桜才学園での生活   作:猫林13世

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近頃野良猫なんているのか?


野良猫問題

 じゃんけんで勝ったお陰で、今日の見回りのパートナーはタカトシ君だ。何時もならシノちゃんかスズちゃんがタカトシ君と一緒で、私と一緒なのは随分と久しぶりな気がするな~。

 

「あっ、最近携帯の着信音を猫の鳴き声にしてみたんだけど、その音にウチのコが反応するんだよね。仲間だと思ってるのかな?」

 

「へぇ、かわいいですね」

 

 

 タカトシ君が言っているのは「猫が可愛い」なんだろうけども、私の事を見て言ってるから、つい自分が言われた気がしてちょっと恥ずかしいな……

 

「あ、言ってるそばから」

 

 

 出島さんからのメールで、猫の鳴き声の着信音が鳴ると、近くの茂みから鳴き声が返ってきた。

 

「えっ?」

 

「猫がいるみたいですね」

 

 

 タカトシ君に言われて茂みを覗き込むと、小さく丸まったネコちゃんがそこにいた。

 

「どうしようか?」

 

「首輪をしてないので野良猫かもしれませんね。保健所に連絡するのが一番なんでしょうが――」

 

 

 そこでタカトシ君は私の顔をじっと見つめてきた。な、何だろう……

 

「アリアさんが不満そうなので、誰か飼えないか探してみましょう」

 

 

 どうやら私が可哀想だと思った事を見透かしたようで、タカトシ君は取り出していた携帯をしまってくれた。こういうちょっとしたことでも嬉しいって思っちゃうのは、私がタカトシ君の深みに嵌まってるからなのかな?

 

「とりあえず、こっちにおいで」

 

 

 私が手を差し出すと、少し警戒したけどもすんなり捕まってくれた。

 

「可愛いね」

 

「そういえばアリアさん、猫飼ってるのならどうですか?」

 

「ちょっと難しいんだよね」

 

 

 私は生徒会室に戻る間にタカトシ君にウチの猫事情を説明して納得してもらった。それが無ければ私が飼ってあげたいんだけどな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見回りから戻ってきたアリアだが、何処か挙動不審だ。タカトシがいないし、よく見ればお腹周りが膨らんでる気がする。

 

「何を隠しているんだ?」

 

「だっ、だめ! お腹には子供が!!」

 

「っ!?」

 

 

 私の背後で作業していた萩村が驚いたのを感じる。まぁ、私もかなり驚いてるんだが……

 

「なんだ、子猫か……」

 

「裏庭で丸くなってて……」

 

「だからといって校内に入れるのは良くないぞ」

 

「うん。だからタカトシ君が職員室に行って事情説明中なの。ついでに誰か飼えないか聞いてくれるみたい」

 

 

 なるほど。だからタカトシが一緒ではなかったのか……

 

「というか先輩。先輩の家で飼えないんですか?」

 

「さっきタカトシ君にも説明したんだけど、ウチのコ最近赤ちゃん産んで、今十五匹いるの」

 

「それは、多いですね……」

 

「スズちゃんはどう?」

 

「いや、ウチはボアがいるので無理です」

 

 

 そう言えば萩村は犬を飼ってたんだったな……それじゃあ猫は飼えないか。

 

「シノちゃんは?」

 

「ウチは母が猫アレルギーだから無理だ。でも母は何時もエロいこと考えてるから、元々くしゃみは多いから大丈夫か?」

 

「エロ雑学は必要無いです。ついでにタカトシがいないからって余計なこと言うな」

 

 

 萩村にツッコんでもらい、私は満足げに頷く。ここ最近エロボケが無かったから、なんだかアイデンティティを失った気がしていたんだよな。

 

「戻りました。アリア先輩、横島先生から許可は貰えましたが、生憎飼い主になってくれそうな人は見つかりませんでした」

 

「そっか……」

 

「タカトシはどうなんだ?」

 

「はい?」

 

 

 ふとそんな事を思って尋ねると、タカトシは驚いたように首を傾げた。

 

「無理かな……?」

 

 

 アリアが子猫を抱えてタカトシに尋ねる。あんな真っ直ぐな瞳で見つめられたら、並大抵の男なら堕ちてしまうだろう。

 

「飼う事自体は出来るかもしれませんが、ウチにはコトミがいますから……」

 

「「「あぁ……」」」

 

 

 思わず私たち三人の声が揃う。子猫より手のかかるコトミの世話をしているのだから、これ以上面倒事を背負いこませるのは可哀想か……

 

「一応親に聞いてみます。多分大丈夫だと思いますが」

 

 

 そう言ってタカトシは携帯を取り出して親に電話をかけ始める。

 

「あっ母さん? ……うん、そういう事なんだけど……えっ? あぁ、そっちは多分大丈夫……分かった、忙しいのにゴメンね」

 

 

 話がまとまったのか、タカトシは携帯をしまい私たちの方へ振り返る。

 

「大丈夫です。ですが、他に飼い主が見つからなかった場合ですからね」

 

「だが、どうやって飼い主候補を探すというんだ?」

 

「それは――」

 

 

 タカトシがすたすたとドアの方へ歩いていき、音もたてずに開け放つ。

 

「あら?」

 

「――この人に協力してもらえば、校内に残ってる人に聞くことは出来るでしょう」

 

「じゃあ畑。早速で悪いが頼むぞ」

 

「報酬は?」

 

「この間発覚した隠し撮りの件の取り調べを、気持ち緩めてあげますよ」

 

「それって報酬なんですかー?」

 

 

 不満げな畑に対して、タカトシは、出来れば見たくない笑みを浮かべながら問い掛ける。

 

「それでしたら、問答無用でカメラを取り上げ、これまでの問題と併せて理事長を含めて面談しますか? これ以上内申に響いたら困るのは畑さんですよ?」

 

「よ、喜んでご協力させていただきます!」

 

 

 弾かれたように生徒会室から出て行った畑を見送り、タカトシは小さくため息を吐く。私たちが怒られたわけではないのだが、なんだか私たちまで背筋が伸びてしまったな……

 畑が飛び出していって一時間後――

 

「残念ながら、希望者はいませんでした」

 

「そうですか。ご苦労様でした」

 

「いえ! では、私はこれで」

 

 

 折り目正しく一礼して生徒会室を去って行く畑を見て、私たちは改めてタカトシを本気で怒らせてはいけないと心に刻んだ。

 

「そういう事ですので、この子はウチで飼います」

 

 

 ビニール袋に入って遊んでいる子猫を抱えて、タカトシはそのまま帰っていった。




いるにはいるんだろうけども、近所ではあまり見かけないな……

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