桜才学園での生活   作:猫林13世

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なったところで……


マネージャー就任

 この間行った家庭科の評価を渡され、私はガックリと肩を落とす。

 

「実技の評価がC……家事系って苦手なんだよねー」

 

「兄貴に頼り過ぎなんじゃね?」

 

「トッキーだって、タカ兄の技術の高さは知ってるでしょ?」

 

「まぁ、何度もお世話になってるし」

 

 

 勉強の方はタカ兄やお義姉ちゃんのお陰で何とか平均くらいまで取れるようになっているけども、家事のスキルは全く成長していないのだ。

 

「どうやったら出来るようになるんだろう」

 

「経験積むしかないんじゃね? まぁ、あの兄貴がお前に家事をやらせるとは思えんが」

 

「だよね……」

 

 

 トボトボと歩いていた私だったが、掲示板に貼られている一枚の紙が目に留まった。

 

『柔道部マネージャー募集! 仕事内容、洗濯・掃除など』

 

「よし、ここで経験値を稼ごう!」

 

「え?」

 

 

 柔道部所属のトッキーは、私がマネージャーを志願した事にちょっと引き気味だったけども、柔道場に行ってムツミ先輩に事情を話したら快く引き受けてくれた。

 

「――というわけで、待望のマネージャー、津田コトミさんです」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 部員の前で挨拶をし、私は正式に柔道部のマネージャーに就任した。

 

「君の仕事は部室の掃除、道着の洗濯――」

 

「基本ですね!!」

 

「ライバル校の情報収集」

 

「スパイですね!!」

 

 

 ムツミ先輩から仕事内容の説明を受け、私は早速掃除を開始しようとした。でも――

 

「ところで、タカトシ君の好きな食べ物って?」

 

「主将が私的な情報収集してるぞ」

 

 

――ムツミ先輩にそんな質問をされた。

 

「えっ、グミとか」

 

「いや、そういうのじゃなくて……」

 

「タカ兄って、基本的に好き嫌いが無いですから、妹の私でも好物は分からないです」

 

「そうなんだ……」

 

 

 何故かムツミ先輩がガッカリしてるけども、タカ兄にアピールしたいのなら好物で釣るよりも栄養バランスが良いお弁当の方が評価が高いと思うんだけどな……

 

「それじゃあ私は部室の掃除に行ってきます」

 

 

 高らかに宣言して柔道場から部室に移動し、掃除を始めたのは良かったんだけども、普段掃除なんてしてないから大変だなぁ……

 

「コトミ、頑張ってるかー?」

 

「シノ会長……腰が痛いです」

 

 

 シノ会長たちが様子を見に来てくれたけども、普段雑巾がけなんてしないから、変な所に力が入って腰が痛くなってきた……

 

「私の掃除機を貸してあげるよ」

 

「何でそんなもの持ってるんですか?」

 

「昔、掃除機○ナに興味があって持ってきたんだけど、持って帰るの忘れてたんだ~」

 

「どのみち校則違反なので没収します」

 

「待ってタカ兄! せめて正しい使い方をしてから没収して……これ以上は腰がもたない」

 

「情けない奴……代われ」

 

 

 タカ兄に雑巾を手渡し、私は腰を伸ばしたりストレッチをしたりで痛みを和らげる。そんな事をしている間に、部室が綺麗になっていた。

 

「相変わらずタカ兄の家事スキルはすさまじいものがあるね……」

 

「おーい、マネージャー!」

 

「はーい!」

 

 

 柔道場から声を掛けられ、私は急いでそっちに移動する。

 

「道着がほつれててな。直せるか?」

 

「やってみるよ。糸は何時も持ってるし」

 

 

 トッキーの道着の脇がほつれているので、私は糸を取り出した。

 

「用意いいわね」

 

「鋼糸の使い手(設定)なので」

 

「馬鹿な事言ってないで、針と糸を貸せ」

 

 

 タカ兄に怒られ、私は糸と針をタカ兄に手渡す。するとあっという間にほつれを直してしまった。

 

「これで大丈夫かな?」

 

「あっ、はい。問題ないっす」

 

「タカトシ君、柔道部のマネージャーやらない?」

 

「えっ、それは私ですよー!」

 

 

 ムツミ先輩が本気でタカ兄に交渉を始めそうになったので、私は二人の間に割って入り勧誘を中止させた。

 

「そもそも俺に女子部のマネージャーは出来ないよ」

 

「タカ兄なら問題ないと思うけどね。女子以上にお母さんっぽいし」

 

「お前がもう少し出来れば、俺だってこんな風にはなってなかっただろうがな」

 

「ソレハタイヘンダネ……」

 

 

 タカ兄にジト目で睨まれたので、私はゆっくりと視線を逸らせた。

 

「まぁ、半分は冗談だけどね。それじゃあコトミちゃん、私たちはシャワーを浴びてくるから、洗濯よろしく」

 

「全部洗っておいてくれ」

 

「はーい」

 

 

 籠に入っている衣類を全て洗濯機に入れ、私は洗濯を開始する。これくらいなら何とか出来るから、ここから少しずつ成長していこう。

 

「ふぅ、さっぱりした」

 

「あれ、パンツは?」

 

「え?」

 

 

 全部洗っておいてと言われたので、当然籠の中にあったパンツも洗濯機の中で洗われている。柔道部全員の時が止まったような錯覚に陥り、私は頭を下げた。

 

「ゴメンなさい……」

 

「言い訳せず非を認めるのはいい事だよ。これからもよろしくね」

 

「はい!」

 

 

 若干恥ずかしそうに歩いているけども、見た目ではノーパンだって分からないし、ムツミ先輩は怒らずに済ませてくれた。

 

「これからしっかりと汚名挽回します!」

 

「名誉挽回、汚名返上だ、おバカ娘が……で、何かやらかしたのか?」

 

「げっ、タカ兄」

 

「何かあったのか?」

 

 

 さっき別れた会長たちと鉢合わせしてしまい、私は何て答えようか頭を悩ませる。すると――

 

「実は全員、パンツ濡らしちゃって」

 

「なにっ!?」

 

「お前はもっと言い訳しろ!」

 

 

 ムツミ先輩が盛大に自爆したのだった……




おバカなのは相変わらず……

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