最近カップル限定のイベントが多く見受けられるけど、こういうのを取材すればエッセイ頼みの新聞部という汚名を返上する事が出来るのかしら。
「でも、一人で入れない店だし……どうすれば良いのかしら」
さすがの私もエア彼氏だと言い張って店に入る勇気はない。以前そんな記事を書いたことがあるような気もするけど、いざ自分が直面すると恥ずかしいと思うのね……
「都合よく津田副会長でも現れないかしら」
あの人なら「取材の為」と頼み込めば同行してくれるでしょうし……まぁ、天草さんや五十嵐さんに見つかったら面倒な事になりそうだけども。
「おや~?」
「畑さん……気配がしてたからいるとは思いましたが、何してるんですか?」
考え事をしながら角を曲がったら、都合よく津田副会長が現れた。これはつまり、神様が津田副会長を使って取材しろと言っている!
「ちょっとお願いがあるのですが」
「追加のエッセイなら書きませんからね」
「いえいえ、今月分も感動するいい話でしたので。そうではなく、ちょっと取材に付き合ってもらいたいのですが」
「まともな取材なら構いませんが、この間のように河童を探すだのなんだのは嫌です」
「津田副会長なら、私が何の取材をしたいか分かっているのではありませんか?」
何せ人の心を読むともっぱらの噂の津田副会長だ。私が何も言わなくても何処に行きたいかなんて分かっているに決まっている。
「あんまり甘いものは得意じゃないんですが……」
「一緒に入ってくれるだけで十分です。私の目的は津田副会長とデートする事ではなく、あの店の取材ですから」
「そういう事なら……念のために言っておきますが、捏造記事なんて書こうものなら、今後一切新聞部の手伝いはしませんから」
「わ、分かってますよ……」
こやつ、最後に足湯に行って津田副会長の『身体の一部が元気になった』と書こうとしている事に気付いたとは……さすがは副会長と言ったところでしょうか。
アリア、萩村と一緒に出掛けていたら、一軒の店が視界に入った。いや、店はずいぶん前から見えていたのだが、私が引っ掛かったのは窓際に座っている一組の男女。この店はカップル限定のイベント中だったな……
「アリア、萩村、あれをどう見る?」
「うーん……普通に考えたら、畑さんが取材の為にあの店に入りたかったところに、タカトシ君がやってきて恋人のフリをしてもらってる?」
「それが普通でしょうね。間違ってもあの二人が付き合っているなんてことは無いでしょうし」
「だよな……だが、万が一という可能性もあるから、少し寄って行かないか?」
「でも、カップル限定のイベントでしょ? どうやって入るの~?」
「私か萩村がアリアと付き合っている設定で――」
「一般的にカップルとは、男女でお付き合いしている事だと思いますけど?」
私の考えに否定的な萩村がおもむろに携帯を取り出してメールを始める。一分経たない内に返信があり私たちの疑問は解消された。
「やっぱり取材の手伝いのようですよ」
「というか、タカトシが付き合うとしても畑は無いよな」
「少なくとも恋人同士には見えないもんね~」
普段から怒る側と怒られる側だという事を知っていると、二人がカップル限定イベントに参加していても「あぁ、取材か……」としか感じないんだな……
「もし相手がカナや森だったら突撃してたかもしれないが」
「シノちゃん、最近がっつき過ぎじゃない?」
「何となく出遅れてる気がしてるからな! いや、何にとは言わないが」
「殆ど言ってるような気も……」
萩村にジト目で見つめられ、私はそっと視線を逸らす。こいつも私と一緒で出遅れてるから、私の気持ちが分かるんだろうな……
この間取材協力した記事が掲載され、俺は今カエデさんから詰問されている。
「――では、疚しい気持ちがあったわけではないのですね?」
「畑さんから『取材の為に恋人のフリをして欲しい』と頼まれただけですし、時間的余裕もあったので断らなかっただけです」
「ではなぜ津田副会長に協力を要請したのでしょうか? わざわざ津田副会長を呼び出さなくても――」
「いえ、呼び出されたのではなく、街で偶々ばったり遭遇してそのまま手伝っただけです。こちらとしては気配を感じ取っていたので、迂回する事も可能だったのですが、邪な感じはしてこなかったので」
あの人がまた誰かを追いかけていたのなら迂回したかその場で説教したが、純粋に店の取材をしようとしていただけなので付き合ったに過ぎない。そこに特別な気持ちなどあるはずがない。
「……分かりました、津田副会長を信じます」
「ありがとうございます」
そもそも疑われるような事は無いと思うんだがな……例え「そういう関係」だったとしても、校外なわけだから問題は無いんだし。
「タカトシ君、疑って申し訳ございませんでした」
「いえいえ、畑さんにしては珍しく真面目な記事だったので、疑いたくなる気持ちは分かりますので」
「それだけじゃないんですけど……」
「はい?」
「な、何でもありません!」
慌てて生徒会室を飛び出していったカエデさん。一応風紀委員長なのだから、廊下は走らないでもらいたかったな……
タカトシハーレムの人々は穏やかな気持ちではないでしょう