桜才学園での生活   作:猫林13世

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自分は基本なにも入れません


塩入のコーヒー

 最近またしてもストレスが溜まってきたので、そろそろヤンチャタイムのタイミングだと思い、私は四人分のコーヒーを用意し、その内の一つに仕掛けをした。

 

「コーヒーを淹れたぞ」

 

「シノちゃん、ありがと~」

 

「すみません、会長」

 

「………」

 

 

 アリアと萩村は素直にお礼を言ってくれたが、タカトシは何かを見抜いたような顔で私の事を見詰めてきた。

 

「な、なんだ?」

 

「あまり口にする物で遊ぶのは感心しませんね」

 

「タカトシ、どういう事?」

 

 

 タカトシの言葉に萩村が反応し、アリアもコーヒーへと伸ばしていた手を止め、タカトシに視線を向けた。

 

「またヤンチャタイムなんでしょうよ」

 

「今回は何をしたの~?」

 

「この中の一杯に砂糖ではなく塩を入れたんだ」

 

「何でそんな事したんですか」

 

「べ、別に健康に害が出る程はいれていない! 精々小さじ一杯だ」

 

「というか、俺は砂糖いらないんですが」

 

 

 タカトシは元々ブラックで飲む人なので、砂糖入りが当たったとしても外れのようなものなのか……

 

「とりあえず選べ! 飲んだところでちょっとしょっぱいくらいだ!」

 

「はぁ……じゃあこれを」

 

「私はこれ~」

 

「ではこれを」

 

 

 三人がコーヒーをそれぞれ選んで残ったカップを見て、私は思わず固まってしまった。

 

「それが塩入なんですね?」

 

「うん……」

 

「飲む前にオチが分かってしまった……」

 

 

 私が固まった事で、タカトシに外れがバレ、萩村に呆れられてしまった……

 

「それは俺が飲みますので、会長はこれをどうぞ」

 

「だ、だが! これは私が用意したものだし、三人が外れを選ばなかった以上、私が飲むしかないだろ」

 

「そんな引きつった顔で言われても……俺は別に気にしませんので」

 

 

 そう言ってタカトシは塩入のコーヒーが入ったカップを手に取り、そのまま口に含んだ。

 

「どうだ?」

 

「会長が仰っていたように、そんなに気になりませんね。さて、作業を再開しましょう」

 

 

 そう言ってタカトシは作業を再開し、たまに塩入のコーヒーを飲んでいた。

 

「(ああも平然と飲まれると、どんな味だったか気になってくるな……今度家で飲んでみよう)」

 

 

 変な好奇心が湧きあがってきた私は、それを実行した時にそんな事を思った今の私を恨むのかもしれないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この前の小テストで散々な結果だった私は、お母さんとお父さんに怒られ、タカ兄とお義姉ちゃんからの監視が強くなってしまった。

 

「コトちゃん、またゲームしてる」

 

「ちょっとした息抜きですよ~。この通りちゃんと勉強だってしてるんですから」

 

「こことこことここ、間違ってるよ」

 

「三箇所も!?」

 

 

 私としてはちゃんとやったつもりだったんだけど、どうやら間違っていたようだ……やはり自力ではどうにも出来ないのか……

 

「ほら、説明してあげるからゲームを止めて」

 

「セーブポイントまであとちょっとなので、もう少し待ってください」

 

「しょうがないな……」

 

 

 お義姉ちゃんが認めてくれたので、私はセーブポイントまで急いだ。これがタカ兄だったら、問答無用で電源を切られたかもしれないな……

 

「……はい、お待たせしました」

 

 

 無事にセーブが終わり、私は机に戻る。私だって自分の成績がヤバいって事くらい自覚しているし、次の試験で同じような結果だったら補習だって事も分かっている。補習で済むのは、ここ最近タカ兄のお陰で真面目に過ごしていたからで、それが無ければ一発で退学になってたかもしれないのだ。

 

「――というわけだけど、理解出来た?」

 

「ほへ……頭から煙が出てる気分です」

 

 

 集中して説明を聞いていたので、私の頭はパンク寸前まで腫れあがっているようだ。今ならスズ先輩にも不覚をとるかもしれない……

 

「ただいま」

 

「タカ君、お帰りなさい。今日もお疲れ様」

 

「義姉さんもわざわざすみません。ところで、コトミは何で倒れてるんですか?」

 

「今の今まで宿題の説明をしてたから、それでちょっと」

 

「あぁ、そういう事ですか」

 

 

 随分と集中していたようで、タカ兄がバイトから帰ってくるような時間になっていた。というか、第三者目線で二人の会話を聞いてると、なんだか新婚夫婦の会話みたいだな……

 

「義姉さんはこのまま?」

 

「さすがにこの時間までいるつもりは無かったんだけど、今から帰っても遅くなっちゃうし、着替えはコトちゃんのタンスに入ってるから泊っていく。幸いなことに、明日は日曜日だしね」

 

「ではお先に風呂をどうぞ。俺はその間に片づけを済ませておきますので」

 

「そういえば、コトちゃんの相手をしてた所為で食器とかまだ片付けてなかったわね……タカ君、お願いね」

 

「分かりました。コトミ、お前も手伝え」

 

「うへぃ……」

 

 

 何とか言葉を絞り出したけど、タカ兄は呆れた視線を私に向けてくる。そりゃ私だって情けない声だと思ったけど、今日の範囲はそれだけ難しかったんだから大目に見てよ……

 

「コトミ、やっぱり塾に通った方が良いんじゃないか?」

 

「それだけは絶対に嫌! 塾に行くよりタカ兄とお義姉ちゃんに教わった方が集中出来る」

 

 

 塾だと余計な事を考えてしまいそうだけど、二人相手なら余計な事を考えた時点で怒られるので、どっちが勉強が捗るかと言えば間違いなくこっちだ。私はそう断言して、何とか塾通いを思いとどまらせることに成功したのだった。




どっちの会長とも仲がよろしいようで

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