生徒会室で、会長と七条先輩が話していた。
「来週はいよいよ文化祭だな!」
「秋の一大イベントだから胸が躍るね!」
そう言って七条先輩は胸を弾ませた。
「踊らすなー!」
「会長?」
「おぉ、津田か。如何かしたのか?」
丁度部屋に入ってきた津田が、会長の叫び声に反応した。
「如何かしたかじゃないですよ。廊下まで叫び声が聞こえてましたよ」
「スマン……だがアリアが苛めたんだ」
「七条先輩が?」
津田が不思議そうに七条先輩に視線を向けた。
「何をしたんですか?」
「何もして無いよ~? 私はただ文化祭が近付いてきたから胸が躍るって言っただけだよ~」
そう言ってもう一度胸を弾ませる七条先輩……正直私も会長と同じ気持ちなのだが、声に出したら負けだと思っている。
「何で怒ったんですかね?」
「分かんないよね~?」
「「クソッ」」
思わず漏らした声が、会長とハモる。如何やら無自覚の言葉だったらしく、会長も驚いていた。
「なるほど、話は聞かせてもらった」
「畑さん……何処から出てくるんですか貴女は……」
テーブル下から畑さんが顔を覗かせてきた。
「つまり七条さんの巨乳が揺れた事に嫉妬してるんですね」
「「!? ち、違う!」」
「慌てて否定すると余計そう思われちゃいますよ~?」
「「ウグゥ」」
図星を刺された私と会長は何も言えなくなる。そして漸く納得したのか、七条先輩が胸を隠した。
何となく気まずくなったので、俺は見回りに出た。本当に何となくだが、あの空間に俺が居ちゃいけないような気がしたのだ。
「やっほータカトシ君」
「三葉、如何かしたのか」
見回りをしていたら三葉に声を掛けられた。何かポスターみたいなものを持ってるが、何だろうな……
「今度の文化祭では、私たち柔道部は招待試合を行います! 応援よろしく」
「今度は何処とやるんだ?」
最近結構試合をしてるが、よく相手してくれるところがあるよな……そんな事を思ってると、徐にポスターを広げてきた三葉。そこには……
桜才学園柔道部
VS
英稜高校空手部
と書かれていた。
「異種格闘技です! 盛り上げて部員増!」
「……無事に帰ってこいよ」
それしか言葉に出来なかった……英稜って事は魚見さんたちも当然見るんだろうな……招待したし、何より会長と息が合う人だから、きっと余計な事を言うんだろうな……
見回りを終えて生徒会室に戻ってくると、七条先輩が本を見ながら唸っていた。
「如何かしたんですか?」
「うん、先輩に演劇を手伝ってくれって言われちゃって……チョイ役だけどセリフがあるからさ……」
「大変ですね」
「津田君、ちょっと手伝ってくれないかな?」
「セリフあわせですか? それくらいなら構いませんが」
「ホント! じゃあさっそくこのご主人様と犬が戯れるシーンを」
「……一応確認しますが、どっちがどっち?」
てかこれは演劇部の人の役じゃ……七条先輩はメイド役だし……
津田を探して見回りをしてみたが見つからずに、私は生徒会室に戻ってきた。すると……
「お手」
「わん!」
「おかわり」
「わんわん!」
何故か生徒会室からワンワンプレイの声が聞こえてきた……しかも津田がご主人様でアリアが犬だと……
「お前たち! 神聖な生徒会室で何を……あれ?」
扉を開けて怒鳴り込んだが、そこには想像していた光景は無く、代わりに台本を持った二人がそこに居た。
「何してるんだ?」
「演劇の練習だよ~」
「関係無い箇所なので、何でつき合わされてるのかが分かりませんが……」
「だって衣装が来ないと練習出来ないでしょ~?」
「別にそこは気にしなくても……衣装?」
津田が首を傾げると、私の背後に誰かの気配が現れた。
「お嬢様、演劇で使いたいと言うメイド服をお持ちしました」
「ありがとー」
「やっぱり貴女でしたか、出島さん……」
津田は何となく分かっていたのか、出島さんが現れたのを見てため息を吐いた。だが私としてはいきなり背後に現れられてそれどころでは無い。
「ビックリしたぞ……少し漏れてしまったじゃないか」
「それは失礼しました。責任を取って舐めさせていただきます」
「いや、それは結構だ!」
「……ところで出島さん、メイド服着て来ちゃってますけど、帰りは如何するんですか?」
確かに、アリアにメイド服を貸したら、出島さんは何を着て帰るのだろう……まさかアリアの制服じゃないよな……
「ご心配なく、全裸で帰りますので」
「貴女の頭が心配……」
津田の哀れみを含んだ声に、出島さんは興奮したようで、股から何かが垂れてきている……敏感なんだな。
「おーす、生徒会役員共」
「あら?」
タイミングが良いのか悪いのか、横島先生が生徒会室にやって来た。
「ウチの顧問の横島先生よ」
「そうですか。お嬢様が何時もお世話になっております」
「いやいや、それほどでも」
「ん?」
「まぁ……お世話になってます?」
津田もアリアも横島先生の謙遜に首を傾げてるが、正直私も同じ気持ちだ。横島先生には、どちらかと言えばお世話になってるよりかはお世話してるような気がするのだ……
「ところでアンタ、何で濡らしてるの?」
「津田さんの哀れみに満ちた視線に感じてしまいました」
「あ~分かるわ~。津田のあの視線、たまらないよな~」
何故か意気投合した二人を、津田は鉄拳で沈めた。あれも痛いが興奮するんだよな~。
「会長、そろそろ全校を見回る時間です」
「おお、そうだったな」
萩村が呼びに来たので、私たちは生徒会室から移動する。撃沈してる二人は放っておく事にした。
「にわかに活気付いて来ましたね~」
「そうだな」
「皆期待に胸を膨らませてるんだね」
「そうですね。うちのクラスも既にお祭り気分ですし」
「膨らむ訳が無い!」
「そうだ!」
萩村と二人で、無意識に私たちを苛めてくる二人に抗議する。そんなに簡単に胸が膨らむのなら苦労なんてしないぞ!
「分かってるとは思いますが、比喩表現ですからね」
「そうだよ~。踊ったり膨らむって言っても、実際にそうなる訳じゃないんだし~」
そう言ってアリアは胸を揺らす……やっぱりイジメだ!
いよいよ次回は文化祭に突入です! 如何英稜を絡ませるかが悩みどころですね……