桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシならあり得るよな


気遣いに気付く

 生徒会室で作業しているのだが、今は私一人だけ。アリアと萩村は見回り、タカトシは風紀委員との打ち合わせで不在。従って溜まっている書類作業は私一人で片づけなければならないのだ。

 

「ふぅ、疲れた……」

 

 

 さほど多くないから心配するなと言ったが、やはり一人でやるには少し量が多いな……

 

「ここは甘~いものでブレークを……」

 

 

 先ほど差し入れでもらったあんパンを食べようとして、私は誰かの視線を感じ扉に視線を向ける。そこには見回りから戻ってきたアリアが部屋の中を覗き込んでいた。

 

「何やってるんだ?」

 

「シノちゃんがアーマーブレイクって言ってたから……」

 

「言って無いからな? というか、タカトシがいないからって昔の癖を出すな?」

 

「シノちゃんだって結構出てると思うけど」

 

「まぁ、本質的には変わってないんだろうな。私もアリアも」

 

「あの、タカトシが戻ってくる前に仕事を終わらせませんか?」

 

「おぉ……萩村、いたのか」

 

「最初からいました」

 

 

 アリアにばかり目がいっていたので、萩村の事をすっかり忘れていた。決して視界に入らなかったわけではないからな? いや、ホントに……

 

「とはいっても、もうあと一息で終わるところまではこぎ着けているから、二人はお茶でも飲んでゆっくりしててくれ」

 

「分かった。シノちゃんの分もいる~?」

 

「うーん……貰うとするか」

 

「任せて~」

 

 

 アリアのお茶の用意を任せ、私は残っている書類に認印を押していく。さすがに酷すぎるものには押せないが、最近はそういうのも無くなってきたからな。

 

「戻りました」

 

「おぉタカトシ、風紀委員との打ち合わせはどうだった?」

 

「滞りなく。ですが、ここ最近大きく問題になるような事は無いので、この状態を継続する方向で話がまとまったくらいですかね」

 

「何もない事はいい事だ」

 

「ついでに、目安箱がいっぱいだったので回収してきました」

 

「ご苦労様~。今タカトシ君の分のお茶も淹れるね~」

 

「お構いなく、自分でやります」

 

「大丈夫だよ~。それに、タカトシ君の分を淹れるくらい大した手間でもないから」

 

 

 ちょうど書類も最後だったので、私は席を移動して投書を読む事にした。

 

「なるほど……最近はこういった攻め方で男を手玉に取るのか……」

 

「何の投書ですか、全く……」

 

「会長、この投書面白いですよ」

 

「どれだ? ……っ!」

 

 

 急に肩に手を回され、私の心拍数は上昇する。位置的に萩村には不可能、そうなるとタカトシが私の肩に手を――

 

「どれどれ~?」

 

「って! アリアの手か!」

 

「どうかしたの~?」

 

「いや、何でもない……」

 

 

 つい興奮してしまった自分が恥ずかしくなり、私は何事も無いように振る舞いながら萩村が差し出した投書を読むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上から垂れ幕が垂らされるのはよくある事だ。部活動で優秀な成績を収めたのを表する為の物で、今日また一つ垂れ幕が増えた。

 

「映画部の作品が表彰されたんだね~。出演者として嬉しいよ」

 

「私は恋敵役だったから複雑だが、主演のタカトシとスズとしては鼻高々じゃないのか?」

 

「いや、そんなこと言われましても……映画部の人たちが頑張った結果であって、出演者はあまり関係ないんじゃないですかね」

 

 

 タカトシはそう思っているけども、私は映画部の手伝いをしているネネから選考理由を聞いていた。曰く――

 

『タカトシ君の演技力が高校生とは思えないって評価されての受賞らしいよ』

 

 

――との事。相変わらずハイスペックで羨ましい限りである。

 

「日陰者扱いだった映画部も、ついに目立つことが出来た」

 

「良かったな、柳本。だけどあの幕がかかってる場所って、映画部の部室じゃないのか?」

 

「つまり、映画部は日陰者から脱出出来たが、部室は日陰になったというわけか?」

 

「………」

 

「まぁ、とりあえず部室に行けば分かるでしょう。私もネネから呼ばれてるから一緒に行くわ」

 

「お、おぅ……」

 

 

 肩を落としながら部室へ戻る柳本の横を歩く。普段タカトシと一緒だから問題ないだろうと思っていたけども、やはり男子の歩幅についていくのは大変だ。

 

「(タカトシが無意識に私の歩幅に合わせたスピードで歩いてくれているっていうのもあるんだろうけども)」

 

 

 さりげない気遣いだから、普段は気づくことが出来ない。だがこうやって改めて考えると、私たちはタカトシにだいぶ気を遣ってもらっているのだ。

 

「萩村? ボーっとしていると置いてくぞ」

 

「分かってるわよ」

 

 

 柳本に言われ、私は駆け足で映画部の部室へ入る。ちょっとした気遣いが出来ないから、柳本はモテないのかもしれないと感じたけど、私がその事を彼に伝える事は無かった。

 

「スズちゃん、いらっしゃい」

 

「いや、ネネも部外者でしょ?」

 

「編集として携わってるから、半分部員のようなものだけどね」

 

 

 そう言いながらネネは編集作業を続ける。

 

「あっ、ここ商品が映っちゃってるな。モザイク処理しておいてくれ」

 

「分かった」

 

 

 ネネは写り込んでしまった商品にではなく、主役の顔にモザイクを掛ける。

 

「こう?」

 

「そうそう商品は気にしないで女優の顔に、って! これじゃAVだろうが!」

 

「良く知ってるね」

 

「いや、そりゃ……お年頃だし?」

 

 

 うん、タカトシには無いツッコミね……正直聞きたくなかったけど。




ツッコミになってるのか?

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