桜才学園での生活   作:猫林13世

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前半、虚しさが半端ないな……


挨拶運動

 生徒会と風紀委員合同で朝の挨拶運動習慣というのを企画し、今日がその初日だ。一応生徒会顧問として横島先生も参加しているが、さっきから欠伸を噛み殺している。

 

「寝不足ですか?」

 

「いや、しっかりと寝たはずなんだがな……ふぁ~」

 

 

 遂に噛み殺せなくなったようで、横島先生は盛大に欠伸をかました。そのことで五十嵐が少し責めるような口調で横島先生に詰め寄る。

 

「教師として参加しているのですから、もう少ししっかりとしてください」

 

「そうは言っても、出ちまうものは仕方ないだろ?」

 

「欠伸は脳に酸素が足りていないから出るんです。深呼吸をしてください」

 

「脳に酸素ね……」

 

 

 何かを考え出した横島先生を見て、五十嵐は何やら嫌な予感がしているような表情を見せている。人のことは言えないが、教師相手に失礼なことを考えているな……

 

「常にパンツを被ってれば、呼吸回数が増えて酸素を多く取り込めるんじゃないか?」

 

「くだらないことを考えてる暇があるなら、ちゃんと挨拶してくれませんかね? さっきから欠伸してるだけでいてもいなくても変わらないじゃないですか」

 

 

 さすがにタカトシに怒られて大人しくなり、その後は横島先生も挨拶をしっかりと始める。

 

「おはようございます」

 

「………」

 

 

 携帯に夢中で挨拶を返さない生徒もちらほらといるが、やはり携帯を解禁したのは失敗だっただろうか。

 

「こらっ! 挨拶はしっかりと返さないか!」

 

「ご、ゴメンなさい!」

 

 

 ここで漸く、横島先生が教師らしい振る舞いを見せる。私たちが注意するよりも、教師である横島先生が注意した方が響くだろうしな。

 

「挨拶しても返ってこない。それがどれだけ虚しいことか分かるか?」

 

「えっと……」

 

「夜、一人暮らしの部屋に帰ってきて挨拶してもなにも返ってこない虚しさ……私はそれを毎日経験してるんだぞ!」

 

「この人が言っている事は兎も角として、ちゃんと挨拶は返してくださいね」

 

「は、はい! 分かりました、津田先輩」

 

 

 どうやら一年生だったようで、タカトシに注意されて慌てて頭を下げてこの場を去って行く。というか、最初からタカトシが注意すればよかったんじゃないだろうか……

 

「横島先生、ご自身の虚しい私生活を暴露しただけで、生徒には響かなかったみたいですね」

 

「うわーん! 虚しくないもん! こうなったら新しく出来た男に――」

 

「往来の場所で何を言うつもりなんですかね?」

 

「な、何でもないぞっ!? というか、天草が私のことを虚しいとか言うから……」

 

「いえ、私は先生を指して『虚しい』と言ったわけでは……」

 

 

 何だかこちらにも火の粉が飛んで来そうになったので、私は慌てて挨拶運動に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の午後は体育でマラソンだったので、なんだかお腹が空いてしまった。生徒会業務中にお腹が鳴らなかったのは良かったけども、家に帰るまで我慢出来そうにない。

 

「あっ、あれ美味しそう……」

 

 

 帰路の途中でクレープ屋を発見して、私の足はふらふらとそちらの方向へと流れていく。

 

「買い食いは禁止じゃなかったか?」

 

「っ!? なんだ、タカトシ君か。ビックリしたな」

 

 

 てっきり男性教諭に見つかって怒られたのかと思って振り返ると、そこには笑顔のタカトシ君が立っていた。

 

「昼飯を食い損ねたのか?」

 

「ううん、そうじゃなくて」

 

 

 何だか食いしん坊だって思われそうだなと思いながらも、私は事のいきさつをタカトシ君に説明する。

 

「なるほど、それは腹が空いても仕方ないな」

 

「奢るから会長には黙っててくれないかな?」

 

 

 タカトシ君の家に行くとさっき言っていたので、もしかしたら会長の耳に入ってしまうかもしれないと考えて、私はタカトシ君に口止めをしようとした。だけどタカトシ君は私の申し出を断り、ポケットから財布を出した。

 

「俺も食べるから、これで共犯だな」

 

「あっ、ありがとう」

 

 

 別にお金に困っているわけではないけども、クレープを二つ買うのはちょっと避けたかったので、タカトシ君の申し出は私にとってありがたいものであり、タカトシ君が驕らぬ良い人だと再認識出来た。

 

「というか、英稜にも購買はあるよな? そこで何か買えば良かったんじゃないか?」

 

「さすがにもう何もない状態だったからね……普段お弁当だから気にしてなかったけども、購買でお昼を買ってる人たちもいるから」

 

 

 むしろそっちの方が多いくらいなのかもしれないので、放課後に購買の商品が残っていることなど滅多に無いらしい。

 

「イチゴとバナナ、どっちにしよう……」

 

 

 漸く順番が回ってきたのは良いが、私は何を注文しようか決められずにいる。だって、どっちも美味しそうなんだもん……

 

「イチゴとバナナ、一つずつください」

 

「はい、少々お待ちください」

 

「えっ?」

 

 

 私が悩んでる横で、タカトシ君がさっさと注文を済ませてしまった。

 

「後ろ並んでるみたいだし、サクラが食べない方を俺が食べるよ。欲しいなら一口あげてもいいし」

 

「あ、ありがとう」

 

「別にお礼を言われる事じゃないだろ?」

 

「そんな事ないと思うけどな」

 

 

 この後、タカトシ君と間接キスだということに気が付き、私は少し照れながらバナナのクレープを齧ったのだった。




そして後半はただのカップル……

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