今日は朝から忙しかった。まず朝会で壇上で立ち、授業中はやたらと指名され、昼休みと放課後は生徒会の仕事で空き教室の片付けと、休む時間があまり無かったのだ。
「いや~、今日は立ちっぱなしで大変でしたよ」
「何!? 早く処理してくるんだ!」
そう言って会長が取り出したのはトイレットペーパー……今何処から出したんだろう?
「ところで、何でトイレットペーパー?」
「だってずっと立ってたんだろ? 溜まってるんじゃないのか?」
「……アンタ俺の活躍見てなかったのか!」
意味が漸く分かったのでツッコミを入れる。何でこの人は全てを卑猥な意味として捉えるんだろうな……それが無ければ立派な人だと思うんだが……
津田と七条先輩と廊下を歩いていると、窓から何かが動いたのが見えた。
「如何かしたの?」
「今何か動いたような……」
「犬だね。ほらあそこ」
津田が指差した先には、確かに犬が居た。今の時代野良犬なんているのかしら……それとも何処かの犬が迷い込んできたとか?
「何処何処~? ……そんな人居ないよ?」
「いえ、本物の犬ですから。人って何ですか……」
津田が呆れながらもしっかりとツッコミを入れる。今日も津田のおかげで私は楽が出来ていいわね。
「萩村、何か俺の顔についてるの?」
「いや、ただありがたいな~って思って」
「?」
津田は不得要領顔で首を傾げたが、深くは追求してこなかった。
生徒会室に戻ると、風紀委員長の五十嵐先輩が何かを持って待っていた。
「如何かしましたか?」
「カエデちゃんが来たって事は、何か問題でもあったの~?」
「いえ、委員会の活動報告書を持って来たのですが、天草会長が居なくって」
「会長なら今日は家の用事とかで遅れるって言ってました」
五十嵐先輩に説明すると、何故だか津田の方を向いて頬を赤らめ始めた。
「何です?」
「あの……これ、受け取ってください!」
「はぁ……確かに受け取りましたが、何か誤解呼んでませんこれ?」
「え?」
津田が指差した方には、カメラを構えてしたり顔の畑さんが居た。ホントあの人は神出鬼没な人ね……
「良い絵が撮れたわ。風紀委員長が副会長に愛の告白……見出しはこれで決まり! あら? 副会長が居ない……」
言われればそうね……津田は何処に行ったのかしら……
「畑さん、貴女はホント懲りない人ですね」
「ッ!?」
何時の間にか背後に回られて、畑さんは震え上がった。離れてた私でも怖いんだ、畑さんが感じた恐怖はどんなものなんだろう……
そのまま畑さんを連行していった津田の代わりに、用事が済んだ会長が生徒会室にやって来た。
「おはよう! って萩村、そこ破れてるぞ」
「え……あっ、ホントだ。何時破れたんだろう」
タイツの膝の辺りが切れていて、何時切れたのかも分からない。これはもう駄目ね……
「どれどれ?」
何故か部屋に居た横島先生が、私の目の前でしゃがむ……そして徐に私のスカートをたくし上げた。
「別に破れてないわよ?」
「そっちじゃない!」
津田が居なかったからそれほど被害は無かったけど、いきなり人のスカートをたくし上げるってどんな神経をしてるのかしらこの人は……
「そうだシノちゃん、これ風紀委員の活動報告書。カエデちゃんが持って来たのを津田君が預かってたんだけど、津田君も用事で居なくなっちゃったから私が預かったの~」
「そうか、確かに受け取った。だが津田の用事って何だ?」
さっきあった事を説明しようとしたら、七条先輩が間違った説明を始めた。
「カエデちゃんが告白した場面を畑さんが写真で撮って、それで記事にしようとしたから津田君がドSなお仕置きをするからって畑さんを密室に連れて行ったんだよ~」
「何ッ!?」
「違いますよ……」
かなり間違った説明を受けた会長が立ち上がり怒り出したが、私が正しい説明をすると冷静になって再び座った。
「だよな、あの五十嵐が津田に告白なんてしないよな」
何だか安堵してるように思えるが、会長も津田の事が……
「あら? 雨が降ってきちゃったわね……」
「ホントだな」
「私、雨って好きなんですよね」
「そうなのか、自家発電の時の音を掻き消してくれるからな!」
「……やっぱり嫌いです」
「足音聞こえないから、おちおちと自家発電も出来ないもんね!」
どっちを選んでも運命は変らなかったようだ……、てか、発電発電って、私はそんなにしないわよ!
「スミマセン、戻りました」
「津田君は雨って好き? それとも嫌い?」
「別にどっちでも無いですよ。でも何でそんな事を?」
「自家発電する時に困るかな~って」
「くだらない事言ってないで、さっさと仕事しましょう。今日は結構多いんですから」
エロボケにも耐性がついてきたのか、津田はサラリと流して作業を始める。私もあれくらいのスルースキルがあればもっと楽なんでしょうけどね……
「そう言えば、文化祭には英稜の生徒会が視察に来る事になったからな!」
「視察って、単純に会長が招待しただけでしょうが」
「うむ! さすがは副会長、知ってたのか」
「……人に招待状作らせておいて何ですかそれ」
そう言えば会長ってPC苦手だったんだっけ……津田が代わりに作ったのね。
「それで、来るのは魚見さんだけですか?」
「いや、副会長の森さんも来るようだぞ」
「そうですか……よかった」
「萩村?」
何故私が安堵したのか分からない会長と七条先輩は首を傾げたが、津田は分かったようで苦笑いを浮かべている。そう、彼女も来れば私のツッコミの負担は更に減るのだ!
「英稜に馬鹿にされない文化祭にするぞー!」
「おー!」
「別に馬鹿にはされないと思いますよ」
津田にウチのボケを担当してもらって、森さんには魚見さんを任せれば、私は当日ツッコミに悩まされる事は無い。これはかなり嬉しい事ね。
結局浮かれきった私が仕事の殆どを片付けたので、今日は意外と早く帰れることになった。不安材料が無いって素晴らしい事だったのね。
文化祭に英稜の二人も登場させます