桜才学園での生活   作:猫林13世

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警戒してしまうのは分かるが


遠征試合

 星恍女学院は由緒あるお嬢様校だ。普段なら男子禁制と思われる場所だが、学校に来ている女子生徒たちの視線はタカトシに向けられている。嫌悪感の篭った視線ではなく、羨望の眼差しと言える。

 

「(会長、何だかタカトシが注目されてるような気がするんですけど)」

 

「(まぁ、あの見た目だからな……)」

 

 

 どうやら萩村も同じように感じていたようで、私と萩村でタカトシを見詰めている女子に牽制を入れておく。どれくらい効果があるかは分からないけども、やらないよりマシだろう。

 

「道場はあっちのようですね」

 

「よーし、乗り込むぞー!」

 

 

 三葉が気合いを入れているのを聞いて、私はなんだか自分も柔道部の一員のような気がしてきた。

 

「気分は道場破りだな」

 

「看板は貰えませんがね」

 

 

 珍しくタカトシが私のノリに付き合ってくれたので、何となく嬉しくなる。最近は軽く流されることが多かったから、そう思えたのかもしれないな。

 

「よろしくお願いしまーす」

 

 

 道場に入ってすぐ、星恍女学院柔道部の出迎えを受けて、私は自分の容姿と見比べて肩を落とす。はっきり言ってしまえば、彼女たちに対抗できるのはこの中ではアリアくらいだろう。それくらいキラキラオーラが撒き散らされているのだ。

 

「(看板は貰えませんが、看板娘をいただくってのはどうでしょう?)」

 

「っ!?」

 

「相変わらず余計な事しか言わないですね、貴女は」

 

「あーれー……」

 

 

 私に耳打ちしていた畑の襟元を掴んで道場の外へ放り投げる。私たちからすれば何時もの光景だが、星恍女学院の皆さんには少し衝撃的だったようだ。

 

「それでは準備してください」

 

「分かりました!」

 

 

 柔道部たちが更衣室で着替えている間、私たちは星恍女学院柔道部員たちをじっくりと観察することになった。

 

「あの子」

 

「ん?」

 

「天才柔道少女って言われている、ちょっとした有名人」

 

「あぁ、テレビで見たことある」

 

 

 普段スポーツ関係の情報を積極的に得ていない私ですら知っているくらいだからな。かなりの強者なんだろう。

 

「頭脳なら私も負けませんけどね」

 

「天才しょじょだもんね」

 

「聞き逃さなかったぞっ! というか、桜才の品位に関わるから止めろ!」

 

 

 昔の癖が発動してしまったアリアに萩村がツッコミを入れると、星恍女学院の皆さまが何事かとこちらを一斉に振り返った。だがタカトシが何でもないというニュアンスを告げ落ち着きを取り戻させてくれた。相変わらず、頼りになる男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先鋒戦でまさかトッキーが負けてしまうとは思っていなかったけども、その後は一進一退の好勝負が続き、ついに大将戦となった。ウチの大将はもちろんムツミ主将で、対戦相手は天才少女と言われている津田ハナヨさんだ。

 

「(なんだかタカ兄のお嫁さんって古谷先輩なら言いそうな感じだな)」

 

 

 同じ苗字だけあって親近感は覚えるけども、会って間もない相手にそんなことを言えばタカ兄に怒られるに違いない。心の中だけに留めていたのだけども、どうやらタカ兄には呆れられてしまった。

 

『技あり!』

 

「三葉、随分と気合いが入ってるようだな」

 

「そうでしょうとも」

 

 

 私以外にも主将が気合十分だということは分かっているらしく、会長と畑先輩が小声で会話している。

 

「相手の子の苗字『津田』ですし。なんか対抗心が芽生えてるんだと思いますよ」

 

「あっ、畑先輩もそう思いました?」

 

 

 どうやらそこも共感していたようで、私は畑先輩と固い握手を交わす。その光景を見ていたタカ兄のこめかみがピクピク動いてるのを見ると、かなり怒っているようだ。

 

『そこまで!』

 

 

 結局判定となり、ムツミ主将が辛くも勝利を収めた。対戦相手も天才少女と言われているだけあって、かなり強かったな。

 

「おめでとうございます!」

 

「ありがとー」

 

 

 桜才柔道部員と私は、ムツミ主将に駆け寄ってまず抱き合い、そのまま流れで主将を胴上げすることになった。

 

「(軽っ!?)」

 

「(毎日あんなに喰ってるのにっ)」

 

「祝福ムードゼロだな……」

 

 

 私たちの胴上げを見ていたタカ兄が、そんな風に呟いたのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とてもいい勝負ができたので、私は相手の大将である津田さんにお礼を言いに行く事にした。

 

「今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ。またやりましょう!」

 

「うん!」

 

 

 最初は丁寧語を使っていたのだけども、互いに親近感を覚えてすぐに打ち解けた。

 

「そうだ! おやつ用意してきてもらったから、一緒に食べない?」

 

「良いの?」

 

「うん。結構な量を用意してもらったから」

 

 

 私一人分を考えるとそうなっちゃうらしいんだけども、こういうことを見越してくれたのか普段より多めに用意してくれているのだ。

 

「マネージャー」

 

「はいはい、おやつになります」

 

 

 コトミちゃんが持ってきてくれたのは、生クリームの代わりに豆乳クリーム使ったカロリー控えめなケーキだ。ちゃんとクーラーボックスで保管していたので、鮮度に問題もない。

 

「これ、貴女が作ったの?」

 

「い、いえ……これはタカ兄が」

 

「お兄さん?」

 

「はい。あそこでカメラを持った人をお説教している人が、私の兄です」

 

 

 星恍女学院側の更衣室を盗撮しようとした畑先輩を説教しているタカトシ君を見て、柔道部の皆さんは複雑な視線を向けていたけども、なにかあったのかな?




余計なライバルが増えたかな?

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