桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシのけ者回


体力テスト

 新学期になり、今日は体力テストが行われる。普段頑張らない連中も、ここで頑張るというよく分からない光景が繰り広げられるのだ。

 

「我々も頑張るぞ!」

 

「変に頑張らなくても良いんじゃないですか? 普段通りやってれば」

 

「タカトシはそれでもいいかもしれないが、普段サボってる疑惑を向けられている私としては、ここで頑張ってる姿を見せておかないと」

 

「また畑さんの捏造記事ですか……」

 

「それもあるが、タカトシと萩村が優秀過ぎて、私とアリアが楽をしているという噂もあるんだ。だから今日の為にスタミナが付く物をたくさん食べてきたから、今日一日くらい何とかなるさ!」

 

 

 ここからは男女別で行われる。何故なら身体の数字に関わるモノを測るからだ。

 

「くっ、伸びてない……」

 

「私もあんまり伸びてないな~」

 

「………」

 

「会長?」

 

 

 測定器の前で固まった私を心配そうに見つめる萩村。さっきまで萩村の事を似たような目で見ていた自分を殴り飛ばしたい。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

「何かあったの?」

 

「うん、まぁ……乙女の秘密かな」

 

「はぁ?」

 

 

 反復横跳びの場で合流したタカトシが萩村の説明を受けて首を傾げているが、こればっかりは男子には分からない悩みだろう……というか、タカトシには関係ない悩みだろう。

 

「あっ、タカ兄」

 

「コトミか」

 

「いや~最近勉強だ家事だマネージャーだで忙しいからか、体重が落ちちゃって」

 

「お前は食っちゃ寝してたんだし少しくらい痩せた方が健康的だろ。そもそも、お前の身長に対してあの体重は多すぎだ」

 

「そんな事ないよ~。というか、何でタカ兄が私の体重を知ってるの?」

 

「見ればだいたいわかるだろ」

 

「いや~、そんなスキルがあるのはタカ兄だけだって」

 

 

 なん…だと……タカトシは人を見るだけでだいたいの体重が分かるというのか……ということは、今の私の体重もタカトシには丸わかりということで……

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

「おっ、会長がラストスパートだ」

 

「何かあったのか?」

 

「……乙女の悩みよ」

 

 

 今の兄妹の会話を聞いていた萩村が、同情的な目を私に向けてくる……頼むから憐れむのだけは止めてもらいたいものだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノちゃんが奮闘しているのを見て、私ももう少し頑張った方がいいのかもしれないと思い、シノちゃんの半分くらいの気合いで反復横跳びに挑んだんだけど、男子生徒の殆どが前かがみになって何処かに行ってしまった。

 

「どうしたんだろう?」

 

「七条さん」

 

「あっ、カエデちゃん」

 

 

 何やら頭を抑えたカエデちゃんが話しかけてきた。何かあったのかしら……

 

「やる気を出す事は悪い事だとは言いませんが、もう少し周りの目を気にしていただけないでしょうか。風紀委員の男子から、相談されたので」

 

「えっと……私、何かやっちゃったの?」

 

「七条さんとしては悪気があったわけではないと分かっているのですが、その……七条さんの胸はその……」

 

「胸?」

 

「これがその映像だけど、見ます?」

 

 

 私とカエデちゃんの間にヌッと割り込んできた畑さんが見せてくれたものは、確かに男子生徒を前かがみにさせてしまっても仕方がないと思えるくらいのものだった。そして、一緒に覗きこんだシノちゃんとスズちゃんがショックを受けてしまった。

 

「とりあえず、この映像は消去させてもらいます」

 

「せっかく撮ったのに~」

 

 

 カエデちゃんがカメラを取り上げて削除してくれたけども、こればっかりはどう気を付ければ良いのか分からないし……

 

「何かあったんですか?」

 

「お前は大丈夫だったんだな」

 

「はぁ?」

 

「いや、お前はそういうやつだったな」

 

「何なんですか、いったい……」

 

 

 またしてものけ者にされてしまったタカトシ君だけども、今ばっかりは仲間に入れられないよ……そもそも、タカトシ君にあんな姿を見られたなんと思うと、恥ずかしくて逃げ出したくなるし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリア先輩の破壊力の高さによって体育館から人が減ったので、私たちはスムーズに体力測定を進められるようになった。確かにあの破壊力は凄かったけども、私だって負けてないと思うんだよね。

 

「――というわけなんだけど、どう思うトッキー?」

 

「知るか! というか、そんなくだらない事を考えてる暇があるなら、さっさと終わらせてこいよ」

 

「わかった。でも、アリア先輩に負けないように、私も本気を出す時が来たようだな」

 

 

 錘入りのリストバンドを外し、私は本気モードになる――という設定だ。実際はそれ程重くないし、着けたままでも十分に運動できるのだ。

 

「またくだらない事を……」

 

「あっ、タカ兄。タカ兄は大丈夫だったの?」

 

「何がだ」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 

 タカ兄がアリア先輩の乳揺れ程度で動揺する漢じゃないって分かってたんだけど、全く気付いていないというのも雄としてどうなんだろう……

 

「ゴメンね、時さん。こんな妹の相手をいつもしてくれて」

 

「いえ、私こそお世話になってますので」

 

「トッキー、タカ兄の前だと大人しいよね」

 

「うっせぇ! 良いからさっさとやってこい!」

 

「はーい」

 

 

 トッキーも乙女なんだし、少しくらいときめく権利はあるけど、多分そういう感情じゃないんだろうな……

 

「(というか、トッキーをお義姉ちゃんって呼ぶ日は来ないで欲しいかも……)」

 

 

 いろいろと複雑だし、トッキーも異性として意識してるわけじゃないだろうし……




見てても大丈夫だっただろうけど、見られた側が気にするので

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