何時も通り朝の支度をしていると、ふとテレビの占いが目に入った。普段気にしないのだけど、今日は何故か気になってしまったのだ。
『今日の運勢ワーストさんは乙女座。水のトラブルに注意!!』
「えっ」
乙女座の人なんていくらでもいるのだし、私が水のトラブルに遭う可能性は低いのだろうけども、こういうのは悪い方が気になってしまうのよね……
「――というわけで、朝から憂鬱です」
「ふむ……」
廊下でばったり会って私の様子がおかしい事に気付いた天草さんに、今朝の事を話す。占いなんて信じてないけども、やっぱり気になってしまうのよ……
「何があっても大丈夫なよう、防水スプレーをかけておこう」
「どうもです」
何でそんなものを持っているのか? とか、気になることはあったけども、今日の私には御守りのようなものだったので深くは聞かない事にした。
「一応パンツにもかけておいた方が良いんじゃないですか~?」
「漏らしませんよ!! というか、何時からそこにいたんですか」
「割と最初から。一応私このクラスですし」
いきなり現れて余計な事をしようと提案してきた畑さんを撃退して、私は今日一日水に注意しようと決意する。
「というか、次は体育ですよ」
「おっとそうだったな。急いで着替えなくては」
「(ただ着替えるだけなら問題ないよね)」
常に水気に気を付けていたお陰か、体育は無事に終わった。途中水たまりに脚を突っ込みそうになったけども、意識していれば避ける事は難しくなかったわね。
「(手を洗いたいな……)ん?」
水道を見つけたけども、そこには使用禁止の紙が貼られている。
「(壊れてるの?)」
つい油断したのかは分からないけども、私は使用禁止と書かれている水道の蛇口をひねる。すると――
『バシャ―!』
「きゃっ!?」
「(故障=出ないという固定概念が招いた悲劇か……)」
慌てて蛇口を締めた私の眼に飛び込んできたのは、そんな風に考えているであろう天草さんの顔だった……
生徒会室で作業しようとしたが、何故かカエデさんが落ち込んだ表情で俺の席に座っている。ついでに横島先生もいる。
「おい、今私の事を『ついで』とか思っただろ?」
「いえ、別に」
「隠しても分かる! 侮蔑するならもっとしてください!」
「あぁ、ダメだこの人……」
とりあえず横島先生を脇に移動させ、俺はカエデさんに声を掛ける。
「何かあったんですか?」
「じ、実は――」
カエデさんの説明を聞いて、俺とスズは同情するしかなかった。確かにあの水道は故障しているので、近い内に業者が来る予定になっているのを知っているからだ。
「それは災難でしたね」
「ええ……」
「ブラも乾かしてるって事は、今五十嵐はノーブラ! 男子の欲望にたぎった視線が――」
「少し、黙ってもらえますか?」
「い、イエッサー!」
余計な事を言い出した横島先生を黙らせて、俺はシノ会長に視線を向ける。
「どうするんですか?」
「服はもう少しで乾くだろうが、このままだとまた事故に遭いそうだから、私たちで五十嵐を家まで送ってやる事にしたんだ。というわけで、今日の生徒会業務は何時もの五割増しのスピードで進めるぞ!」
「そんな事言って、殆どタカトシ君が終わらせちゃうんだろうけどね~」
「分かってるならもう少し先輩たちも頑張ってくださいよ」
「うむ」
毎回返事だけは良い会長と、都合が悪くなると恍けるアリア先輩を軽く睨んで、俺は残ってる作業を進めようとして――
「何をしている?」
「いや、ノーブラだと形が崩れるかなって……」
「さっさと解け。それとも、その縄で一週間くらい生徒会室に縛り付けられたいか?」
「失礼しました!」
しれっと生徒会室に入ってきていたコトミにカミナリを落として、俺は生徒会作業を終わらせるべく黙々と手を動かしたのだった。
タカ兄に怒られた時は終わったと思ったけども、無事にカエデ先輩のブラ――おっと、服も乾いたので家まで送る事に。
「あっ、雨降ってきた」
「今日は厄日です」
「とりあえずウチに寄っていきます? ここからなら一番近いので」
「よし、津田家までダッシュだ!」
急に走り出した会長を追いかけるように私も駆け出す。負けず嫌いなスズ先輩は反応したけども、タカ兄とカエデ先輩、アリア先輩は普通の速度で走るだけだった。それでも、タカ兄が一番早かったんだけども……
「だいぶ濡れてしまったな」
「私、雨女なのかもしれません」
「まぁまぁ、雨の方が女子は性欲が増すって――」
「ちょっとお手洗いに」
私のボケを華麗にスルーして、カエデ先輩はトイレに行ってしまう。勝手知ったる何とやら、特にトイレの場所に困る事は無く。
「しかし、だいぶ強まってきたな」
「今出島さんに電話して、ここに迎えに来てもらえることになったよ」
「おお、すまないな」
「あの、会長……ちょっと事件が」
「ん?」
トイレから恥ずかしそうに顔をのぞかせるカエデ先輩。まさかお漏らしでもしたのか!?
「……コトミ、風呂場からバケツに水を汲んで来い」
「えっ、何で!?」
「いいから」
タカ兄に指示された時は分からなかったけども、まさかトイレが流れなくなってたなんて思わなかったよ。
察してコトミに指示するタカトシさん……さすがっす