桜才学園での生活   作:猫林13世

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呂律が回らないことはたまにある


寒い日の出来事

 近頃めっきり寒くなってきて、校則に反しない程度の防寒対策を考えている。

 

「こう寒いと、いつの間にか猫の手になってる事って無いか?」

 

「あー、ありますね」

 

「あれで温かくなるわけではないんだろうが、ついついやっちゃうよな~」

 

 

 擬人化萌えの人間には別の意味で温かくなるのかもしれないが、生憎私はそっちの趣味ではないので心が温かくなる事はない。

 

「そうだ、五十嵐」

 

「にゃんですか? ……い、いえ! 今のは別に猫の真似をしたとかではなく、寒くて呂律が回らなかっただけで……」

 

「(何となく擬人化萌えが理解出来た気がする)」

 

 

 ただ五十嵐が噛んだだけなのに心がほっこりしたのを受けて、私は新しい世界を感じた気になる。

 

「そ、それで! 何か言い掛けてましたけど」

 

「あぁ。さっき男子たちが屋上に向かってたんだが、何をしてると思う?」

 

「屋上ですか? この寒いのにわざわざ屋上に行く意味があるのでしょうか……」

 

 

 五十嵐と二人で可能性を考えていると、丁度タカトシが私たちの横を会釈しながら通り過ぎようとしたので、タカトシにも意見を求める事にした。

 

「タカトシ」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「さっきお前のクラスメイトが屋上に向かってたんだが、何をしてるか分からないか?」

 

「屋上、ですか? もしかしたらまた、余計なものを持ち込んでいるのかもしれませんね」

 

 

 タカトシの言葉に、五十嵐が反応を見せる。

 

「余計なもの? いったいそれは?」

 

 

 風紀委員長としての性なのか、そこに反応したのはさすがだと私も思う。だが人目につきにくい場所に男子が持っていく余計なものを考えれば、この反応は自爆だと思うのだが……

 

「決めつけは良くないでしょうが、カエデさんには刺激が強いものだと思います」

 

「……な、なるほど」

 

 

 遠回しな注意で気づいたのか、五十嵐は二、三歩タカトシから遠ざかる。別にタカトシがそういった本を読んでいると誤解したわけではないのだろうが、ヤツも男だという事を再認識したのかもしれない。

 

「会長、ちょっと行って確認してきますが、同行しますか?」

 

「風紀委員長が同行できない以上、生徒会長である私が同行するしかないだろうな」

 

 

 申し訳なさそうな視線を背中に感じたが、私は少し興奮気味に屋上を目指す。発言こそ減ってきていると自負しているが、中身は変わったわけではない。どのような本なのか興味がわいてくる。

 

「では、俺が声を掛けますので、会長は出入り口を塞いでおいてください」

 

「分かった。こっちに逃げてきた男子生徒たちに人質にされて、そのまま連れ去られ監禁・調教される生徒会長を演じればいいんだな?」

 

「何言ってるの?」

 

「いや、この前コトミに借りたPCゲームが、そんな感じだったから」

 

「アイツは……」

 

 

 どうやら余計な事だったようだが、タカトシはすぐに男子生徒たちに声を掛けに向かう。あそこにいる男子生徒全員が束になってかかったとしても、タカトシには勝てないだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柔道部の練習に付き合って帰宅すると、何故かご立腹なタカ兄が私を出迎えてくれた。

 

「えっと……赤点は採ってないけど?」

 

 

 今日は遅刻もしてないし、授業中に寝てない……はず。だから怒られる理由に思い当たらなかった私だったが、よく見るとタカ兄の後ろで両手を合わせて私に謝っている会長がいた。

 

「随分と無駄遣いをしているようだな。今後小遣いは半分でも問題ないよな?」

 

「そっ、それは困るよタカ兄っ! 来月も気になる新作が――はっ!?」

 

 

 言ってから失言だったと気付いたけど、そもそも私が自白しなくても会長から裏を取っているのだ。言い逃れなど出来るはずがない。

 

「会長! タカ兄には内緒だって言ったじゃないですか!」

 

「す、すまん……つい流れでぽろっと言ってしまったんだ……」

 

「どんな流れですか……」

 

 

 タカ兄が私のゲームの内容を把握しているとは思えないので、タカ兄がカマを掛けたとは考え難い。お義姉ちゃんから情報を得た可能性は否定出来ないけど、それだったら会長を介さなくても私を説教する事は出来るし、そうなるとどんな会話から会長がぽろっと失言したのかが気になる。

 

「今日男子生徒たちが屋上に集まっていたんだが、私が出入り口を塞ぐ役だったんだ。それでタカトシが声をかけ、私の方に逃げてきたやつらに捕まって雌奴隷にされるシチュみたいだと思って、つい……」

 

「思っても口に出さないでくださいよ……あれだって手に入れるのに苦労したんですよ? 会長がそういうのが好きだって聞いて、色々と探したんですから」

 

 

 私とお義姉ちゃんの趣味と、会長の趣味は微妙に異なるので、私は会長好みのゲームを探して購入した。プレイしてみて確かにこういうのもありだと思ったのだが、まさかそれが原因でタカ兄に怒られる事になるとは……

 

「とにかく、今度の定期試験で平均八十点以上取れなかったら、お前のゲームは一つ残らず捨てるからな」

 

「そんなっ! 私が八十点平均なんて無理だよ!」

 

 

 何とか交渉して平均七十点にまで下げてもらったけど、それでも私には厳しい……私はお義姉ちゃんにメールをして、明日から毎日勉強を見てもらう事になったのだった。




コトミは何時も通り自業自得

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