桜才学園での生活   作:猫林13世

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ここまで行くと悲劇ですよね……


モテ男の受難

 タカトシにチョコを私に行こうとアリアと教室を出たのだが、何故かアリアはもじもじしている。緊張しているのかとも思ったが、さっきから視線がトイレに向けられているので、我慢しているんだと気付けた。

 

「我慢しないで行ってきたらどうだ?」

 

「そうする。ちょっとカフェインを摂りすぎちゃって……」

 

「カフェイン? コーヒーでも飲みまくったのか?」

 

「ううん、チョコの味見で」

 

「どんだけ味見したんだ?」

 

 

 アリアからチョコを預かってトイレの外で待っている間、アリアがどんなチョコを作ったのかが気になりだした。親友として互いに互いの恋路を応援しているのと同時に、ライバルでもあるので気になってしまっても仕方ないだろうが、ここで確かめるのはさすがにマズい。

 

「(こんな時に透視能力があれば……私もだいぶコトミに毒されてるようだな)」

 

 

 そんな能力実際にあるわけないのにそんな事を想ってしまった自分にツッコミを入れて、私は大人しくトイレの前でアリアを待つ。

 

「あれ会長? トイレの前で何してるんですか?」

 

「コトミか。アリアがトイレに入ったから待ってるんだ」

 

「そうなんですか。そうそう、タカ兄ですけど、既に段ボール五箱以上のチョコを貰ってるので、少し機嫌が悪いですよ」

 

「そうなのか」

 

 

 普通ならチョコを貰えてうれしいとか思うのだろうが、タカトシ程になると機嫌が悪くなるのか……まぁ確かに、五箱以上も貰ったら困るだろうがな。

 

「それでもちゃんと他の人からのチョコを受け取るあたり、タカ兄の人の好さが感じられるんですけどね。さっきムツミ先輩が渡してましたし」

 

「三葉が? アイツは特に気にせずに渡せそうだから羨ましいな」

 

 

 自身の恋心を自覚していないのか、三葉は割と簡単にタカトシと接しているように見える。

 

「そんな事なかったですけどね。以前なら当たり前のように渡してたらしいですけど、今日のムツミ先輩は恋する乙女のような表情でしたから。頬を赤く染めながら、視線を合わせたり逸らしたりを繰り返してから、蚊の鳴くような声で渡してました」

 

「お前、何処で見てたんだ?」

 

「畑先輩が盗撮した映像を見せてもらったんですよ。まぁすぐにタカ兄に怒られて削除されちゃいましたけども」

 

 

 タカトシの事だから盗撮してる最中に気付いてたんだろうが、三葉を一人きりにするのを避けて後で説教したんだろう。

 

「お待たせー」

 

「それじゃあシノ会長、アリア先輩、頑張ってくださいね~」

 

「気軽に言ってくれるな……」

 

「そりゃ私は第三者的ポジションですから」

 

 

 普段は実兄で興奮する変態だが、こういう時だけは弁えてるようだな……というか、なんだか緊張で私もトイレに行きたくなってきたような気がする……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に自力で持って帰る事が不可能なので、職員室でどうすれば良いのか相談した結果、横島先生と小山先生の車で運んでくれるという事になった。借りを作ってしまったような気もするが、小山先生は兎も角横島先生には散々貸してるから問題は無いだろう。

 

「はぁ……」

 

「あっ、タカトシくーん」

 

「アリア先輩、シノ会長も」

 

 

 気配は感じていたからいるのは分かっていたが、あの笑顔を見ると何だか居たたまれない気持ちになってくる。用件は分かっているし、二人の気持ちも知っているけども、今は嬉しい演技は出来そうにない。

 

「タカトシ君がチョコを貰い過ぎて憂鬱になっているのは知ってるけど、渡さないって選択をする事は出来ないから」

 

「私もだ。別に食べなくても良いが、受け取ってくれ」

 

「ありがとうございます。食べないなんて失礼な事はしませんよ。ですが、食べ終わる前にお返しをしなきゃいけなくなるでしょうけども」

 

 

 一箱に幾つ入っているかは分からないし、チョコなんてそう何個も食べるものでもないからな……

 

「よかったら出島さんに運んでもらえるよう手配しようか?」

 

「いえ、横島先生と小山先生が車を出してくれるようですので――」

 

「でもそれって今の段階ででしょ? タカトシ君の事だから、放課後には倍以上になってるかもしれないよ?」

 

「………」

 

 

 その事は考えないようにしていたのだが、畑さんが言っていた『朝の段階』という言葉が今更ながら重くのしかかってくる。あの人は他校にも桜才新聞を売っているから、放課後になったら恐ろしい事になっているかもしれないのだ。

 

「相変わらずのモテ男だな……羨ましいと思えない程のモテっぷりとは」

 

「同情するフリしてトドメを刺したいんですか?」

 

「そんなつもりは無いが」

 

「シノちゃん、携帯鳴ってるよ?」

 

「ん? あぁ、カナか」

 

 

 義姉さんからのメールという事で、俺は猛烈に嫌な予感がしてきた。交流会の予定もないし、義姉さんが会長にメールする用事は他に思いつかなかったのだ。

 

「タカトシ……英稜の方でもタカトシ宛のチョコが段ボール二箱に到達したらしい」

 

「アリア先輩、出島さんの手配、お願い出来ますでしょうか……」

 

「任せて~。七条グループの配送部門の人を手配してもらって、タカトシ君の家にチョコを届けるね~」

 

「はぁ……」

 

 

 甘いものなど何も食べていないのに、口の中が甘くなってきた気がする……




タカトシが甘いもの苦手だったら大変だったな……

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