桜才学園での生活   作:猫林13世

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試合後すぐに帰宅じゃ大変でしょうしね


遠征先でお泊り

 星恍女学院との遠征も無事終わり、あとは帰るだけだったのだが、向こうさんが旅館を用意してくれていたのでそこで一泊することになった。

 

「随分と立派な旅館だな」

 

「ここの温泉、混浴があるようですよ」

 

「なにっ!?」

 

 

 私だけが過剰に反応したように見えるが、アリアや三葉も反応していたのだ。まぁ、三葉の場合はちょっと私たちとは違う理由だろうが……

 

「さ、さすがに男の子と一緒にお風呂は入れませんよ!」

 

「そうだよね。まずは布団の中からだよね」

 

「スタート地点おかしくないですかね?」

 

 

 タカトシは全くの無関心を貫き通しているので、萩村がツッコミを入れる。それにしても、これだけ女がいるというのに、タカトシは一切の興味を示さないとは……本当に高校生なのだろうか?

 

「まぁ混浴はさておき、ここの温泉は濁り湯で美容に良いそうです」

 

「良し、急ぐぞ!」

 

「あらあら~」

 

 

 美容ときいて私はすぐに温泉へと向かう。別に普段から気にしているわけではないのだが、そういうことに気を付けておかないと、横島先生みたいになってしまうそうな気がするんだよな……

 

「(あの人、見た目は良いとは思うが)」

 

 

 誰に聞かせるわけでもないフォローだが、何となくしておかなければいけない気になったのだ。

 

「それにしても、私たちの分まで用意してくれているとは、さすがはお嬢様校というわけか」

 

「殆どタカ兄の功績だと思いますけどねー。向こうの柔道部の皆さんも、タカ兄が用意してくれたお菓子に舌鼓を打ってましたから」

 

「あれは普通にお店でも出せるレベルだったよねー。ほんと、タカトシ君って料理上手だよね」

 

「女子として自信失くしそうなくらいだけどね」

 

 

 中里がぽつりと言ったセリフに、女子風呂の空気が停まった。全員分かってはいるのだが、改めて言われると不安になったのだろう。

 

「まぁタカ兄と結婚できる人は、だいぶ楽をできると思いますよー。家事万能ですし」

 

「でもタカトシ君が専業主夫っていうのももったいないと思うんだよね。ウチのどの部署に来ても、タカトシ君ならすぐに出世するだろうし」

 

「アリア先輩だから言える感想ですねー」

 

 

 アリアと結婚すれば、タカトシは七条グループを背負って立つ存在になるということだろうし、そもそもアリアの家にはメイドの出島さんや他の人たちもいるから、タカトシが主夫になることはないだろうな。

 

「まぁ、タカ兄の恋路を最前線で妨害している私を倒さなければ、結婚はおろかお付き合いもできないでしょうけどね」

 

「自覚してるなら少しは成長しろ!」

 

 

 胸を張って言うことではないことを堂々と言い放ったコトミに、萩村のカミナリが落ちる。見方によってはタカトシとの関係を邪魔してることに怒っているようにも見えるが、ここにいる大半の人間が萩村の気持ちを理解しているので、視線でコトミを責めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事の席では主将が凄い勢いでメシを喰っていたせいで、何となく疲れがたまったような気がする。

 

「おいコトミ――」

 

「むにゃ……」

 

「寝てやがる……」

 

 

 他の先輩たちはちょっと外に出ているので、この部屋には私とコトミの二人きり。マッサージでも頼もうと思ったのだが、コトミは満腹で眠くなってしまったようだ。

 

『コトミ、いるか?』

 

「今開けます」

 

「あれ? 時さん――あぁ、相変わらずだらしないヤツ」

 

 

 兄貴が部屋を訪ねてきたので、私が対応に出て、兄貴はコトミを一目見ただけで状況を察してくれた。

 

「これ、差し入れ」

 

「ありがとうございます。どうぞ」

 

 

 部屋に兄貴を招き入れて、私は兄貴に座布団を差し出す。コトミに用事があるのなら、少しすれば起きると思ったからだ。

 

「コトミは迷惑かけてないかな?」

 

「よくやってくれてますよ。たまにドジるけど、そこは親近感があるというか――」

 

「きんしん姦はまずいよ――むにゃむにゃ」

 

「起きてる?」

 

 

 私の言葉にコトミが反応したので問いかけるが、コトミはだらしなく口を開けて寝ている。

 

「時さん、疲れてる?」

 

「えっ? 何でですか?」

 

「さっきから肩とか腰を気にしてるみたいだから」

 

 

 さすがは兄貴。さりげなく私のことを見ていたようだ。

 

「良かったらマッサージしようか?」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 

 これ以上兄貴に迷惑をかけるのは忍びないのだが、この人のマッサージはかなり効くとコトミが前に言っていたのを思い出し、私はせっかくだからお願いする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋で横になったまでは覚えているのだが、気が付いたら部屋にタカ兄がいるではないか。しかも、布団を敷いたトッキーまで……

 

「どうだった?」

 

「はい、気持ちよかったです。お兄さん、上手ですね」

 

「(えっ? トッキーが私のもう一人のお義姉ちゃんに!?)」

 

「コトミと話してる時みたいに『兄貴』で構わないよ」

 

「うっ……すんません」

 

「で。コトミは何時まで狸寝入りを続けるつもりなんだ?」

 

「!?」

 

 

 タカ兄に声を掛けられ、私は思わずビクついてしまった。

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

「はい。マッサージ、ありがとうございました」

 

「あっ、そういうことか……」

 

 

 てっきりタカ兄とトッキーが合体したのかと思ったけど、タカ兄にマッサージしてもらってただけだと分かり、私は思わず安堵してしまったのだった。




相変わらずのコトミ……

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