桜才学園での生活   作:猫林13世

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活動以外で問題だらけ……


柔道部の問題

 柔道部のマネージャーとして、私は部員のランニングに付き添う事になった。もちろん、私は走らずに自転車で遅れている部員を鼓舞するのが役目だけども。

 

「はぁ、はぁ」

 

「トッキー、だいぶ離されてるよ?」

 

 

 普段ならムツミ先輩と一位争いをしているトッキーが、今は最後尾。何処か体調でも悪いのだろうか?

 

「ダメだ、この新しい靴、スゲェ走りにくい……」

 

「靴?」

 

 

 トッキーに言われ、私は足下に視線を向ける。

 

「トッキー……それ、左右逆なんだけど」

 

「あっ? ……あっ」

 

 

 トッキーも漸く気が付いたようで、恥ずかしそうに顔を背けながらしれっと靴を履き直す。高校生にもなって靴の左右を間違えるなんて、ドジっ子で済ませられないレベルだと思うんだよね……

 

「これで前の集団には追いつけるかもね」

 

「別に追い掛けねぇよ。とりあえず走り切れればそれで問題ねぇだろうし」

 

「でも後でムツミ先輩には心配されるだろうね。何時も隣を走ってるトッキーがいなかったんだから」

 

「素直に話せば納得してくれるだろうし、問題ねぇだろ」

 

「そうかな……」

 

 

 むしろトッキーの頭を心配されそうな展開になりそうだけど、トッキーが気にしないなら別に良いのかな。

 

「ところで、今日の弁当って確か、お前が用意したんだよな?」

 

「えっ? ……も、もちろんだよ?」

 

 

 視線を明後日の方へ向けて答えると、トッキーが疑っている目を私に向けてくる。この視線が癖になって来なくもないけども、そんなこと言ってたらまたタカ兄に怒られそうだな……

 

「ゴメンなさい。今日もタカ兄に手伝ってもらいました」

 

「手伝って?」

 

「……すみません、嘘です! 殆どタカ兄に用意してもらいました」

 

 

 私の料理スキルは、殆ど成長していないと言っても過言ではないレベルで推移している。そんなレベルで柔道部の皆さんに食べていただくなど、恐れ多くて出来ない。だからタカ兄に頭を下げて人数分――ムツミ先輩のは別で――のお弁当を用意してもらったのだ。

 

「部費をやりくりするだけでも大変なのに、そこから栄養バランスを考えたり彩りを考えたりなんて、まだ私には出来ないよ」

 

「それを当たり前のようにやってのける兄貴もスゲェけど、柔道部のマネージャーはお前だよな?」

 

「タカ兄は管理栄養士の資格も取れそうだよね」

 

「そういう問題じゃねぇ気もするが……」

 

 

 そんな話をしながら、トッキーは快調に飛ばしていき最終的には一つ前の集団と大差ないタイムでゴールした。なんだかんだ言って真面目なんだから、トッキーは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の練習を前に、私たちはマネージャーが用意してくれたお弁当を食べる。個人で用意するのが普通なのかもしれないが、マネージャーに頼んだ方が安上がりでかつ美味しいお弁当が用意されるので、大門先生に許可をもらって用意してもらったのだ。

 

「さすがコトミちゃん。今回のも美味しそうだねー」

 

「い、いやー……それ程でもないですよ」

 

 

 少し困った表情で頭を掻くコトミちゃんだけども、私は特に気にしないで手渡されたお弁当を食べ始める。

 

「兄妹だけあってタカトシ君のお弁当と味が似てるんだよね」

 

「そうですかねー……まぁ、同じものを食べてるので、味覚が似てるのかもしれませんね」

 

 

 さっきから視線が左右に動いてる気がするけど、何か気になることでもあるのかな? もしそうなら、主将として悩みを解決してあげたいんだけど、私では出来る事が少ないし、万が一「勉強の事で……」なんて言われたらどう反応して良いのか分からなくなってしまう。というか、私もかなり危ないから、むしろ助けてもらいたい……

 

「おっ、今は休憩中か?」

 

「あっ、会長」

 

 

 ちょうど見回りに来たのか、道場の入口には天草会長と七条先輩が立っている。どうやらタカトシ君とスズちゃんは別のところを見回っているようだ。

 

「ここ最近の柔道部の活躍は学園中で話題になってるからな。特に三葉とトッキーは、かなり注目されているようだ」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。だから今度のテストはしっかりと合格点を採ってくれと、さっき大門先生から伝言を頼まれた」

 

「うっ……」

 

「変なプレッシャーかけないでくださいよ……」

 

 

 名指しされた私とトッキーは、会長から視線を逸らしながら乾いた笑みを浮かべる。というか、部活に集中している所為で最近ますます勉強が疎かになってるのに……

 

「コトミも、授業中の居眠りは減っているようだが、突発的な小テストでは散々らしいな」

 

「だって、私の実力じゃあれが限界ですって……タカ兄とお義姉ちゃんの力を得て、漸く何とかなってるんですから」

 

「それは威張って言う事じゃ無いと思うけど~?」

 

「でもアリア先輩。私の力じゃこの学校の平均点なんて夢のまた夢なんですよ?」

 

「良く合格出来たな、お前……」

 

 

 会長が呆れた声でそう言うと、コトミちゃんは困ったように視線を逸らす。

 

「面接の担当が横島先生だったのと、タカ兄が死に物狂いで勉強を見てくれた結果です……」

 

「あぁ、そうだったな……」

 

 

 コトミちゃんにつられるようにして、会長も視線を明後日の方へ向ける。とりあえず言える事は、柔道部全員、勉強が苦手だって事かな……




主将、エース、マネージャーが赤点候補……

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