桜才学園での生活   作:猫林13世

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普段から奮闘している気もしないでもないですが


森サクラの奮闘

 生徒会室に入る前に魚見会長と顔を合わせたら、なんとマスクをして咳をしていた。

 

「会長、風邪ですか?」

 

 

 私が尋ねるとポケットからメモ帳を取り出して何かを書き始める。

 

『ちょっと喉を痛めちゃって……』

 

「あらら……」

 

 

 今日は会長に負担を掛けないように仕事をしようと思って生徒会室に入ると、広瀬さんが机に突っ伏して眠っていた。

 

「(あっ、そうだ)」

 

 

 相手が寝ているなら出来るイタズラを思いついて、私は広瀬さんにそっと近づいて彼女に注意する。

 

「ユウちゃん、生徒会室で寝てちゃダメだよー」

 

「すっ、すみません会長っ! ――って、森先輩?」

 

 

 私のモノマネで飛び起きた広瀬さんが首を傾げている。これはなかなか面白かったな。

 

「今のって森先輩ですか? 先輩の声色、うまいっすねー」

 

「そう?」

 

 

 広瀬さんに褒められてご満悦だった私だが、会長が何かメモ帳に書き始めたのを見て、何となく嫌な予感がしてきた。

 

『似てる似てる。だから今日、サクラっちが会長代理ね』

 

「へ?」

 

 

 会長代理と言われても、基本的に生徒会業務は書類作業だ。代理が必要な場面など――

 

「今日、生徒会放送ありますよね」

 

「私がメインパーソナリティー!?」

 

 

 普段は会長がすらすらと話しているだけで、たまに私や青葉さんに話が振られる程度なのだが、会長の声が出ないということは、私が会長の分も話さなければいけないのだ。

 

『大丈夫。ちゃんとカンペは出すし、サクラっちならアドリブでも十分いける』

 

「そうですか?」

 

 

 会長に認められていると分かると、何となく出来そうになってきたけど、この人がふざけないとも限らないしな……

 

『甘酸っぱい恋愛話聞かせて!』

 

「?」

 

 

 会長が謎のカンペを出してきて首を傾げていると、会長の目が「ページ間違えた」と言っていた。

 

『私が必要時カンペ出すから安心して』

 

「なんか不穏なフリを見てしまったんですが!?」

 

 

 やっぱり余計な事をしようとしていたと分かり、私はちょっとどころではない不安を抱えることに……

 

「そろそろ移動しましょう」

 

 

 青葉さんの合図で私たちは放送室へ移動する。基本的な流れは把握しているけども、会長が個人的にお薦めしている作品などもあるので、その辺は会長のカンペに頼るとしよう。

 

「あぁ、緊張する……」

 

『発声練習する?』

 

「良いですね」

 

 

 会長の案で私は発声練習をすることに。スムーズに喋る為にも必要だが、これで緊張が解れれば良いのだけど。

 

『赤巻紙青巻紙黄巻紙』

 

「あかまきがみあおまきがみきまきがみ!」

 

 

 噛まずに言えてちょっと気分が良い。これくらいなら噛まずに言えて当然だと思うけども、緊張で舌が回らない状況で言えたので嬉しいのかも。

 

『「9万個」って聞くと、締りの良いアレを想像しちゃう』

 

「それを口にして得られる物ありますかね?」

 

 

 発声練習のカンペかと思ったら余計な事を書いていたので、私はそれをスルーして本番に備える。

 

「皆さん、生徒会放送の時間です」

 

 

 何時も通りの流れで始まった放送だが、私はトチらないように必死だ。主だったことは頭の中に入っているので、会長の方を見ずに話を進めていく。だがお薦め作品のコーナーになり、私は会長の方に視線を向けた。

 

『○△さんの詩集は神韻縹渺たる作品でお薦めです』

 

「(よ、読めない……)」

 

 

 会長は難しい漢字も使うので、私は何て読むのか分からず首を傾げていると、会長がルビをフッてくれた。

 

『しんいんひょうびょうたる作品』

 

「(あっ、そう読むのか)」

 

 

 会長のお陰で不自然な間が生まれることなくお薦め作品のコーナーは終わった。だが次なる問題が発生する。

 

『手が疲れてきた』

 

「私が代わりに書くっす!」

 

 

 会長の手が疲れたということで、残りの原稿は広瀬さんが書くことになった。だが――

 

「広瀬さん。もうちょっと綺麗に書いてほしい……読めないんだけど」

 

「あれ?」

 

 

 ミミズが這ったような字を渡されても読むことはできない。結局私は自分の頭で考えて最後まで放送をやり切ることになった。

 

「終わったー!」

 

 

 何とかやり切ることができ、私は何時も以上に達成感を覚えていた。普段はお手伝い程度だったけど、こうして一人でやると大変だったんだって改めて思い知った。

 

「?」

 

 

 解放感で浮かれていた私の肩を会長がつついたので、何事かと思いカンペを見ると――

 

『タカ君から電話かかってきた。心配かけたくないからさっきの声音を使ってサクラっちが出て』

 

「ええっ!?」

 

 

 最後の最後に凄い無茶ぶりがきて、私はどうしたものかと思ったが、声が出せない以上私が出るしかない。

 

「も、もしもーし。どーしたのタカ君?」

 

『……なにやってんだ、サクラ?』

 

「(バレたー!? 何で一瞬で分かるの!?)」

 

 

 会長のお墨付きのモノマネだったというのに、タカトシ君に一瞬でバレてしまった。

 

『義姉さんは風邪で声が出なくて、心配を掛けたくないからサクラが義姉さんの声音を真似て出た、ということで良いのか?』

 

「う、うん……」

 

 

 裏事情までバッチリバレてしまっていたので、私は素直にタカトシ君に話して、会長への伝言を頼まれ電話を切った。それにしても、顔を合わしていなくても鋭いんだね、タカトシ君は……




電話越しでも見抜くタカ君……

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