桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシなら出来る……か?


器用さ発揮

 文化祭の目玉はトリプルブッキングだが、各クラスでも出し物をする事には変わりはない。生徒会の仕事を終えて教室に顔を出すと、コーヒーの匂いが充満していた。

 

「そういえばうちのクラスは喫茶店だったな」

 

「珍しいわね。タカトシが把握してなかったなんて」

 

「覚えてはいたが、こんなに匂いが充満する程何をしてたんだと思っただけだよ」

 

「なんでもラテアートをやるらしくて、その練習じゃない?」

 

「あぁ、それでか」

 

 

 あれは初心者が簡単に出来るような物ではないと思うんだがな……練習だけでどれだけのマイナスが出る事やら。

 

「あっ、タカトシ君来た」

 

「ん? 三葉、何か用か?」

 

 

 教室に顔を出してすぐ、何かと格闘していた三葉が声をかけてきた。

 

「タカトシ君なら、初めてでも出来るかなって思って」

 

「何を?」

 

「津田副会長は初体験でおめでたと……」

 

「文化祭を楽しめない身体になりたいんですか、貴女は?」

 

「じょ、冗談ですよ……では!」

 

 

 通りすがりの畑さんに脅しをかけてから、俺は三葉に説明を求める事にした。

 

「このラテアートなんだけど、結構難しくてさ……お手本を見せてもらいたくても誰も出来なくて」

 

「じゃあ何でやろうとしたんだよ……」

 

「だって、普通の喫茶店じゃ受けが良くないってネネが」

 

「まぁ一理あるかもしれないが……」

 

 

 何か目玉となるものを用意しようと考えたまでは良いんだが、せめて自分が出来る事で考えて欲しかったな。

 

「それで、説明書とかあるのか?」

 

「これだよ!」

 

 

 三葉からマニュアルを受け取り、俺は一度目を通して実践する事にした。

 

「――こんな感じか?」

 

「うわぁ! タカトシ君凄い!」

 

「ほんと器用ね、アンタ」

 

「マニュアル通りにやっただけなんだが」

 

「それが普通に出来る辺り、アンタは器用なのよ」

 

「スズ、なんだか棘を感じるのは気のせいか?」

 

 

 恐らくスズは出来なかったのだろうと思い、それ以上追及はしないでおこうと心に決め、俺は向こうの席で死にそうになっている柳本に声をかける。

 

「お前は何をやってるんだ?」

 

「失敗作の処理……」

 

「捨てるのもったいないから飲んでもらってるんだ~」

 

「それくらいならお前にも出来るだろ」

 

「他にも出来るわ!」

 

「じゃあお前もやってみるか?」

 

「……大人しくこれを処理しておきます」

 

 

 さすがに無茶ぶりだと分かっていたが、そこまであからさまに視線を逸らさなくても良いんじゃないか? これじゃあ俺が苛めてるみたいじゃないか……

 

「ねぇねぇ津田君」

 

「なに?」

 

 

 付き合い方を考え直そうとしたタイミングで、今度は轟さんに声を掛けられた。

 

「津田君なら3Dアートラテも出来るんじゃない?」

 

「3Dアートラテ? 何でそんな事を?」

 

「出来たらカッコいいじゃない?」

 

「そうか……?」

 

 

 素人が手を出しても失敗する未来しか視えない気がするんだがな……というか、柳本が処理している中に、それらしきものが見えるんだが……

 

「試しにやってみてよ。もし出来るなら、私たちにレクチャーしてもらえないかな?」

 

「たぶん出来ないと思うけど……」

 

 

 轟さんから受け取ったマニュアルを見ながら、今度は3Dラテアートに挑戦する事になった。

 

「………」

 

「すごーい! さっすがタカトシ君!」

 

「何時でも喫茶店に就職できるね」

 

「褒められてない気がするのは気のせいか?」

 

 

 一応形にはなったから良いが、やっぱり素人が手を出して良い領域では無かったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシをクラスメイトに取られてしまったので、舞台の設営などは私たち残りの生徒会メンバーと有志のみで行う事になってしまった。

 

「――というわけです」

 

「まぁ、タカトシなら出来ても不思議ではないが……」

 

「やっぱりウチで雇えないかな~?」

 

「七条先輩、冗談に聞こえませんので」

 

 

 七条グループに就職となれば、タカトシも考えてしまうかもしれない。アイツはどの職でも淡々とこなしそうだし、系列の多い七条グループなら、タカトシにピッタリの職もあるだろう。そしてゆくゆくはグループを背負って立つ存在として認められ、七条先輩と結婚――なんて展開が容易に想像出来る。

 

「ところでシノちゃん、いくら何でもそのうちわは早すぎないかな?」

 

「え?」

 

 

 七条先輩に言われて初めて、私は会長が持っているうちわがアイドルのコンサートなどで見かけるものだと気がついた。

 

「それにしても、我が校にアイドルがやってくるなんて初めての事だな!」

 

「あたしゃ若い男の子のアイドルが良かったわね」

 

「例えそうだったとしても、手を出した時点で犯罪ですからね?」

 

「双方同意なら犯罪にはならないわよ」

 

「事務所から訴えられたいのなら我々が関与しない場所でどうぞ?」

 

「……ところで、津田は何処に行ったの? こういう仕事は男の担当じゃないの?」

 

「(あっ、誤魔化した)」

 

 

 さすがに事務所から訴えられたら横島先生でも困るんだな……当然かもしれないけど。

 

「タカトシ君なら、クラスメイトたちにラテアートの指導をしてるらしいですよ~」

 

「なるほど、そっちも津田にしか出来なさそうね」

 

「アイツは器用ですからね」

 

 

 さっき私が思った事を、会長たちも思ったようで、私たちは全員でタカトシが指導しているであろう教室を見上げ、同時にため息を吐いたのだった。




さすがにそれはマズいだろ、横島先生……

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