桜才学園での生活   作:猫林13世

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悩むようになっただけ進歩か……


乙女たちの悩み

 タカ兄の作ってくれた対策テストの問題で見たような問題が、本番のテストでも出題された。これだけ類似しているのなら、満点を採れてもおかしくないのかもしれないけど、私の頭では問題の答え全てを覚えられないのだ。もちろん、トッキーも同じようなものだろう……

 

「――ここは対策テストでも出来てなかったな」

 

「お義姉ちゃんや会長たちに説明してもらったんですが、どうにも理解出来なくて……」

 

「理解しようとしてるだけ進歩か……」

 

 

 私とトッキーは今、全てのテスト問題を持って生徒会室のタカ兄の前に座っている。時間に余裕があるならという条件だったが、私とトッキーは全ての解答を問題用紙にも記述したので、試験が終わり次第タカ兄に採点してもらっているという運びだ。

 

「これなら問題なく文化祭を楽しめるとは思うが、これを継続しなければ意味はないからな? 時さんもだけど」

 

「はい……」

 

「分かっています……兄貴にはいつも迷惑を掛けていると自覚しています」

 

「別に迷惑ではないよ。問題集を渡しても開きもしなかったクラスメイトに比べたら、時さんは十分結果を残してくれてるし」

 

「そんな人がいたんですか?」

 

 

 タカ兄のセリフにトッキーだけでなく私も驚く。忙しいタカ兄が時間を割いて作ってくれた問題集のお世話にならないなんて、最初からタカ兄に頼らなければ良かったのではないだろうか……そうすれば、タカ兄は他の事に時間を使えたのに。

 

「まぁ、なにをしていたかは聞かなかったがな。どうせ碌な事してなかったんだろうし」

 

「(あぁ、溜まってたのか……)」

 

「……口に出さないだけ成長したんだろうが、顔に思いっきり出てるからな?」

 

「こればっかりはタカ兄のようなポーカーフェイスが羨ましいです」

 

「とりあえず二人は今後もこの成績を継続出来れば、補習なんて気にしなくても良くなるだろうから、今後も精進する事」

 

「分かりました」

 

「タカ兄、先生より先生みたいだよ」

 

「後コトミは集中力の持続を」

 

「うへぇ……」

 

 

 最後の最後に注意が入り、私は思わず脱力してしまった……ほんと、先生より先生らしいよね、タカ兄って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室に行っていたコトミとトッキーが戻ってきて、私は二人の表情から津田先輩が設定した合格点を獲得出来たのだろうと察した。

 

「お疲れ様。これで文化祭を安心して楽しめるんだね」

 

「まだ何も言って無いよ?」

 

「顔を見ればわかるって。コトミは顔に出やすいし」

 

「さっき兄貴にも言われてたな」

 

「表情に出ないように頑張ってるんだけどな~」

 

 

 津田先輩と比べれば誰だって分かり易いのかもしれないけども、コトミは特に分かり易い。同じ家にあの人がいるというのに、何でこんなに分かり易くなっているのだろう……

 

「ところで、マキは採点してもらわなくて良かったの? 最近、タカ兄と喋れてないんだし、一緒に来ればよかったのに」

 

「ただでさえ忙しいのに、私の相手なんかしてもらったら津田先輩に申し訳ないよ……」

 

「マキは遠慮し過ぎだと思うんだけどな~。ただでさえ魅力的な先輩たちが増えたというのに、今まで通り二、三歩下がったままだとあっという間に忘れられちゃうよ?」

 

「そもそも私じゃ津田先輩と釣り合ってないから……というか、そういう事に気を回してる余裕があるなら、少しくらい津田先輩の苦労を減らそうとか思わないわけ? 津田先輩の忙しい原因の殆どは貴女でしょ?」

 

「それを言われると困っちゃうんだけどね……」

 

 

 最近では多少家事が出来るようになってきたとはいえ、その手際は津田先輩と比べるまでもなく遅い。よくお手伝いに来ている英稜の魚見会長とも比べるまでもないくらいらしい。まぁ、あの人も手際良いらしいし……

 

「そうだ! 今度の文化祭の準備期間に、マキが差し入れを作って生徒会室に持っていけばいいんだよ! そうすればタカ兄に会えるし、アピールにもなって一石二鳥でしょ?」

 

「私の腕じゃ、津田先輩に喜んでもらえるレベルの料理は作れないし……」

 

「作る事に意味があるんだよ! 私みたいに壊滅的な味じゃないんだしさ」

 

「マキもお前とは比べられたくないと思うが」

 

「トッキー! 今はそれを言っちゃダメなんだよ!」

 

「何なんだよ……」

 

 

 勝手に盛り上がるコトミの隣で私は、津田先輩に自分の料理を食べてもらいたいと思う気持ちと、ガッカリされたくないという思いの板挟みになっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトミと時さんの問題が片付いたからか、タカトシの作業スピードは何時にもまして早い……手の残像が見えるんじゃないかと思えるくらいだ。

 

「なに?」

 

「いや、相変わらず早いわね」

 

「そうかな? それより、スズの方もだいぶ片付いてるじゃん。計算機を使わなくていいっていうのは羨ましいよ」

 

「アンタだってこれくらい出来るでしょ?」

 

「出来ない事はないとは思うけど、スズのようなスピードで処理は出来ないと思う。その点ではスズに勝てないって思ってるし」

 

「別に勝負じゃないんだから。出来るだけで十分だと思うわよ? 私なんて、出来ない事の方が多いんだし」

 

 

 もし私がタカトシのような生活を送っていたら、とてもじゃないが自分の事にまで手が回らないだろうし……

 

「出来ないことがあるのは当たり前だろ? 無理して全部自分でやる必要は無いんだし。頼れるときは誰かを頼った方が効率がいいだろうしね」

 

「そうやって考えられるのが羨ましいわよ」

 

 

 私はすぐに、誰かを頼るなんて子供っぽいって思っちゃうからな……




萩村は気にし過ぎ

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