桜才学園での生活   作:猫林13世

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気苦労もあるのか?


風邪の原因

 声は出せないけど、筆談なら出来るので、私たちは放課後桜才学園を訪れて軽く交流する事にした。本音を言えばタカ君に心配させたくなかったのだけども、サクラっちの声帯模写がバレて裏事情までバッチリ知られてしまったので、遠慮する必要はなくなったのだ。

 

「カナ、声は大丈夫なのか?」

 

『二、三日は大人しくしていた方が良いと言われましたが、ずっと出ないわけではないので。ここ最近急に寒くなったので、それで風邪を引いたんですよ』

 

「暖房器具とかで室温を調整しなかったのか?」

 

『ちょうど故障してまして……』

 

「義姉さんの家も? 確かに家のエアコンは壊れてますが」

 

「カナちゃんの風邪とタカトシ君の家のエアコンの故障が関係しているの?」

 

「ここ数日、コトミの面倒を義姉さんに任せていたので。二日くらい泊まっていたので、もし家のエアコンの故障が原因なら重ね重ね申し訳ないことをしたと――」

 

『タカ君の所為じゃないよ。温かい恰好をしなかった私の落ち度だから』

 

 

 タカ君が非常に申し訳ないと言わんばかりの表情で私の体調を気遣ってくれたのは嬉しいけど、タカ君に責任はないので、私はすぐさま否定の言葉を書いた。

 

「というか、カナばっかり津田家にお泊りしててズルい! 今度私たちもお泊り会をするぞ!」

 

「会長、理由なく津田家に入り浸っていては、完全に嫉妬してるとしか言えませんが」

 

「嫉妬して何が悪い! ただでさえ競争率が高く、私は出遅れている感じが否めないんだ! ……ん? 今私、とても恥ずかしいことを言わなかったか?」

 

「恐らく……」

 

 

 シノっちは自覚していなかったようだが、今の発言は完全に私に対する嫉妬と、タカ君に対する恋心を隠せていないものだった。まぁ、最初から隠していないのかもしれないけど、こうもはっきりと言い切るのは珍しい。

 

「まぁもうじきテストですし、コトミの勉強を見る名目なら、幾分か恥ずかしさは紛れると思いますが」

 

「それだ! そういうことでタカトシ、私たちがコトミの面倒を見てやるからな!」

 

「はぁ……お願いします」

 

 

 コトちゃんの面倒なら、私とタカ君で何とかなる程度まで成長しているのでシノっちたちに頼る必要はないのだが、それをいま言えばまたシノっちが発狂してしまうので黙っていることにした。

 

「いや、義姉さんは今、声が出ないでしょうが」

 

『そうでしたね』

 

 

 タカ君に心の裡を見透かされたことに多少驚きながらも、タカ君ならこれくらい出来て当然だと思い直して、私は素直な感想を紙に書く事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会長と当たり前のように会話しているタカトシ君を見ながら、私はふとさっきの電話の件を思い出した。

 

「(タカトシ君なら何でもありだと思うけども、電話越しで私と会長の声の違いを見抜くなんて、随分と親しくなったってことなのかな?)」

 

 

 会長とタカトシ君は義姉弟だからある程度仲良くなっていても不思議ではない。だが電話越しで些細な声の違いを見抜き相手の状態まで理解するとは、ある程度では説明がつかないのではないだろうか。

 

「(今だって、会長が何を考えているのか見抜いて話しかけてたし……)」

 

 

 前々から心を読むのではないかと思わせるシーンはあったけども、今日のこれは明らかにそうだと言える。だって初めてその瞬間に遭遇した広瀬さんが、青葉さんに事情を聞いているくらいだから。

 

「今魚見会長、何も言って無かったっすよね? なのに津田先輩は何かを察したように話しかけてますけど」

 

「あの先輩はそういうことができる人だって思っておけばいいよ。嘘を吐いてもすぐにバレるし、誤魔化そうとしても誤魔化しきれないから」

 

「この間も思ったんですが、あの人何者っすか?」

 

「桜才学園生徒会副会長で、魚見会長の義弟……後は学年トップクラスの頭脳の持ち主で運動神経抜群。英稜でも人気があるエッセイの作者ってことくらいしか私は分からない。森先輩は何か知ってませんかね?」

 

「私も青葉さんが言ったこと以上のことは分からないわよ。昔から凄く苦労していたということくらいしか、捕捉することはないわね」

 

 

 幼少期からあのコトミさんの相手をしていたのだから、色々なスキルが身についてしまったとしても仕方がないだろう。だけども、読心術だけはその理屈では納得できない。コトミさんの相手をしていただけで会得できるほど、簡単な技術ではないだろうし……

 

「だから、読心術なんて使えないって言ってるだろ」

 

「っ!? タカトシ君、何時の間に……」

 

「ウチの会長たちと義姉さんで盛り上がり始めたからこっちに避難してきただけだ」

 

「そうだったんだ……でもタカトシ君、私何も言って無かったよね?」

 

「確かに声には出ていなかったが、顔が雄弁に語っていたからな。俺の過去に同情してくれるのはありがたいが、読心術は使えないと何度も言っているんだが」

 

「でも、タカトシ君が心を読んでるんじゃないかって場面に何度も遭遇してるし」

 

「何回も言っているが、顔に出てるから分かるだけで、本気で隠そうとされたら俺にだって分からないからな」

 

「本当? タカトシ君なら隠そうとしても知られちゃいそうだけど」

 

 

 だって、大勢の恋心を理解しているだろうし……まぁ、あからさまな人もいれば、自覚していない人もいるだろうけども、それでも多少なりともタカトシ君に対して恋心を懐いている人は大勢いる。私も、その中の一人だからこれは言い切れる。




絶対読心術使ってるよな……

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