桜才学園での生活   作:猫林13世

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さすがあの母の側にいる犬……


動物病院

 ムラサメの調子が悪いとコトミから相談され、俺は動物病院に行く為ムラサメをゲージに入れて家を出た。

 

「ん? スズ」

 

「タカトシ、どうしたの?」

 

「ムラサメが調子悪いみたいだから病院に。スズも?」

 

「まぁね」

 

 

 目的地が一緒なので別々に行く必要もないので、俺はスズと一緒に病院に向かう事にした。

 

「やっぱり動物もこの暑さには参ってるのかもしれないな」

 

「そうね」

 

「ん? ボアは信号を理解しているのか」

 

 

 赤信号でちゃんと止まったボアを見て、俺は思わず感心した。

 

「これくらいは出来て当然よ」

 

「そんなものか」

 

 

 しばらく会話しながら歩いていると、急にスズの脚が止まった。何があったのかと思い振り返ると、ボアの足が止まりスズが進めなくなっていたのだ。

 

「白線も理解しているのか?」

 

「違う、病院に向かってるのがバレた」

 

「教えてなかったのか?」

 

 

 まぁわざわざペットに行き先を伝える必要は無いか……

 

「仕方ない。スズ、ムラサメを頼む」

 

「え? あぁ、お願い」

 

 

 スズの力ではボアに対抗できないので、ムラサメをスズに、ボアは俺が担当して動物病院までの道を進む。

 

「やっと着いたわね……ゴメン、タカトシ」

 

「別に、謝る事じゃないよ」

 

 

 途中からボアを引きずってきたので、その事をスズが申し訳なさそうに思っているようだが、観念して自分の足で進んでくれたから大して苦労はしていないのだ。

 

「でもスズが良い病院紹介してくれたお陰で助かるよ。まぁ、ワクチンの時以来だけど」

 

「そう頻繁に来るようじゃ困るものね。でもまぁ、私もペッ友が出来て嬉しいわ」

 

「(べっ友!?)」

 

「………」

 

「どうしたの?」

 

「いや、さすがスズのお母さんと一緒にいるだけはあるなと思って」

 

「? ……まさか、変な事考えてたんじゃないでしょうね」

 

 

 スズがボアを問い詰め始めたところで、ムラサメの番が回ってきたので診察室へと移動する。

 

「入江先生、お願いします」

 

「はい。ムラサメ君、今日はご機嫌だね」

 

 

 手慣れた様子でムラサメの健康状態をチェックしていく獣医の入江先生。どうやら彼女は動物の機嫌が分かるようだ。

 

「先生は動物の機嫌が分かるんですね」

 

「動物は態度に感情が出るんだよ。例えば、よそよそしい態度の時は嫉妬してる時」

 

「なるほど」

 

 

 一通り入江先生と会話をしてから待合室に戻ると、何故かスズが頬を膨らませていた。

 

「津田君、入江先生と随分と楽しそうにお話ししていましたね」

 

「はぁ……というか、次はスズの番だろ?」

 

 

 スズがよそよそしくかつわざとらしく敬語で話しかけてきたけども、これは嫉妬で良いんだろうか? というか、動物と同じ観点で良いのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だかタカトシにはぐらかされたような気がしたけども、実際次は私たちの番なので診察室へと向かう。

 

「ほらボア君、怖くないよ」

 

 

 何度受けても診察は怖いのか、診察台の上でボアが小刻みに震えている。

 

「ほら、ボールだよ」

 

 

 こういう時は普段使っている玩具を見せて落ち着かせるのが一番。という事で私は用意していた玩具を取り出してボアの顔の前に持っていく。

 

「それ、ボア君の玩具?」

 

「ハイ。母が持っていた物なんですが、変わった形のボールですよね」

 

 

 本来の用途は分からないけども、これを見せるとボアは喜ぶので使っている。お母さんも何故か微笑まし気に眺めているので、私は何か別の使い方をしているんじゃないかと思っているのだけども……

 

「(膣ボール……萩村さん、知らないのね)」

 

「? 何か?」

 

「いえ、ボア君が大人しくなってきたので、そのままでお願いします」

 

「分かりました」

 

 

 タカトシのように読心術が使えれば入江先生が何を考えていたのか分かったんだろうけども、生憎私は読唇術までしか使えない。唇の動きは読めても心の動きは読めないのだ。

 一通り診察が終わり結果待ちをする為に診察室の長椅子に座って待っていると、先生が話しかけてきた。

 

「それにしても、こうも暑いとここまで来るのも大変でしょ」

 

「そうですね。汗で服が湿って気持ち悪い……ん?」

 

 

 何だか汗とは違う感じで湿ってきたような気がして、私はゆっくりと隣に陣取っているボアに視線を向ける。

 

「あー漏らした!」

 

「あらら」

 

 

 ボアに粗相されて服が濡れてしまったので、帰り道どうしようかと考えていたら、入江先生が着替えを持ってきてくれた。

 

「これで大丈夫?」

 

「えぇ、問題ないみたいです」

 

「良かった。娘の服でサイズ合ってたみたいね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 何だか複雑な気持ちだけども、濡れたままの服を着ているのも気持ち悪いし、この服は洗濯して明日にでも返せばいいと言ってくれたので、このまま帰る事にしよう。

 

「大変だったみたいだね」

 

「まったくよ。誰かさんが粗相した所為で服は濡れるし、先生の娘さんの服を着る羽目になるしね」

 

「(萩村女史、津田副会長に粗相され幼女服を着るっと)」

 

「何をしてるんですかね、貴女は」

 

「あっ……」

 

 

 電柱の陰に潜んでいた畑さんを引きずり出したタカトシの顔は、私だけでなくボアも恐れるような雰囲気が漂っていた。




スズならお漏らししても……

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