桜才学園での生活   作:猫林13世

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ちゃんと確認しろよ……


思いがけない遭遇

 トリプルブッキングのライブを観た私たちは、ホテルで一泊して帰る事にしているので、ライブ会場からホテルへ移動した。

 

「あっ!」

 

「どうかしたんですか?」

 

「出演依頼の手紙を渡し忘れた……」

 

 

 今回ライブに来た目的は、ただ単にライブを観に来ただけではなく、トリプルブッキングに文化祭に参加してもらうよう手紙を渡す目的もあったのに、ライブの興奮で渡すの忘れるなんて……

 

「どうしよう。もう会える機会なんてないよなぁ……」

 

「まぁ、最悪学園を通じて依頼をすれば良いじゃないですか」

 

「だがそれだと、最初からそうすればよかったって感じになるだろ」

 

 

 萩村の慰めも虚しく感じ、私はがっくりと肩を落としながら部屋へと向かう。千載一遇のチャンスを不意にしてしまったんだから、仕方ないよな……

 

「おかしーなぁ」

 

「どーすんのさ」

 

「え?」

 

 

 部屋に向かってる途中で、つい最近聞いたばかりの声がした気がして顔を上げると、そこにはトリプルブッキングの三人が立っていた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「えっと……鍵を部屋に忘れたまま外に出ちゃって……マネージャーに電話したら、暫く戻ってこれないって」

 

「なら、我々の部屋にどうぞ!」

 

 

 せっかく巡ってきたチャンスを不意にしないよう、私は三人を部屋に招き入れた。

 

「すみません、お世話になります」

 

「この子が鍵を部屋に忘れてね」

 

「マネージャーが帰ってくるまで、お世話になります」

 

 

 シホさん、カルナさん、ユーリさんがタカトシにお礼を言う。まぁ、この面子を見てタカトシがトップだと思っても仕方ないだろう。

 

「てゆーか、フロントに言えば合鍵があるのでは?」

 

 

 ここで萩村が尤もな意見を出す。確かにフロントに行けば合鍵くらいあるだろうし、部屋に入る事は出来るだろう。

 

「そんなことしたらネットに『シホ、またホテルの部屋から閉め出される』って書かれるじゃん!!」

 

「また?」

 

 

 シホさんの言葉にタカトシが引っ掛かりを覚えた。そういえばこいつは芸能面は弱かったんだったな……よくネットニュースで見かけるのだが、タカトシは知らなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だか見た目が似てる三人だけど、関係性は随分と違うよね……私に似ているカルナさんだけど、雰囲気とかはだいぶ違うし……

 

「ジュースどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 私もこれだけ綺麗だったら、タカトシ君を独占で来てたのかな……

 

「ただジュースを飲んでいるだけなのに、やっぱり絵になりますね」

 

「そうですか? ありがとうございます。ところで貴方たちの関係って?」

 

「高校の生徒会メンバーです。顧問の先生からライブのチケットをいただきまして」

 

「そうだったんですね。貴方が会長ですか?」

 

「いえ、会長は彼女です。ちなみに、自分とこっちの彼女は一学年下です」

 

 

 タカトシ君がスズちゃんに視線を向けながら説明をすると、カルナさんは驚いた表情を見せる。たぶんタカトシ君が年上じゃない事と、スズちゃんと同い年である事に驚いたんだろうな……

 

「ところで、さっきからユーリが静かじゃない?」

 

「ライブで疲れちゃったんじゃないですか?」

 

「じゃあベッドに」

 

 

 この部屋は私とシノちゃんが使う部屋なので、どっちのベッドで寝ても問題は無い。だけど見ず知らずの人の前で寝られるのかな?

 

「あ、あのぅ……私の手、握っててくれませんか?」

 

「はい?」

 

 

 まさか、会ったばかりのタカトシ君に惚れたんじゃ……

 

「私、寝相が悪いので。落ちないように」

 

「それじゃあスズちゃんでも良いんじゃない?」

 

「まぁそうかもしれませんが、もう握って寝ちゃいましたので、このまま俺が」

 

 

 タカトシ君の手を握ってすぐ、ユーリちゃんは寝息を立てた。余程疲れてたのか、タカトシ君の手に安心感を覚えたのかは分からないけど、やっぱりぐっすりと寝られた方が疲れも取れるしね。

 

「よし! せっかくのご縁ですから、一緒に写真を撮りましょう! ユーリも一緒に」

 

「肖像権的にマズいのでは?」

 

「別に大丈夫ですよ。よくエロコラされてるし」

 

「アンタら心広いな!」

 

「スズ、起きちゃうから静かに」

 

「あっ、ゴメン……」

 

 

 何だかもうすでにユーリちゃんのお兄さんみたいな感じになってるタカトシ君……相変わらずの兄力って、コトミちゃんなら言うのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だかシホさんがそわそわしているようだが、何かあるのだろうか?

 

「なにトイレ我慢してるの?」

 

「ちょっ! アイドルはトイレに行かないっていう青少年の夢を壊しちゃダメ!」

 

「いえ、アイドルも人間ですし、普通にトイレに行くと思ってたので」

 

「そっか。じゃあ遠慮なく」

 

 

 一体絶対誰がそんな事を思ってるのか分からないが、どうやらシホさんは俺の事を気にしてくれていたらしい。まぁ、考え過ぎなだけだったが……

 

「あっ、マネージャーから電話だ」

 

「漸く戻ってきたんだね」

 

 

 昼寝から目覚めたユーリさんがカルナさんに話しかける。しかし、寝てる間ずっと手を握られるとは思ってなかったな……

 

「すっかりお世話になっちゃったし、何かお礼をしたいんだけど」

 

「だったらウチの文化祭にゲスト出演してもらえませんか!?」

 

 

 シノさんが本来の目的を思い出したのか、絶妙なタイミングで出演依頼をする。

 

「文化祭?」

 

「他の学校からもオファー来てなかったっけ?」

 

「確か――英稜高校」

 

「え?」

 

 

 また面倒な事になりそうな予感がする……




絶対に面倒事になるだろ……

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