桜才学園での生活   作:猫林13世

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迷惑行為の方のキャンセルではないです


予約のキャンセル

 次の授業は小テストが予定されているので、クラス中のあちこちで必死になって復習をしている人が目立つ。

 

「ネネはやらなくて良いの?」

 

「今更付け焼き刃でどうにかなるとは思ってないし」

 

「やればできるんだから、ちゃんとしなさいよ」

 

 

 ここ最近のネネの成績は、タカトシが鍛え上げたコトミと同じか、下手をすればそれ以下という感じにまで落ちている。

 

「そんなことより、スズちゃんの髪、サラサラでキレイだねー」

 

「そ? って、そんなことで誤魔化されないわよ! 遊んでないでちゃんと勉強しなさい」

 

「何騒いでるんだ? クラス中の視線がスズに突き刺さってるんだが」

 

 

 ちょうどトイレから戻ってきたタカトシが、私に集中している視線に気付いて首を傾げる。こっちは余裕から復習なんてしなくてもいいんだろうな。

 

「ネネが小テストを諦めてる感じだったから、ちょっと注意しただけよ」

 

「なるほど。それでスズの声がうるさくて集中できないという言い訳を得たクラスメイトたちが、批難すると見せかけて息抜きをしてるわけか」

 

 

 タカトシの考察にクラス中から向けられていた視線が一気に霧散した。恐らくはタカトシが言った事が当たっていたのだろう。

 

「というか、復習するほどの範囲じゃなかったと思うんだが」

 

「それは津田君やスズちゃんだから言えることだよ」

 

 

 ネネのツッコミに私とタカトシは揃って首を傾げる。そしてテスト中――

 

「(そっちの紙もさらさらだー!!)」

 

「(視線がうるさい……)」

 

 

 私はさっさとテストを終わらせてボーとしていたのだが、隣の席のネネから向けられる視線に辟易していた。

 

「やっぱりスズちゃんは凄いねー」

 

「そう? あっ、タカトシ」

 

「なに?」

 

「生徒会室に行く前にトイレに行くから、先に行ってて」

 

「了解」

 

 

 普通異性にトイレに行くなんて言えないのかもしれないが、タカトシ相手なら気にする必要は無い。アイツは普通の男子高校生ではないから。

 

「おっ、萩村もトイレか」

 

「会長」

 

 

 トイレでばったり会長と遭遇し、私たちは揃って個室へ入る。

 

「(最近は会長たちも大人しくなってくれて、だいぶ楽をさせてもらってるな)」

 

 

 以前は作業中でも下ネタを言いまくっていたので仕事が終わらないこともあったが、最近はしっかりと終わるようになっているのだ。それもこれも、タカトシが生徒会メンバーをしっかりと締めてくれているからだろう。

 

「少し水分を控えた方が良いな」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 個室から出て手を洗っていると、隣で会長がそう言ったので、私は思わず問い掛けた。

 

「今さっき白いおしっこが出てな」

 

「『無色』の方が適切ではないだろうか」

 

 

 タカトシがいないところでは相変わらずのようで、私は何とも言えない気分になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく柳本と話していると、スズと轟さんの会話が耳に入ってきた。というか、こっちに聞こえるように話しているようだ。

 

「このお取り寄せスイーツ、三年先まで予約が埋まってるんだよ。年に一度しか作らないから」

 

「へぇ。でも何でそんな話を?」

 

「私も注文したんだけど、キャンセル待ち状態なんだよねー」

 

 

 別にそれは良いんだが、さっきからこっちをチラチラ見ているのは何でだ?

 

「ねぇ」

 

「なに?」

 

「津田君なら作れないかな?」

 

「なにを?」

 

 

 轟さんから雑誌を借りて何の話をしていたのかを確認する。

 

「チーズケーキ? 普通ので良いなら作れるけど、こういうのって特別な物なんじゃないの?」

 

「確かにこれは特別な物なんだろうけど、予約できない状態じゃね? その点津田君ならすぐに作れるかなーって」

 

「まぁ、材料さえあれば作れるけど」

 

 

 というか、轟さんだけではなくスズも期待するような視線をこちらに向けてきた。相変わらずケーキとか甘いものに目がないんだな……

 

「やったー! キャンセルでた!」

 

「どこの店?」

 

 

 急に三葉が大声を上げたので、スズは驚いた様子だったが、轟さんの興味はキャンセル先のようだ。

 

「店? 学校のことだよ?」

 

「「へ?」」

 

「あぁ、柔道部の関係?」

 

「そうだよ」

 

 

 そのまま三葉を連なって生徒会室へ向かう。何故一緒に生徒会室に向かっているかというと、スズと三葉が話しているからだ。

 

「星恍女学院?」

 

「そう! 全国常連の強豪校なんだよ」

 

「何の話をしてるんだ?」

 

 

 生徒会室から顔を出した会長とアリア先輩も、三葉の話に興味を示した。

 

「対戦申し込んでた他の学校がキャンセルして、ウチにチャンスがきたんです!」

 

「なるほど。それで三葉はテンションが高いんだな」

 

「とにかく遠征に向けて練習と……バイトするぞっ」

 

「? 遠征費は向こう持ちだろ?」

 

「いや、おやつ代をね」

 

「「「あーっ」」」

 

「何ならコトミに何か持たせるけど? どうせアイツも同行するだろうし」

 

 

 あれでも柔道部のマネージャーだから、遠征となれば同行するだろう。付いて行っても役に立つとは思えないので、せめてもの仕事としておやつの用意くらいはさせよう。

 

「でも、お弁当とかしてもらってるのに、これ以上は悪いよ」

 

「いや、俺が作るんだけど」

 

「でもやっぱり材料費とかは払うから、バイトはするよ!」

 

「それでいいなら良いけど」

 

 

 三葉はかなりやる気になってるようだけども、三人から鋭い視線を向けられていることに気付いていない。というか、三人もしょっちゅう食べてると思うんだが……




人が群がってると、何故か一気に冷める自分はおかしいのか?

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