桜才学園での生活   作:猫林13世

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コトミのこういうところは変わってないな……


時間稼ぎの方法

 会長に呼ばれて舞台裏にやってくると、非情に焦っている会長や七条先輩が申し訳なさそうに事情を説明してくれた。

 

「――というわけで、何とかして時間をかせがなければいけなくなった」

 

「悪いんだけど、手伝ってもらえないかな?」

 

 

 会長と七条先輩から何かを頼まれるなんて、今まであっただろうか。何とも言えない快感に見舞われ、私は会長たちの頼みを聞き入れる事にした。

 

「そういう事でしたら、お手伝いしますよ。一度でいいからやってみたかったんですよね。主役が到着するまで時間をかせぐっていうのを」

 

「引き受けてくれたのはありがたいが、それって死亡フラグ建ってないか?」

 

「そんな事ないですよ~。ところで、タカ兄とスズ先輩は何処に行ったんですか?」

 

 

 さっきから会長と七条先輩しか見当たらないので、私は思わずそう尋ねた。だってタカ兄がいれば何とかなりそうだし、スズ先輩がいれば知恵を借りられそうだから。

 

「二人には会場の人たちへの事情説明と、時間をかせぐのに必要なものを調達しに行ってもらっている」

 

「なるほど、スズ先輩が事情説明で、タカ兄が道具の調達にいってるんですね」

 

「その通りだが、良く分かったな」

 

「そりゃスズ先輩じゃ、道具調達に時間が掛かり過ぎそうで――」

 

「人がいないと思って随分な事を言ってるじゃない?」

 

「――ひぇ、す、スズ先輩……」

 

 

 背後から現れたスズ先輩に脛を蹴り上げられ、私は暫くその場で悶絶する事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とかタカトシが用意してくれた道具を使って、私たちはマジックを披露する事になった。

 

「世紀のマジック! 真っ二つ!」

 

 

 上半身役をアリア、下半身役を五十嵐が担当しているので、本当に人が真っ二つになっているわけではない。

 

「そのマジックの種は、二人に分かれてるんですよね?」

 

 

 客席からそう指摘してきたのは、七条家のメイドである、出島さんだ。実際そうだが、ネタバラシをされたら盛り上がらないじゃないか。

 

「そ、そんな事ないですよ? どちらともちゃんとアリアの身体だ!」

 

「そうですか――」

 

 

 何とか納得してもらえたようで、私は安堵の息を吐く。

 

「では、それを証明してください」

 

「しょ、証明?」

 

 

 安堵の息を吐いたのもつかの間、私はどうすれば良いのか困ってしまう。というか、時間稼ぎだって分かってるはずなのに、何でこの人はここまで追求してくるんだ……

 

「はい。本当に上半身も下半身もお嬢様の身体であるのなら、それを証明してみてください」

 

「ど、どうすれば納得してくれるんですか?」

 

「では僭越ながら」

 

 

 そう言って立ち上がった出島さんは、おもむろに上半身に近づき、その身体をなめるように見回す。

 

「確かに上半身はお嬢様で間違いないですね」

 

 

 そう言って今度は下半身をなめまわすように――ではなく、本当に舐めようとしたところをタカトシに捕まった。

 

「素人の時間稼ぎ程度のマジックにハイクオリティを求められても困るんですが」

 

「た、タカトシ! 助かったぞ……」

 

 

 そのまま出島さんを舞台袖まで連行していったタカトシにお礼を言い、私たちは次のマジックを披露する為に一旦舞台袖にはけた。出島さんが連行されていった方ではない側に。

 

「一時はどうなる事かと思ったぞ」

 

「危うく風紀委員長の下半身が強制露出されるところでしたね」

 

「出島さん、本気で舐めようとしてたからね~」

 

 

 私の言葉に、アシスタント役の畑と、上半身役のアリアが同意して五十嵐を見る。彼女は安堵した表情が一変し真っ青になっている。

 

「もしかして風紀委員長、大勢の前で絶頂してしまう妄想でもしてるんですか?」

 

「ち、違います! というか、何なんですか! あの人は!」

 

「ゴメンね、カエデちゃん。出島さん、何時もはあんなこと言わないんだけどな」

 

「大勢の前で女子生徒を舐めまわしたかったのか?」

 

「かもしれないね~」

 

 

 私とアリアの、冗談なのか本気なのか分かりにくいギャグを聞いた五十嵐は、その場で気絶してしまった。

 

「おっ、今日は黒なんですね~。風紀委員長がこんなイヤラシイ下着を穿いてるとは」

 

「なんだか湿ってないか?」

 

「触って確かめるべきですかね?」

 

「アンタら、タカトシに報告しますからね」

 

「あっ、スズちゃん……」

 

 

 五十嵐の下着を覗き込んだコトミにつられてしまった私たちは、もう一人の存在を思い出して全身に冷や汗を掻いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とかトリプルブッキングが到着し、すぐにライブを開始してくれたので客席からの不満は最小限にとどめる事が出来た。

 

「お疲れさまでした、会長……会長?」

 

「寝ちゃってる」

 

「まぁ、色々ありましたからね」

 

「半分以上は会長たちの自業自得だと思いますが」

 

 

 さっきまでタカトシに説教されていたのは、会長たちが五十嵐先輩の下着を覗き込んでいたからで、それで疲れているのなら紛れもなく自業自得だ。

 

「会長の為に、録画しておくべきですかね。楽しみにしてましたし」

 

「そうだね。スズちゃんは寝フェチなんだね」

 

「トリプルブッキングのライブを撮れって言ったんだよ!」

 

「スズ、声が大きいよ」

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

 

 何で私が怒られなきゃいけないのか釈然としないけども、確かに声が大きかったのは私にも分かったので、タカトシに小声で謝ってから七条先輩を睨みつけたのだった。




出島さんは危険人物だな……

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