桜才学園での生活   作:猫林13世

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原作に無い話です


やつれゆくタカトシ

 この間は少し荒んでいたが、翌日には普段の津田に戻っていた。と言っても胃の痛みはそのままらしく、何だか弱ってるようにも見えた。

 

「津田、アンタそろそろ試験だけど大丈夫なの?」

 

「あぁ……何とかね。でも、今回は萩村を目標にはしないかな」

 

「ふ~ん……如何して?」

 

 

 いつもなら高みを目指す事に貪欲とまで言える津田が、今回は私に対抗意識を持たないなんておかしいわね……

 

「高みを目指す余裕が無いから、せめて足場を固めようかと……」

 

 

 そう言って津田はお腹を押さえながら歩いていく……よっぽど妹の勉強で弱ってるんだ……

 

「お~い津田、帰りに何処か寄ってかないか?」

 

「ゴメン、生徒会の仕事……それに早く帰ってあの馬鹿の勉強を見てやらないと……」

 

「お、おぅ……何か悪いな」

 

 

 クラスメイトのお誘いを断ると、そのクラスメイトは津田に同情していった……

 

「萩村、早く行かないと会長に怒られるぞ」

 

「そ、そうね……ねぇ津田」

 

「なに?」

 

「妹さんの勉強、私も見てあげようか?」

 

 

 何となくだが、これ以上津田が弱っていくのを見たくないと思った。このまま放っておいたら、この前みたいに荒んでしまうんじゃないかって。

 

「良いの? でも萩村にこの痛みを味わってほしく無いんだけど」

 

「大丈夫よ! 私だってそれくらい覚悟してるわ」

 

「その覚悟は買うけど、アイツは相当な問題児だぞ」

 

「……どれくらい?」

 

 

 津田の目があまりにも本気だったので、私は若干たじろぎながら聞いた。

 

「保健体育の保健だけが得意で、性的妄想なら誰にも負けない自信があって、人に見られると興奮するタイプらしい」

 

「……ゴメン、私には無理だ」

 

 

 匙を投げるのは性に合わないのだが、今の説明だけで胃が痛くなってきたのだ……津田はこの痛みと戦いながら妹の面倒を見てるのね……

 

「だから今回は萩村に対抗心を燃やしてる余裕は無いんだ……せめて学年二十位には留まらないと……」

 

 

 津田がこんなにも弱ってるなんて思って無かった……一学期期末、夏休み明けテスト、この前の中間でも学年二位だったのに、今回の目標は二十位以内。会長たちに頼んで津田の仕事減らしてもらったほうが良いのかしらね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会の業務を終えて、俺は走って家に帰る。少しでも時間を有効活用しないと、あの妹は高校受験に失敗するかもしれないのだ。

 

「コトミ、今日も勉強するぞ」

 

「え~、今日くらい良いじゃん! 偶には遊ぼうよ」

 

「お前、過去問だって一回も合格ラインに到達してないのに、何でそんなにお気楽で居られるんだよ」

 

「四択なんだから、最悪勘で埋めれば大丈夫だよ!」

 

「……その四択問題で散々間違えてるのは何処の誰だよ」

 

 

 ここ数日、コトミに過去問を解かせてるのだが、結果は散々……合格点どころか半分にも到達してない正解数……日に日に増していく胃の痛み……妹じゃなきゃ投げ出してると思う。

 

「タカ兄は少し気を抜く事を覚えなきゃ駄目だよ」

 

「それならお前は気を入れる事を覚えろ」

 

 

 こんな事なら前回の模試の時に諦めさせれば良かったとか思いだしてしまってるのだ。コトミの前に俺の心が折れるかもしれないのだ……そうなったらコトミはほぼ確実に受験に失敗する。自分の事なのにまるで危機感を抱いていない妹に、両親はほぼ諦め状態だ。

 

「タカ兄、いざとなったらどっかのお金持ちのおじさんの愛人でもするから大丈夫だよ!」

 

「その思考が既に大丈夫じゃない……」

 

 

 こうしてまた今日もコトミの相手をしながら一日が終わっていく……もちろん今日のテストも合格点には程遠い結果だ……

 コトミが寝て、リビングで伸びていたらお母さんとお父さんが帰ってきた。

 

「ただいま……大丈夫かい、タカトシ?」

 

「うんまぁ……何とか大丈夫」

 

「コトミ、受かりそうか?」

 

「如何だろう……運だけはいいから、本番なら何とかなるかもしれないけど……今のままじゃ駄目かもしれない……」

 

 

 残業から帰って来て早々にこんな事を言いたくはなかったけど、コトミの結果を見る限りでは奇跡でも起きない限りこのままでは無理なのだ。

 

「アンタ少し痩せた?」

 

「やつれたんだと思う……ろくに食べて無いし」

 

 

 食べて無いというか食べられないのだが……

 

「それで、コトミは?」

 

「もう寝てる。明日朝早くから勉強するって言ってたけど、本当か如何かは分からないけど」

 

 

 やる気を見せてくれたからとりあえずは寝かせたのだが、本人がやると言う以上、俺がとやかく言える訳無いのだ。

 

「そうか……それと悪いんだけど、また明日から出張になった」

 

「忙しいね……こっちは大丈夫だから」

 

「悪いね……今度は長期出張になりそうだから、暮に帰ってこれるか如何かも分からない」

 

「分かった。家の事は任せてくれていいからさ」

 

 

 これ以上迷惑をかけられないし、仕事じゃしょうがないよな……

 

「ご飯は? まだなら温めるけど」

 

「それくらいは自分でするよ。アンタは少しでも休んでおきな」

 

「ゴメン……ありがとう」

 

 

 正直起きてるのがやっとの状態なので、二人の申し出はありがたかった。コトミの事で心配してるだろうし、これ以上心配はかけたくないからな……俺は自分の部屋に引っ込み、ベッドに横になった。夢でもいいからコトミが真面目になってくれないかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、目が覚めて時計を確認する。午前五時……さすがに早いな……

 

「コトミのヤツ、何時から勉強するんだろう」

 

 

 土曜日と言う事で学校は休みだ。お父さんたちは朝早くに出かけると言ってたし、せめて見送りだけはしておこう。

 

「いってらっしゃい」

 

「起きてたのか?」

 

「まぁね……こっちは心配ないから」

 

「悪いわねホント……」

 

「いいよ、気にしなくて……何とかコトミをまともにするから」

 

 

 正直まともに生活するコトミを想像出来ないんだけど、それでも何とかするしか無いのだ。

 

「頼んだよ。いってきます」

 

「お願いね」

 

 

 二人を見送り、俺はコトミを起こす為に部屋に入った。

 

「コトミ起きろ、勉強するんだろ」

 

「う~ん……あと五時間……」

 

 

 寝言でも酷いだろ……

 

「桜才に通うんだろ? もう少し努力しろよな」

 

「むにゃむにゃ……タカ兄と学校でイチャイチャする為に頑張る……」

 

 

 ……理由はこの際如何でもいいや。コトミがやる気になるのなら、それに水をさす事も無いしな……

 多少楽観的にならなきゃ駄目になりそうだ……

 

「よし! さぁタカ兄、ご飯食べよう!」

 

「……準備するからその間勉強してろ」

 

 

 朝食の準備をしながら少し考える……自分のテストは大丈夫なのだろうかと……




このままじゃ死ぬんじゃないだろうか……

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