桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシの代わりにあの人が


スズとボアの奮闘

 萩村とその愛犬ボアがドッグフェスに参加するという事で、我々生徒会役員は応援に駆け付けた。

 

「――ところで、何故タカトシではなくカナが?」

 

 

 本当ならここにタカトシがいるはずなのだが、何故か英稜のカナがこの場にやってきたのだ。

 

「タカ君は珍しく帰ってきているご両親の相手と、コトちゃんの面倒を見る為に来られなくなっちゃったので、私がタカ君の名代としてきました」

 

「来られないなら連絡くらいしてくれれば――」

 

「えっ? タカトシ君からメール着たよ?」

 

「えぇ、着ましたね」

 

「なにっ!?」

 

 

 私は慌てて鞄の中の携帯を取り出し、メール着信を確認する。

 

「本当だ……気が付かなかった」

 

「シノっち、女子高生としてそれはどうなんですか?」

 

「う、五月蠅いな! まぁ、タカトシの代わりにカナが応援してくれるなら大丈夫だろう。萩村、落ちついて行けよ」

 

「はい!」

 

 

 ボア君と一緒に開始位置に移動した萩村を見送り、私たち三人は応援席へ移動する。

 

「こうしてみると、色々な犬がいるんだな」

 

「みんな可愛いね~」

 

「アリアっちは確か、猫を飼ってるんですよね?」

 

「うん。今度見に来る?」

 

「時間が合えば、是非に」

 

 

 アリアもカナもこう見えて忙しい人だから、なかなか時間が合わないんだろうな……

 

「あっ、スズちゃんたちの番だ」

 

「なかなか上手くイキが合ってるじゃないか」

 

「二人のイキのタイミングを合わせる難しいよね」

 

「イキを合わせるのが大事ですよね」

 

 

 萩村は真剣にドッグフェスに挑んでいるし、タカトシがいない為私たちの箍が外れているのだろうか。先程から「息」という単語を『イキ』と脳内変換しているような気がしてならない。

 

「なんだか、猥談してる気になってきた」

 

「シノちゃんも? 実は私もなんだ~」

 

「タカ君もスズポンもサクラっちもいませんから、ついつい昔の癖が出ちゃうんですよね」

 

 

 どうやら私だけではなかったので、ほっと一安心だ。

 

「お疲れ様~。かなり息が合ってたね~」

 

「この子が頑張ってくれました」

 

「次はファッションショーだな。衣装はアリアが用意したんだっけ?」

 

「うん。ウチの専属デザイナーに用意してもらったんだ~」

 

「相変わらずアリアっちのスケールの大きさには驚きますね」

 

 

 忘れがちだから仕方ないが、アリアは物凄いお嬢様なのだ。だから専属のデザイナーくらいいても不思議ではないのだが、私もカナもその事に驚いてしまう。

 

「じゃーん!」

 

「ダメージシャツってやつですね」

 

 

 アリアが取り出したのは、所々破れているシャツで、萩村はお洒落だと感じたらしい。

 

「えっ? 恥部強制露出服だけど」

 

「……タカトシがいたら怒られるって思わなかったんですか?」

 

「これくらいは冗談の範囲だと思うんだけどな~」

 

「大会の趣旨を理解しろ!」

 

 

 萩村の絶叫がこだまし、他の参加者やその関係者が一斉にこちらを見る。注目されるのには慣れているつもりだったのだが、案外恥ずかしいな……

 

「アリア、とりあえず謝っておけ」

 

「ゴメンなさい」

 

 

 素直に頭を下げたアリアに満足したのか、萩村の怒気は下がり仕方なくではあるだろうが、アリアが用意した衣装をボア君に着せた。

 アリアの用意した衣装のお陰かは分からないが、無事に萩村とボア君のペアが優勝した。

 

「おめでとー、頑張ったね」

 

「いえ、この子の頑張り……ギャー!? 服が土塗れに! お前またやったな!」

 

「犬は臭いを消す為に身体を地面にこすりつけるらしいからな」

 

 

 なんとも騒がしい感じになったが、これはこれで萩村らしいのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く優勝の余韻に浸っていたけど、気付いたらスズポンが眠ってしまっていた。

 

「どうしましょうか…荷物は私が持っていきますが」

 

「私はトロフィーを」

 

「私はボア君を」

 

 

 他の荷物はどうにかなるけど、スズポン自体はどうしたものかと悩んでいると――

 

「お疲れさまです」

 

「タカ君? どうしたの?」

 

 

――タカ君が会場にやってきていた。

 

「いえ、たまにはコトミの相手をすると母が言いまして、手持無沙汰になったので応援に来たんですが」

 

「無事に優勝したよ」

 

「みたいですね。辛うじて表彰式には間に合ってましたので」

 

「じゃあ早く合流してくれればよかったのに」

 

「いえ、皆さんの暴走に巻き込まれたくなかったので」

 

 

 どうやら私たちの箍が外れているのに気付いていたようで、タカ君はあっさりとそう言い放った。

 

「本当なら合流せずに帰るつもりだったんですが、スズが寝ちゃったようでしたので」

 

「お前、何処から見ていたんだ?」

 

「あっち側です」

 

 

 シノっちと話しながらも、タカ君は素早くスズポンを背負い私たちを促した。タカ君を先頭に私たちはスズポンの家を目指し進む。

 

「タカトシ君が来てくれて助かったよ~。もしいなかったら、出島さんに電話しようかとも考えてたんだけど」

 

「それでも良かったかもしれませんが、困っているのが分かったから手伝いに来ただけです」

 

「スズポン、心なしか幸せそうな表情ですね」

 

「睡眠聴取が出来るから、自分がタカトシに背負われているのが分かってるんじゃないか?」

 

「そうかもね~」

 

 

 タカ君におんぶしてもらえるなんて羨ましいけども、どことなく遊び疲れて寝てしまった小さな妹をおんぶしてるお兄ちゃんにも見えるんだよね……声に出したらスズポンに知られちゃうから、あえて黙ってるけども。




おんぶされるスズの図……

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