桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシの虫の居所

 部屋で課題をやっていたら、いきなりドアが開かれた。

 

「タカ兄、勉強してるの見てて」

 

「見てて? 見てるだけで良いのか?」

 

「やっぱ見られて無いと集中出来ないと言うか……見られて無いと興奮しないと言うか」

 

「ゴメン、何の話?」

 

 

 今日もコトミは絶好調だった……

 

「うわっ! タカ兄の机、勉強の本しか無い」

 

「普通だろ? 勉強机なんだから」

 

「普通の高校生はトレジャーの一冊二冊……」

 

「さっさと勉強しろ。受験までもう日が無いんだから」

 

「ボケを最後まで言わせてもらえない……」

 

 

 桜才を受験する事をギリギリで認めてもらってるコトミなんだから、もう少し緊張感を持ってほしいんだがな……

 俺が去年受けた問題を思い出しながら、そこに更に手を加えた問題集をコトミに解かせてる隣で、俺は自分の課題を終わらせた。

 

「そう言えば桜才は面接もあるぞ」

 

「忘れてた。タカ兄、面接の練習をしよう!」

 

「ああ」

 

 

 随分とやる気だが、面接以前に不合格が決定してなければ良いんだがな……

 

「我が校に入学したら何をしたいですか?」

 

「あー、その質問考えて無かった」

 

「普通で良いんだよ。コトミが入学してしたい事を答えれば良い」

 

「そう? じゃあ教師との背徳恋愛」

 

「真っ先に出るのがそれかよ……」

 

「じゃあ実の兄との禁断の……」

 

「真面目にするつもりが無いなら帰れ」

 

 

 コトミと遊んでる余裕は無いんだよ。

 

「別の質問にして」

 

「別の? ……我が校を志望した理由を教えてください」

 

「………」

 

「おい!」

 

 

 答えが返ってこずに思わずツッコミを入れる。こいつ、何も考えてないな……

 

「あっ! 家に近いからです!」

 

「……本番ではちゃんと答えろよ」

 

 

 そんな志望動機で合格出来る高校があるなら、高校浪人なんて存在は消えてなくなるんじゃないだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室に向かう途中で、なにやら疲れ気味の津田を見つけた。

 

「如何したの?」

 

「ああ萩村……ちょっと妹の事でね」

 

「そう言えばウチを受験するんだっけ?」

 

「そうなんだけど……勉強もさることながら面接も心配になってきて……昨日から胃がキリキリと鳴ってるんだよ……」

 

「大丈夫なのそれ?」

 

「多分大丈夫じゃないと思うけど……でもまぁ何とかやってるから大丈夫」

 

 

 明らかに大丈夫そうではない表情の津田を見て、私は今日一日ツッコミを頑張ろうと思った。

 

「会長と七条先輩が中に居るね」

 

「そうなの? 声が聞こえたとか?」

 

 

 生徒会室に近付いてきたところで、津田がそんな事を言った。私には声なんて聞こえなかったけど……

 

「いや、気配がしたから」

 

「……普通の人間の範疇で感じろよ」

 

 

 達人とかそのくらいにならなきゃ、気配なんて探れないわよ……

 

「お昼食べてるみたいだね」

 

「そうなんだ……」

 

 

 津田の人間離れした特技に驚きながら、私は生徒会室へと入っていく。

 

「アリア、早く食べないと昼休み終わっちゃうぞ?」

 

「まだ大丈夫だよ~」

 

「そうは言ってもな……そのペースじゃ確実に食べ終わらないだろ」

 

 

 七条先輩のお弁当は、相変わらず豪華で、そして量が多い……会長が懸念するように昼休みの間に食べ終わるかは微妙なところだ。

 

「私お口小さいから食べるのが遅いんだ~」

 

「そうなのか……恋人出来たら大変だな」

 

 

 ……この会話にツッコミを入れるのは、私の技量では無理ね……本調子ではない津田に任せるのもあれなんで、ツッコミを放棄する事にした。

 

「よ~す……」

 

「横島先生、如何かしたんですか?」

 

 

 妙にテンションの低い横島先生が生徒会室にやって来た。

 

「いやね、さっき外のベンチに座ったんだけどさ……そこにガムが捨ててあったのよ」

 

「まさか、踏み潰したんですか?」

 

「そうなの……結構お気に入りだったのに」

 

「でも先生、ガムがくっついて伸びるのって、何だかエロくないですか?」

 

「……その発想は無かった。確かに○液って伸びるからな!」

 

「つまり先生はズボンに○液をブッカケられたって事になるんですね!」

 

 

 三人のテンションが上がっていく一方で、私のテンションはだだ下がり……何でこんな場所に私は居るんだろう……

 ツッコミを入れる気力すら残って無い私は、縋る思いで津田に視線を向ける。私では無理でも、津田ならこの状況を如何にかする術を持ち合わしてるはず!

 

「何なら津田にブッカケて貰うか!」

 

「さすがシノちゃん! 津田君、今すぐブッカケて!」

 

「津田の○液を飲むのは始めてだな!」

 

 

 妙な流れになっていたが、津田が徐に三人に近付いてそれぞれ一発ずつ膝蹴りを喰らわせて気絶させる事で事態を収拾した……ストレスが溜まってる分、何時もより攻撃が過激だ……

 

「萩村、馬鹿共は放っておいて教室に戻ろう」

 

「そ、そうね……」

 

 

 見間違いじゃなきゃ三人の口から何か出て行ったような気が……きっと気のせいよね!

 私は自分に言い聞かせるようにそうつぶやき、生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津田に蹴られて意識を失い、次に気がついたのは放課後だった。つまり私とアリアは午後の授業をサボったのか……

 

「シノちゃん、起きてる……」

 

「ああ、なんとかな……」

 

「まさか津田君があんな威力がある攻撃を繰り出すとは思って無かったよ……」

 

「そうだな……痛いだけで気持ちよくなかった……」

 

 

 何時もの拳骨は痛みの中に気持ちよさがあるのだが、今日の膝蹴りは十割が痛みだったのだ。

 

「何であんなに怒ったんだろうね……」

 

「さぁな……オ○禁中だったんじゃないか?」

 

「発散出来なくてストレスが溜まってたんだね……それじゃあ私がスッキリさせてあげよう」

 

「待て! それは会長である私の仕事だ!」

 

 

 副会長の体調管理は会長である私がしなければならないしな! アリアと競うように津田の教室に向かい、スッキリさせてやると大声で言ったら、再びもの凄い激痛が私とアリアの身体を巡った……二回目でも気もち良く無いな……

 結局次に気がついたのは自分の部屋のベッドの中で、私は如何やって帰ってきたのかも分からないまま部屋を見渡した。そう言えば、如何やって着替えたのかも分からないな……まさか津田が!?

 慌てて部屋から駆け出そうとしたらお母さんに呼び止められ、馬鹿な事は控えるように怒られた。如何やら津田がここまで運んできて、お母さんに今日の事を事細かく伝えたらしい……こっぴどく怒られた私だったが、それで反省する訳も無いと自分でも分かっていたのだった。明日は如何やってからかうかな……




虫の居所以前に怒るかな、あれじゃあ……

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