桜才学園での生活   作:猫林13世

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コトミも努力してますが……


日曜日の津田家

 日曜日という事で、私はお昼近くまで惰眠を貪っていたんだけど、今日はお義姉ちゃんがお昼から、タカ兄が夕方からバイトという事で、入れ替わりで私の見張りを担当する事になっているのだ。

 

「コトミ、いい加減に起きろ」

 

「もう起きてるよ……」

 

 

 本当はまだ寝てたいんだけども、タカ兄が怒るから仕方なく起き、私は顔を洗いに洗面所へ降りていく。

 

「タカ兄だから、私が着替えてないって分かって入ってきたんだろうな……」

 

 

 ノックもせずに入ってきたのを考えれば、タカ兄は部屋の中で私がまだベッドに横たわっている事が分かっていたんだろう。壁越しでも中の状況が理解出来るって、本当にタカ兄は凄いんだな……

 

「お待たせ、タカ兄」

 

「言えばやる気になってくれるようになったのは良いが、もう少し自発的に動けないのか、お前は」

 

「それは無理だよ……だって、元々が酷すぎたんだから、これでも頑張ってるんだよ? これ以上は無理だって」

 

「酷すぎた自覚があるのなら、何でもっと早く改善しようとしなかったんだ、お前は」

 

「それはほら、タカ兄が優秀だから、思う存分甘えてたんだと思う……」

 

 

 別にタカ兄が悪いわけじゃないんだけども、優秀な兄を持つとどうしても怠け癖が付いてしまうのだ。まぁ、元々の性格が怠け者だったかもしれないという線も捨てきれないけど……

 

「とにかく留年や退学になったら容赦なく家から追い出すから、そのつもりで勉強してくれ」

 

「毎回言われなくても分かってるよ……この家から追い出されるって事は、私にとっては死刑宣告とイコールなんだから」

 

 

 料理も掃除も洗濯も、どれ一つまともに出来ない私にとって、一人暮らしをしろという事はそれくらいの意味を持っている。タカ兄やお義姉ちゃんの美味しい料理が食べられなくなるのもいたいけども、そもそも生活出来るかどうかも怪しいのだから、何とかしてこの家に留まる方向で頑張るしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ君と交代でコトちゃんの見張りをしていたんだけど、お昼の間にタカ君が頑張ってくれていたお陰で、今日のコトちゃんは何時も以上に頭がさえていた。

 

「――これであってる?」

 

「正解。やっぱりコトちゃんはやれば出来る子だね」

 

「そういってもらえると嬉しいですけど、私もいろいろと懸かってるので……」

 

「ん?」

 

「主に今後の人生が……」

 

「そういう事ね」

 

 

 コトちゃんは勉強の方は改善されてきてるけども、家事全般はタカ君が匙を投げるくらい酷いので、私たちもコトちゃんに家事をさせようとは思わなくなった。その結果かどうかは分からないけども、コトちゃんは全く家事をせずに過ごしているので、この家から追い出されればすぐにゴミ屋敷を作り出すだろうとタカ君と話していたくらいだ。コトちゃんもその事を自覚しているので、この家から追い出されないように、勉強を頑張っているのだという。

 

「とにかく、このままやっていけばブラックリストから外される日も遠くないだろうから、後は遅刻や居眠りを減らしていけば、この家から追い出される恐怖からも解放されるかもよ?」

 

「タカ兄と一緒に登校できる日は遅刻は大丈夫だけど眠くて、遅刻ギリギリの日は大丈夫なんですよね……何ででしょう?」

 

「それはコトちゃんの夜更かし癖が治ってないからだよ……」

 

 

 勉強が終わってからのコトちゃんは、ゲームで日付を跨ぐという事が多々あるのだ。だからタカ君が出かける時間に起きると、眠くて授業中に寝てしまう事が多く、タカ君に置いて行かれると遅刻ギリギリまで寝てしまうのだ。

 

「今日はもうノルマも終わったし、このまま寝たら?」

 

「だってまだ十時前ですよ? タカ兄だってまだ帰ってきてない時間に眠れませんよ」

 

「明日も朝早いんだし、今日から生活習慣を改めれば、遅刻や居眠りの回数も減ってより勉強に集中出来るようになるんじゃないかな?」

 

「……そうですね。まだ眠くないですけど、とりあえずベッドに入ります」

 

 

 そう言って渋々ベッドに入ったコトちゃんだったけども、十分も経った頃、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「普段勉強してない分、頭を使って疲れたのかな……」

 

 

 コトちゃんが寝たので、私はタカ君の部屋にある小説を借りる為にタカ君の部屋に向かった。タカ君から変に荒らさなければ部屋に入ってもいいと許可を貰っているので、私は堂々とタカ君の部屋に入り、この間読んでいた続きから小説を読み始める。

 

「タカ君、今日は遅いのかしら……」

 

 

 時計の針は既に十時を回っており、何時もなら帰ってきてもおかしくない時間だ。だがタカ君はまだ帰ってきていないので、私はタカ君の事を思いながらベッドに横たわった――ここがタカ君のベッドだという事を完全に失念して……

 

「ん……」

 

 

 目を覚まして、私は何時もと違う光景に首を傾げ、すぐに理解した。ここがタカ君の部屋で、タカ君のベッドで寝てしまった事を。

 

「タカ君、ゴメンなさい!」

 

「別にいいですよ。本を読んでる途中で眠くなることは、俺だってありますから」

 

「ありがとう……? タカ君は何処で寝たの?」

 

「そこです」

 

 

 リビングの床を指差したタカ君に、私はもう一度頭を下げたのだった。




ここのタカトシは夜更かししても平気ですし

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