桜才学園での生活   作:猫林13世

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頑張ってるんだかいないんだが……


マネージャー奮闘記

 普段勉強で頭を使わないからなのか、私は今困った状況に陥っている。領収書の計算をしていたら、今学期使える部費がほとんど残っていないことに気が付いたからだ。

 

「今月、もう一回遠征があるのに……」

 

 

 遠征といっても、場所は英稜高校なので交通費の問題はない。問題は食費だ。私が大食いチャレンジで何とかするにしても、これだけの人数の食費を賄えるだけの資金が無い……

 

「大門先生に相談してみよう」

 

 

 私は柔道部顧問の大門先生に事情を説明し、新学期までの残りをどうするかの相談をする。

 

「――というわけなのですが」

 

「そうだな……せっかくマネージャーが入ったんだ。弁当を用意してもらうというのはどうだ? 人数分を店で、となればそれなりに費用は掛かるが、食品などを安く仕上げてもらえば、人数分を用意するだけの予算は残ってるだろうしな」

 

「そうですね。ちょっと相談してきます」

 

 

 大門先生から解決策を授かった私は、すぐに道場に向かいマネージャーのコトミちゃんに相談する。

 

「――というわけで、今週末の遠征のお弁当、用意してもらえないかな?」

 

「そうですね……」

 

 

 本来のマネージャー業務ではないが、コトミちゃんが柔道部マネージャーになったのは、家事スキルを磨くためだとトッキーから聞いているので、これもいい経験になるんじゃないかと思っている。

 

「分かりました。何とかしてみます!」

 

「ありがとう! 出来るだけ安く、美味しく、量が多いと助かるかな。来月からは予算編成で部費も増えるから、今回だけだと思うから」

 

「はーい」

 

 

 コトミちゃんの好い返事を聞けて、私は安心して練習に戻れた。コトミちゃんの料理レベルが壊滅的だったという事をすっかり忘れて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムツミ先輩からお弁当を頼まれたので、私は家に帰りすぐに頼れる人に相談した。

 

「――というわけなんですが、何とかなりませんかね?」

 

「……帰ってくるなり人の部屋に駆け込んできたと思ったら、何でそんな事を引き受けたんだ、お前」

 

 

 エッセイの最終調整をしていたので、眼鏡姿のタカ兄に土下座して相談すると、そんな返事をされた。それにしても、我が兄ながらこの眼鏡姿の破壊力の高さ……見ただけで絶頂しそうだよ。

 

「それで、予算はどのくらいなんだ?」

 

「えっとね……」

 

 

 ムツミ先輩から預かった残りの部費を取り出しタカ兄に見せる。その金額を見てタカ兄はすぐに何個かのレシピが頭に浮かんでいるのか、無言で空を見詰めている。事情を知らない人が見たらちょっと危ない人とも見えなくもないが、タカ兄がこういう仕草をしてる時は解決策が浮かんでる時なので、私はタカ兄が何かを言うまで黙って見詰める事にした。

 

「三葉の分もと考えると少し厳しいが、何とか出来ない事はないだろう。だが、お前が作れるかという問題を度外視すれば、だがな」

 

「やっぱそうなりますよね……そこで物は相談なのですが――」

 

「どうせそういうと思ってたから、お前には買い出しを手伝ってもらう。今回は仕方ないが、今後は自力でどうにかするように」

 

「さすがタカ兄。私が何を言いたいか分かってるなんて」

 

 

 さすがに遠征で食べてもらうお弁当を、私の壊滅的な料理で済ますなんて出来るわけがない。だからタカ兄に手伝ってもらうか、いっそのことタカ兄に作ってもらえないか交渉するつもりだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英稜へ遠征に出かけたが、部長の手違いでメシ代が残っていなかったのでマネージャーに用意させたという。

 

「(マネージャーってコトミだろ? アイツ料理なんて出来なかったんじゃ……)」

 

「お待たせしました~。安くて、美味しくて、量が多いお弁当です」

 

「何だそれ……」

 

 

 コトミが弁当箱を取り出し、そんな事を言ったので思わずツッコんでしまった……というか、この量って部長の分もあるのか。

 

「あっ、これ三葉先輩専用のお弁当箱です。周りの事は気にせず思う存分食べてください」

 

「あの予算で随分用意できたんだね」

 

「安くていい店を知っていたので(タカ兄が)」

 

「(あぁ、兄貴が知ってたのか)」

 

 

 コトミがそんな事を知ってるわけがないので、私は勝手にそう決めつけた。あの兄貴なら少ない予算でこれくらいの準備が出来ても不思議ではないしな……ん?

 

「(この味って、兄貴の料理じゃねぇ?)」

 

 

 一口食べて、私はこの弁当を用意したのがコトミではなく兄貴だと確信した。一口食べただけで分かるなんて、私も相当兄貴に面倒を見てもらってるという事か……

 

「おいコトミ、ちょっと」

 

「なに、トッキー?」

 

 

 コトミを連れ出し、私は今思った事を尋ねた。

 

「あの弁当、兄貴が作っただろ?」

 

「うっ……やっぱトッキーにはバレたか……」

 

「一口食べれば分かるっての」

 

「さすがにいきなり上手くなる事は出来ないからね……今後精進するという事で、今回はタカ兄にお願いしました」

 

「まぁ、お前の料理の腕に関していえば、兄貴も一度匙を投げているわけだしな……」

 

「うん……今後こういう事があるかもしれないっからって事で、心を入れ替えてタカ兄に師事する事にしたよ」

 

「まぁ頑張れよ(兄貴)」

 

 

 コトミにエールを送るフリをして、私は兄貴にエールを送ったのだった。だって、この問題児を更生出来るのは兄貴しかいねぇし……




トッキーもだいぶタカトシ色に染まってるな……

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