桜才学園での生活   作:猫林13世

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原因がしょうもない……


ムツミのスランプ

 ここ最近柔道部内に一つの問題が発生している。それは主将がトッキーに負けるのが多い事だ! ってタカ兄に宣言したら「ふざけてないでしっかり働け」と怒られた……

 

「――というわけなんですが、何かいい改善方法とかありませんかね?」

 

 

 私一人ではどうしようもないので、シノ会長に相談しに生徒会室を訪れる。ちょうどタカ兄は見回り中のようで、生徒会室にいたのはシノ会長とスズ先輩の二人だけ。

 

「一度柔道から離れてみてはどうだ? 気分転換などをして、スランプから抜け出せることも多いようだしな」

 

「ですが、ムツミ先輩って柔道一筋って感じですし、何に誘えば良いのか分からないんですよね」

 

「気分転換なんだから、カラオケとかで良いんじゃない?」

 

「何分金欠なものでして……カラオケとかはちょっと」

 

 

 今月分のお小遣いも殆ど使い切っちゃってるので、なるべくお金のかからない気分転換が無いか尋ねると、あまりお勧めは出来ないけどという前置きをされてから次の案が出てきた。

 

「ゲームセンターとかはどうだ? 見てるだけでも気分転換になるし、実際にプレイしてもいいし」

 

「確かにそうですね! 早速ムツミ主将に相談してきます!」

 

「分かってるとは思うけど、寄り道は校則違反だからね」

 

「分かってますって! 一度家に帰ってから集合しますから」

 

 

 そうは言ったけども善は急げ! 今日の練習が終わったらそのままゲームセンターに行こうと私は主将たちに提案する。

 

「そうだね……確かにムツミの調子が悪いのは問題だし、気分転換になるならいいと思う」

 

「でも、寄り道は校則違反だよ?」

 

「部活の延長って事で良いんじゃない? アンタがスランプだと柔道部全体に影響が出るし」

 

「それでタカトシ君が納得してくれるかな」

 

 

 ムツミ主将はそこが心配なようだけども、タカ兄だって事情を聞けば納得してくれる……はず。カエデ先輩程じゃないけども、タカ兄も結構融通利かないからな……

 

「とりあえず着替えて行こっか。ほらムツミ、アンタのためなんだから」

 

「うん……」

 

 

 今一つ乗り気ではない主将だけども、スランプだって自分でも分かっているので最終的に押し切られて今日の練習は打ち切りになった。

 道場から校門に向かう途中、遠くにタカ兄とアリア先輩の姿が見えて緊張したけども、向こうからはこっちが見えなかったようでホッと一息吐いたのも束の間――

 

「あっ、タカ兄から警告メールが……」

 

 

――遠目だろうが何だろうが関係なく、タカ兄は私たちがこれから何処に行こうとしているのかお見通しだったようだ……

 

「一応、今回は見逃してくれるそうです」

 

「ほら、やっぱりタカトシ君に怒られちゃったじゃん」

 

「まぁまぁ、お咎めなしで済んだんだから結果オーライだって」

 

 

 中里先輩が無理矢理明るい雰囲気でいてくれたお陰で、私たちは必要以上に落ち込むことなくゲームセンターにたどり着いた。

 

「ゲームセンターって不良の溜まり場ってイメージがあったけど、そうでもないんだね」

 

「アンタ、何時の時代の人間よ……今時ゲーセンなんて子供でも来るっての」

 

 

 とりあえず各々がやってみたいゲームのところに移動し、私は金銭的問題からトッキーと一緒に行動するだけにした。だって、ここで散財したら来週発売の新作が買えなくなってしまうから。

 

「キャッチャーって取れそうで取れないんだよな……くそっ、フックが上手く引っ掛からない」

 

「トッキー」

 

「あ?」

 

「トッキーの顔がガラスに押し付けられて、鼻フックみたいになってる」

 

「っ!?」

 

 

 トッキーも女の子なので、恥ずかしさで顔を真っ赤にして飛び退いた。夢中になるのは良いけど、そういう事も注意しておかないと、男性客のおかずにされてしまうかもしれないからね。

 

「ところで、お前は見てるだけなのか?」

 

「トッキーは知ってるでしょ? 私の財布事情……」

 

「無駄遣いし過ぎだっての。兄貴に怒られたんじゃねぇのかよ」

 

「仕方ないじゃん! 興味深いジャンルがいっぱいあるんだよ!」

 

「で、兄貴にそれを言ってなんて言われたんだ?」

 

「問答無用で怒られました……」

 

 

 タカ兄はあまりゲームしないし、私みたいに手広く遊ぶことはしないしな……お義姉ちゃんと折半してると言っても、興味深い物が増えて結局出費は減ってないんだよな……

 

「おっ、主将がパンチ力測定するみたいだな」

 

「何処まで行ってもそっち方面からは抜け出せないみたいだね……」

 

 

 さっきやってたのは格ゲーみたいだし、ムツミ主将はそういう人なんだろうな……

 

「うわぁ……」

 

「あんなの喰らったらひとたまりもないね……」

 

 

 物凄いパンチが繰り出されて、私とトッキーは思わず引いてしまった……よく見れば先輩たちも引いてるな……

 

「そろそろ帰ろっか。なんだかスッキリしたし、また明日から初心に――」

 

「あれ?」

 

 

 そこで何かに気付いた部員が、ムツミ主将の持っている道着を確認する。

 

「これ、私の予備じゃ」

 

「へっ?」

 

 

 道着取り違えが発覚した翌日、ムツミ主将は豪快にトッキーを背負い投げで下した。

 

「窮屈だとは思ってたけど、まさか道着が違ったとは」

 

「結局コトミのミスじゃねぇかよ……」

 

「いや~面目ない」

 

 

 こうして元の強さを取り戻した主将は、練習試合で無双したのだった。




結局コトミのせい……

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