桜才学園での生活   作:猫林13世

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運動不足で良いのか?


運動不足解消法

 生徒会室で作業していて、私はふとタカトシに視線を向けた。相変わらず真面目な表情で書類を処理している姿はいくら見ても飽きない。

 

「……何か用でしょうか?」

 

「いや、どうやったらそんな風に処理出来るのかと思っただけだ」

 

「はぁ……俺の事を羨む必要は無いのでは? 会長だって相当早いと思いますし」

 

「そうだろうか?」

 

 

 私の手元にはまだ数件の書類が残っているが、タカトシの方は既に片付いている。私の方が先に作業を始めたというのにこの差……しかもタカトシの方が処理した量が多いのも気になる。

 

「萩村もだが、次期生徒会も優秀で私は嬉しい反面、優秀過ぎて立場が無いように思えるんだ」

 

「シノちゃん気にし過ぎだよ~。横島先生曰く、今の生徒会が歴代最高なんだって」

 

「あの人に言われても嬉しくないぞ」

 

 

 恐らく歴代最低の生徒会顧問だろうしな……そもそも生徒会顧問としての役目を全く果たしていないわけだし。むしろタカトシに怒られている時の方が多いな。

 

「というか、何で俺の作業速度なんて気にしてたんですか?」

 

 

 作業が終わったので、タカトシがお茶を淹れてくれた。アリアが淹れてくれるお茶も美味しいが、タカトシが淹れてくれたお茶は格別なので、私は一旦作業の手を止めてお茶を飲む。

 

「タカトシ並みの速度で作業が出来れば、運動不足にならないのかなと思っただけだ」

 

「運動不足、ですか?」

 

「シノちゃん、もしかして――」

 

「おっと、それ以上は言うな。念の為言っておくが違うからな」

 

 

 断じて太ってなどいない。ただちょっとむくんできたかもしれないとは思っているが、断じて体重は増えていない! 体重計に乗ってないけど……

 

「だったら片足立ちを試してみれば? 片足立ち二分でウォーキング五十分の運動効果が得られるって聞いたことがあるよ~」

 

「それは効率がいいな。だが、運動した気になっただけで、効果なかったというのは困るしな……普通に運動した方が何と言うか……達成感があるような気もする」

 

「なら普通にウォーキングすればいいのでは?」

 

「生徒会作業と勉強、それに加えて運動か……ますます忙しい日々を送る事になりそうだな」

 

「そうですか? 合間合間に運動すれば、そんなこと無いと思うんですが」

 

「タカトシ君はバイトの行き帰りとか、家事の合間に走ってるんだっけ?」

 

「まぁ、それ以外でもやってますけど、合間でやってるのはそれですね」

 

「主夫の時間の使い方を真似ろと言われても難しいんだが」

 

「ですから、主夫じゃないですって」

 

 

 タカトシは毎回否定するが、どう考えても主夫なんだよな……だって、そこんじょそこらのお母さんよりお母さんしてるわけだし……料理も私たちより上手いし……

 

「また柔道部に体験入部してみる?」

 

「いや、本気で大会を目指してる三葉たちの邪魔にしかならないだろうし、それは止めておこう。コトミに管理されるのも何となく嫌だし……」

 

「コトミちゃん、マネージャー頑張ってるって聞いてますが」

 

「萩村……」

 

 

 いたのすっかり忘れてた……いや、断じて視界に入らなかったから忘れてたわけではなく、会話に入ってこなかったから忘れていたのだ。だから睨むのは止めてもらいたい……

 

「やっ!」

 

「畑か……今日は何をやらかしたんだ?」

 

「決めつけは困ります。せっかくいいダイエット法をお教えしようと思ったのに」

 

「なにっ!? あっ、いや……別に太ったわけじゃないからな」

 

 

 畑の言葉に喰いついた私に対して、タカトシと萩村の冷たい視線が突き刺さったので、私は慌てて否定する。なんだか背筋に冷たいものが伝ったような気もするが、気のせいだという事にしておこう。

 

「こうやって津田副会長や萩村さんに冷たい視線を向けられれば、冷や汗を掻くでしょう? それでカロリーを消化すれば、運動なんてしなくても効率よく――」

 

「精神的疲労が半端ないから別の方法で」

 

 

 断じて太ってなどいないが、そんな事を毎日繰り返していたら、いつの間にかそれが快感に変わって意味が無くなって……ではなく! 精神的に参ってしまうかもしれないのだ。

 

「だったらこの天草会長の隠し撮り写真を校内のあちこちに隠しますから、それを探す事で運動を――」

 

「はい、消去っと」

 

「せっかく撮ったのに~」

 

 

 アリアと萩村が畑を羽交い絞めにして、タカトシがデジカメを取り上げて私に手渡す。一連の流れだが随分とスムーズになったもんだ……

 

「お前もこういったくだらない事を撮ってないで、何か別の事に熱意を向けられないのか?」

 

「生徒が気にしている事に全力を注ぐのが私のポリシーですから! 天草会長の秘密を一つでも暴き出せれば、それが達成感に繋がるのです! ちなみに、会長は先月より少しですがふt――」

 

「畑、お前とはじっくりと話し合う必要があるようだな。悪いがアリア、残りの作業は任せる」

 

「は~い。頑張ってね~」

 

 

 畑の口を押え、襟首を掴んで生徒会室を出て行く私を、アリアは笑顔で、タカトシと萩村は苦笑気味な表情で見送った。まぁ、今の私は鬼気迫る雰囲気だし、あの表情も仕方ないだろうな……




畑さんの方法は……

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