桜才学園での生活   作:猫林13世

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別に気にする事では無いと思う


パーソナルスペース

 心理学の本を読んでいたら、私はとあるページで手が止まった。

 

「(パーソナルスペースか……)」

 

 

 人が持つ心理的縄張りであり、距離によって親密度が分かる、という記述を見て、私は生徒会メンバーとの心理的距離はどのくらいだろうと考える。

 

「(好感度高い相手なら接近も許せるわけか……そうなると、私と生徒会メンバーとの距離は近いのか?)」

 

 

 普段の距離感を思い返してみたが、どうにもあやふやな感じがする……

 

「(実際に近づいてみれば分かるか……)」

 

「会長――」

 

「っ!? コトミ、何時の間に」

 

 

 確かにコトミには気を許している節はあるが、接近に気付かない程集中していたというのか……

 

「フフフ、気配消していましたからね」

 

「あっ、うん……」

 

 

 相変わらずの厨二発言に、どう反応して良いのか困ってしまった。

 

「何の本を読んでるんですか?」

 

「心理学の本だ。パーソナルスペースについて考えてた」

 

「パーソナルスペース? 何ですか、それ」

 

「お前が好きそうな単語だと思うんだがな……」

 

 

 コトミに説明しているとアリアが生徒会室にやってきたので、私はちょっとずつアリアとの距離を詰めた。

 

「シノちゃん、何か用?」

 

「いや、別にそういうわけじゃないんだが……」

 

「あっ、ひょっとして臭う?」

 

「いやいや。どちらかというと、少し甘い匂いが……」

 

 

 また香水を変えたのだろうか? この前まではこの匂いじゃなかったと思うんだが……

 

「あーやっぱり。最近出島さんとハチミツプレイにはまってて」

 

「……タカトシには言えないな」

 

「お願い! 秘密にしておいて」

 

 

 出島さんに影響されやったんだろうけども、タカトシに知られればジト目を向けられそうなことだしな……まぁ、タカトシが怒っても出島さんは反省しないどころか興奮するだろうしな……

 

「お疲れさまです」

 

「スズちゃん、お疲れさま」

 

 

 アリアとの距離感が分かったところで、次は萩村が生徒会室にやってきた。萩村は自分の席に座り作業を開始したので、私は普段タカトシが座っている席に腰を下ろし、ちょっとずつ萩村との距離を詰める。

 

「(ち、近い……何で……いや、まさか)」

 

 

 萩村が私の事をチラチラと見てきているが、別に逃げる素振りを見せないという事は、私が萩村のパーソナルスペースに侵入しても不快ではないという事か。

 

「(確か、ボディタッチ出来れば親密度は高い、だっけ)」

 

 

 私は作業している萩村にボディタッチをすべく手を伸ばした。

 

『スリスリ』

 

「(会長がご乱心だーっ!)」

 

 

 焦ったような表情を浮かべているが、手を払う事をしないという事は、私のボディタッチが不快じゃないということか……

 

「何してるんですか?」

 

「うひゃ!? た、タカトシ、何時の間に……」

 

 

 萩村にボディタッチしていたら、タカトシがいつの間にか私の側に来ていた。接近に気付けなかったのは少しショックだが、タカトシにとって私はパーソナルスペースに侵入しても不快ではない相手という事か。

 

「スズの脚を触り始めたころですかね。ところで、何で俺の席に座ってるんですか?」

 

「いや、少し萩村との距離を測っていたんだ」

 

「精神的距離ですよね? ではなぜ肉体的距離を詰めていたのでしょうか?」

 

「パーソナルスペースにどれだけ侵入出来るか試していたんだ」

 

「あっ、そういう意味だったんですね……」

 

 

 私の説明に、タカトシではなく萩村がホッとした様子を見せた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、会長が目覚めたのかと思いまして」

 

「目覚め? ……あぁ、私に百合属性は無いから安心しろ」

 

 

 よくよく考えたら、私が触っていたのは萩村の脚――というか腿だ。見方によっては同性愛者のスキンシップにも見えなくはないのか。

 

「改めて確認するまでもなく、このメンバーならある程度パーソナルスペースに入ってきたとしても不快に思う事は無いと思いますが」

 

「そうだな。しょっちゅう一緒に行動している間柄だし、これだけ密着しても不快に思われる事は無いか」

 

「そうですね。ところで、さっきから窓の外にいる畑さんの対処はどうしましょう」

 

「何っ!?」

 

 

 タカトシに言われて漸く私は、窓の外から生徒会室を覗き込んでいた畑の存在に気付いた。

 

「『会長乱心!? ロリっ子会計にセクハラ?』って記事を書こうと思うのですが」

 

「そんな事実はない!」

 

「ロリって言うな!」

 

「ですがこの映像を見る限り、会長が萩村さんにセクハラをしているようにしか見えませんよね~?」

 

 

 畑が取り出したカメラには、私が萩村にボディタッチをしてる映像が保存されている。確かにこれだけ見れば私がセクハラしてるようにしか見えないな……

 

「消去、っと」

 

「あーん、せっかく撮ったのに~」

 

「というか畑! 屋上からロープをたらして生徒会室を覗くなとあれほど言っただろうが!」

 

「スクープの為ならこれくらいの危険は危険じゃありませんので」

 

「我々の注意を聞き入れないというのであれば、新聞部は活動休止にするしかないな。部長が率先して問題行動をしているわけだし」

 

「それだけは勘弁してください! 今後はしない方向で調整しますので!」

 

「……出来れば二度としないと言い切ってもらいたいがな」

 

 

 とりあえず畑の捏造記事を事前に止められたので、今回は不問にしておこう。




いくら親しくても、近づきすぎは不快です

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