桜才学園での生活   作:猫林13世

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隙だらけの人が……


無人の生徒会室

 コトミの面倒を義姉さんに見てもらっていたのだが、バイトから帰って来てみたら二人でこたつに篭っていた。

 

「何してるんですか?」

 

「あっ、タカ君お帰り」

 

「義姉さん……コトミも。布団被ってだらしない」

 

「こたつはこれが最高なんだよー」

 

 

 側に置いてあるノートを見て、とりあえず宿題は終わらせたのかと、俺は怒る案件が一つ減ったことに胸をなでおろす。

 

「こうしていればお義姉ちゃんの足の匂いが嗅げるし」

 

「そんなに臭くないよ?」

 

「別に私匂いフェチじゃないですよー?」

 

「君たちは何の話をしているのかな?」

 

 

 怒らずに済みそうだと思った途端にこれだから、この二人の相手は気が抜けない……まぁ、抜くつもりもないが。

 

「タカ君も一緒に入る?」

 

「いえ、さっさと風呂に入って部屋に戻ります。義姉さんもコトミも、何時までもこたつで丸くなってないで部屋に戻った方が良いですよ」

 

「少しくらい良いじゃん」

 

「おや? ムラサメ君がこたつの中で丸くなってますね」

 

 

 露骨な話題逸らしにでた義姉さんに呆れた視線を向けるが、めげずに話を続ける。

 

「私も猫になりたいですね。たまには一日中寝てみたいです」

 

「私は鍵になりたい」

 

「え?」

 

 

 コトミの訳の分からない発言に、義姉さんは声を上げ、俺は視線で真意を問い掛けた。

 

「世界の命運を握る鍵にね!」

 

「くだらないことを言ってないで、少しは自分の部屋でも片づけたらどうなんだ? どうせまた散らかってるんだろうし」

 

「そ、そんなことないですよ?」

 

「明後日の方を見ながら言われても説得力に欠ける。それじゃあ、俺はこれで」

 

 

 一度部屋に戻り着替えを持ってきて、俺は風呂に入る。既に義姉さんとコトミは入浴済みなので、俺が入れば後は風呂掃除をするだけ。義姉さんは兎も角コトミに掃除をさせるわけにはいかないので、ここ最近義姉さんが泊まる時には二人一緒に先に入浴を済ませているのだ。

 

「以前ならコトミが汚すんじゃないかと思ったが、義姉さんが一緒だからその心配も減ったし」

 

 

 たまに盛大にやらかすが、基本的には大人しく入浴してくれるので、俺としても掃除が楽で助かるのだ。まぁ、ほぼ毎日義姉さんがウチに泊っているということは、シノさんたちには黙っておいた方が良いのかもしれないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室にやってきたが、部屋の中には誰もいなかった。鍵は開いていたのに誰もいないとは、不用心だな……

 

「だが、誰もいない部屋ならあれが出来るかもしれない」

 

 

 そう思った私は、掃除用具入れから箒を取り出してノリノリでモノマネを始める。

 

「いえーい! 今日も一発いっちゃうよー!」

 

 

 この前テレビで見たトリプルブッキングのシホのモノマネだ。我ながらかなり似ていると思うのだが、誰も評価してくれないから確かめようがない。

 

「あっ、次の時間は体育だから、ここで着替えるか」

 

 

 誰もいないし、今から教室に戻って更衣室に移動して着替えるのも面倒だし、ここで着替えてそのまま放課後の業務をすれば移動距離が減って良いと思いついた。

 

「というわけで早速――」

 

「そういうことは本当に誰もいないか確認してからにしてもらえませんかね。モノマネ程度なら黙っていましたが、そういうことになるなら黙ってるわけにもいきませんし」

 

「た、タカトシっ!? 何をしてたんだ」

 

「何って、生徒会室の掃除ですよ。朝来た時気になったんで、昼休みの間に掃除しておこうと思って」

 

 

 机の下から出て来たタカトシに驚いたが、私は冷静な対応ができる状態ではない。まさかあのモノマネを聞かれていたとは……

 

「というか、シノ会長は少し油断し過ぎだと思います」

 

「ど、何処がだ!」

 

「何処がって、さっきから窓の外にいる人に気付いていませんし」

 

「あらー?」

 

「畑っ! あれほど屋上からロープをたらして生徒会室を覗くのは禁止だと言ったのに!」

 

 

 タカトシにバレていたと気づいた畑が大人しく窓から生徒会室に入ってくる。

 

「本当は副会長が無人の生徒会室で何をするのか興味があっただけなのですが、まさか会長のおふざけが撮れるとは思ってませんでした。見出しは『浮かれる生徒会長、ノリノリでアイドルのモノマネ』で行きましょう」

 

 

 別に誇張しているわけではないので怒るに怒れないが、私はそんな記事を認めるわけにはいかないと思いタカトシにアイコンタクトを送った。

 

「今後屋上からロープをたらして中を覗いたら容赦なく新聞部を休部にすると言っていたはずなのに、そのことを忘れてたんですか、貴女は?」

 

「ちょ、ちょっとした冗談じゃないですか! ほらこの通り! 外から隠し撮りした映像・画像は全て消去しましたので! ですから休部だけは平にご容赦を!」

 

 

 タカトシから発せられた殺気に耐えられなくなったのか、畑は映像・画像データを完全消去した。何時ものようにダミーのデータカードではなく、本当に消去したのを見て、私はそれだけタカトシが畑にとって恐ろしい存在なのだと再確認した。

 

「今回はデータ消去を以て不問としますが、次はありませんからね」

 

「はい! 失礼しました!」

 

 

 直角に頭を下げ、敬礼をしたかと思ったら畑は生徒会室から逃げ出した。もちろん廊下を走れば怒られるので、早歩きの範疇で。

 

「会長も、今後は気を付けてくださいね」

 

「あ、あぁ……気を付ける」

 

 

 こうして、私のモノマネが周りに知られることは防がれたのだった。




ホント畑さんは懲りないなぁ……

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