桜才学園での生活   作:猫林13世

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何とか出来る量ではないな


モテ男の憂鬱

 バレンタイン当日。私はタカ兄に大量の紙袋を渡す。

 

「はいタカ兄。今日は絶対にこれが必要だから持っていった方が良いよ~」

 

「何だこの紙袋……というか、こんな時間から起きてるなんて珍しいな」

 

「朝練の前に道場の掃除をしなきゃいけないんだよぅ……」

 

 

 本当は昨日のうちに終わらせなきゃいけなかったんだけど、終わらなかったから今日の朝にやらなきゃと思っていたんだけど……随分と想定してた時間より遅い時間に起きちゃったな……本当ならタカ兄が起きる前に起きて驚かそうと思ってたのに。

 

「掃除ならさっさと行った方が良いんじゃないか? 朝練開始時間まで、あと一時間も無いんだし」

 

「嘘ッ!?」

 

 

 タカ兄に指摘されて慌てて時計に視線を向けると、確かにあと一時間くらいしか残っていない……これじゃあ掃除が終わらないよ……

 

「タカ兄、効率よく掃除するコツを教えてください……」

 

「そんな事を聞いてる暇があるなら、さっさと行って掃除を始めた方がいいと思うぞ? 聞いたところで、お前は元々効率が悪いんだから」

 

「返す言葉もありません……」

 

 

 作業効率が悪いのは昔からで、タカ兄に何度かその事を指摘された事がある。それでも改善されていないのだから、タカ兄がこういうのも当然だろう……

 

「行ってきます……」

 

 

 タカ兄からお弁当を受け取ってから気落ちしながら家を出て、ダッシュで駅へ向かう。そのまま走って学校まで行った方が早いかもしれないけども、ダッシュした後に掃除して、朝練中もいろいろとやらなければいけないので、そんな事をすれば授業中に寝てしまうだろう。だから私は、少しでも体力を温存する為に電車で学校に向かう事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に到着してまず初めに視界に飛び込んできたのは、机一杯に積まれたチョコの山だった。新聞部の方でタカトシにチョコを渡したい人用の受け取りBOXを設けているようでそっちに持っていった人もいるからこの程度で済んでいるのかもしれないけど、相変わらず凄い人気よね……

 

「おはよう、タカトシ」

 

「あぁスズ……おはよう」

 

「元気ないわね?」

 

「持って帰る事を考えたら、少しくらい憂鬱になっても無理はないだろ?」

 

「男子からの嫉妬の嵐で疲れてるのかと思ったわ」

 

 

 もらえなかった男子生徒からは、タカトシに対して物凄い殺意の篭った視線が送られている。

 

「この程度なら気にならないし、気にするだけ無駄だからな」

 

「まぁね。そんな中で悪いんだけど、これ」

 

 

 私はどさくさに紛れて渡す事で、恥ずかしさを誤魔化す作戦を考えたのだ。義理と偽ろうと思ったけども字が綺麗に書けなかったので、こうなったら開き直ろうと思って。

 

「別にチョコ自体は悪くないだろうし、そういう日だから仕方ないと割り切ってるんだけど」

 

「でも、これだけもらったらもう欲しくないんじゃないの?」

 

「気持ちは受け取れないけど、用意してくれた人に悪いだろ? ちゃんと受け取るし、お返しの品は用意するつもりだ」

 

「真面目ね……」

 

 

 名前も――もっと言えば顔すら知らないかもしれない相手だろうと、タカトシはしっかりとお返しを用意する。以前畑さんが桜才新聞にタカトシの写真を載せた事で、タカトシは知らなくても向こうは知っているという人が増えたらしいのだ……

 

「まぁ今日一日は、風紀云々を言える立場じゃないのは少し問題かもね……生徒会副会長として」

 

「学校中が浮かれてるから、タカトシが注意しても問題ないと思うわよ? あんた、全然浮かれてないし」

 

 

 並みの男子なら、これだけチョコを貰えば浮かれても不思議ではないだろうけども、タカトシは浮かれる前に持って帰る憂鬱に押しつぶされてるし……

 

「タカトシ君、いますか?」

 

「カエデ先輩、何かご用ですか……って、畑さんも一緒ですか」

 

「気配で分かっていたでしょう? これが、今朝集まった津田先生宛のチョコレートです。そしてこちらが、どのチョコが誰からかを纏めた資料です。一応本人の許可を取って写真もついてます」

 

「わざわざどうも……これ、頼まれていたエッセイのデータです」

 

「確かに。先生のエッセイを載せないと売れな――興味を持ってもらえないんですよね」

 

「商売してるのは知ってますから……それで、カエデ先輩は畑さんの付き添いですか?」

 

 

 ずっと黙っていた五十嵐さんにタカトシが声を掛けると、先輩は緊張した面持ちで鞄からチョコを取り出した。

 

「これ、受け取ってください!」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、これは私から。言っておきますが、風紀委員長と違って私のは市販のチョコです。まぁ、先生のお陰でだいぶ懐が温かいので、多少奮発しましたが」

 

「はぁ……」

 

 

 段ボール五箱分のチョコを受け取ったタカトシは、持って帰る方法が思い付かずに頭を抱えている。さすがのタカトシも、五箱分のチョコを持って帰るのは無理よね……

 

「コトミのヤツ、紙袋なんて役に立たないじゃないかよ……」

 

「畑さんが裏で管理してるサイトに、タカトシ宛のチョコを代理で渡すって書き込んでたから、それでじゃない?」

 

「また裏サイト……というか、スズは何でその事を知ってるんだ?」

 

「さ、さぁ……何でだったかな……」

 

 

 昨日会長と二人で発見して、乙女の為にスルーしたなんて言えない……まぁ、タカトシのあの目を見る限り、見透かされてるのかもしれないけど……




別の商売を始めた畑さん……

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