったら言う機会なんて無いと思ってたあれを言ってしまおう。

 

「ただいま、お母さん。いい報告と悪い報告があるんだけど、どっちから聞きたい?」

 

「くだらない事言ってないで、素直に怒られとけ。二人だって暇じゃないんだから」

 

「はい……」

 

 

 タカ兄に小突かれて、私は鞄から散々な結果の答案を取り出し、お母さんの前で正座をして一時間怒られたのだった。




詰め込んでおかないとそのままですから……

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