今日は生徒会メンバーとコトミで、近所のジムへやってきた。普段からこういうところに来ていれば緊張しないのだろうけども、一人で入るのはどことなく難しそうだったので、企画にしてしまおうと考えたのだ。
「スポーツの秋ということで、今日はスポーツジムにやってきた!!」
「随分やる気ですね」
「事務作業ばかりだからな! たまには身体を動かす企画を考えたんだ!」
「シノちゃんの格好、キマってますね」
「褒めてもなんも出ないぞっ」
「赤くなっちゃってますねー」
アリアとコトミに茶化され、私は顔が赤くなっていくのを感じていたのだが、萩村の視線が私の腹辺りに固定されているのに気付き、視線を下に向ける。
「(あっ、丹念に洗い過ぎて臍も赤くなってる)」
とりあえず萩村は何も言わないので、私は何事もない感じで進行していく。
「まずは各自器具を使っての運動だ。後程プールに移動する」
「わっかりましたー」
「ところでシノさん、何故いきなりスポーツジムに? 運動するだけなら、学校でも十分に出来たと思うんですけど」
「普段生活してる場所だと何となく恥ずかしいだろ?」
「そんなものですかね?」
タカトシは恐らく、私が別の目的を持っていることを見抜いているのだろうが、深く追及してくること無くどこかに行ってしまった。
「うぇーん、太ったよー。キツイよー」
「口じゃなくて鼻で呼吸した方が楽になるわよ」
向こうでコトミがランニングマシンで走っている。タカトシは普段から走ったりしているからスタイルが変わることは無いのだろうが、コトミは運動してなかったんだな。
「あぁ、鼻呼吸にじだら、鼻水あぶれる~」
「はい」
どうやらコトミに運動は向いていないようで、萩村が無言でティッシュを差し出した。
「私のことは大丈夫ですから、スズ先輩も運動して来たらどうですか? エアロバイクで身長を伸ばせるらしいって聞いたことがありますし。なんか、あの運動がホルモンをなんたらかんたらって言ってましたし」
「随分と曖昧な話ね……」
そんなことを言いつつ、萩村の視線がエアロバイクに向いている。やっぱり小さいのを気にしてるんだろうな――って!
「誰の胸が小さいってっ!」
「シノちゃん、誰も何も言って無いよー?」
「ん? 何だか幻聴が聞こえた気がしてな……」
私もいろいろと気にし過ぎで、聞こえちゃいけない何かが聞こえたんだろう……
「というかスズちゃん、足が届いてないよー?」
「こんちくしょー!」
何だか負けた気になったのだろう。萩村が走り去っていくのを、私はただただ見送ることしか出来なかった。
各自運動していたのか、何だか疲れているような感じがするのだが、シノさんはまだ満足している様子はない。
「それでは次はプールだ! 各自水着に着替えて集合な!」
そう宣言して、俺以外は女子更衣室へと向かう。当然と言えば当然なのだが、帰ろうとした俺は全員に捕まって付き合うことになったのだ。
「待たせたなっ!」
男など脱いで穿くだけだから時間もかからなかったので、集合場所で待っていたら声高らかにシノさんがやってきた。
「目立ってますよ?」
「まぁ、この面子なら仕方ないだろ」
「いえ、大声を出したからです」
確かにシノさんやアリアさんは目立つ存在だろうが、どうして大声を出して注目されていると思わなかったんだろう?
「競泳水着って速く泳げるようにするために、表面がざらざらしているのだ」
「(あっ、誤魔化した)」
露骨な話題変更にそんなことを考えていると、アリアさんが指を伸ばしてシノさんの水着を触る。
「ホントだー。あっ、ここは剃った毛が突き抜けてるだけか」
「そんなことを声に出すなっ!?」
「会長。会長が毛深い疑惑があるのは知ってるので、恥ずかしくないですよ。むしろ、私は生えていないことが悩みですし」
「スズ、ここは任せた」
相手にするのも面倒になったので、俺は一人で泳ぐ事にした。授業以外でプールに来るのは久しぶりなので、たまには全力で泳ぎたくなったのもあるが、あの話題に男の俺が加わるのはいろいろと面倒になりそうだと感じ取ったからだ。
『うひゃぁ、相変わらずタカ兄は凄いな』
『兄妹なんだから、コトミもやろうとすれば出来るんじゃないか?』
『シノ会長は、タカ兄が私並みに下ネタ全開になれると思いますか?』
『そんなの、タカトシじゃないな……』
『それと一緒ですよ。いくら兄妹だからといって、同じように出来るわけではないんです』
なんだか深いことを言っている雰囲気を醸し出しているコトミだが、要するにやりたくないと言っているのだ。
『あっ、宿題やるの忘れてた……面倒だな』
『そういう面倒なことは先にやりなさい』
『そういえば今度栗拾いがあるよね』
『あぁ。だから先に痩せておいたんだ』
『それが目的だったんですかっ!?』
スズはシノさんの告白に驚いた様子だったが、俺は最初からそれが目的だと知っていたので、特に何も反応せずに泳ぎ続けた。プールから上がった時、やたらと見られていたのは何となく恥ずかしかったけども、別に敵意も無かったので放っておいた。
目的が仕方ない……