今日はコトちゃんの宿題も早めに片付いたので、私が晩御飯の用意をしようと思ったのだが、タカ君に休んでてくださいと言われてしまったのでコトちゃんのゲームを後ろで見ていた。
「コトちゃん、勉強にもそれくらいの集中力を持って取り組めないかな?」
「無理ですね。これはゲームだからできるものであって、勉強には応用できません」
「威張って言うことではないと思うんだけど?」
タカ君の妹なのだから、それくらいのことはできても不思議ではないのだけども、コトちゃんの集中力は何故か勉強には発揮されない。
「このままじゃマズいってコトちゃんだって分かってるんでしょ?」
「それはそうですけど……」
私が小言を言い始めると感じたのか、コトちゃんがセーブポイントに移動し始める。
「セーブするから少し待ってください」
「いいよ」
コトちゃんはセーブをしてゲームの電源を切る。そして私の方に向き直って話を聞く体勢をとった。
「――というわけ。ちゃんと理解してくれた?」
「はい……」
粛々と小言を続けていたのか、気付いたら三十分近くコトちゃんにお説教していた。
「こんなにお説教するつもりはなかったんだけど、気付いたらこんな時間になっちゃった」
「時間を巻き戻せるなら、お義姉ちゃんにお説教される前に戻りたいです。どうしてリアルにはセーブ機能がないんだろう……」
そんな機能がリアルの世界にあったとするならば、それを会得した人間は無条件で勝ち組になってしまうだろう。
「セーブ機能は兎も角として、私も現実で使いたいゲーム機能はあるよ」
「なんですか?」
「○毛のON・OFF機能」
「私はそもそも生えてませんけどね~」
手入れなどが大変なのでいっその事無くしたいと思ったことが何度もあるのだが、コトちゃんは共感してくれなかった。まぁ、生えてないんじゃ仕方ないよね……
「コトミ、確かレポートがあるとか言ってなかったか? そっちは終わってるんだろうな?」
「………あっ」
タカ君に言われて思い出したのか、コトちゃんは大慌てで部屋に戻っていった。あの様子じゃレポートの存在自体を忘れていたようですね。
職員室で作業をしていたら、津田妹が職員室にやってきた。兄貴の方なら珍しいと思うが、妹の方じゃ大して珍しくもない。なにせ三日に一回は呼び出されていたくらいの問題児だからな。
「レポート、こんな感じでどうでしょう?」
「ん~……もう一度、やり直そうか」
「そうですか……」
兄貴の文才があいつにもあれば、レポートで苦労するようなことはなかったのだろうが、生憎妹の方にある才能は私が知る限りは下ネタだけだ。その点だけは兄貴以上だと太鼓判を押せる。
「(まぁ、こんな太鼓判はいらないって言われるだろうけどな)」
そもそも兄貴に怒られるだけだろうし、妹の方も最近は自重する方向になっているらしいから、今はどうなのか分からないしな。
「横島先生」
「おっ、どうした天草?」
珍しく天草が職員室にやってきて私に声をかけてきたので、私は少し真面目な雰囲気を醸し出しながら天草に応じる。
「小山先生を探しているのですが、何処にいるか知りませんか?」
「あぁ、小山先生なら――」
そこで私はちょっとした悪戯を思いついた。普通なら勘違いしないだろうが、津田兄に恋心を懐いている天草なら、面白い具合に勘違いしてくれるだろう。
「津田に何度もやり直そうって言ってた」
「こじれた関係!? というか、何時の間にタカトシとそんな関係に……」
「そこまでだっ!!」
私たちの会話が聞こえていたのか、小山先生が私たちの間に割って入ってくる。そして事情を説明して、私は天草と小山先生の両方から怒られたのだった……
何とかレポートも合格点を貰え、放課後には柔道部の方に顔を出せた。しかし今度は手当の勉強をして欲しいと言われ、今は生徒会室で応急ガイドを読んでいる。
「包帯の巻き方って難しいなぁ……」
「精が出るな」
場所を提供してもらっているので会長たちが声をかけてきても不思議ではないが、今は集中したかったな……
「どうすれば上達しますかね?」
「練習するしかないんじゃないか?」
「練習と言いましても、そう簡単に怪我人が出てくれるわけでもないですし……」
「タカトシに練習台になってもらえば良いんじゃないか?」
「それだ! でも包帯は……」
「保健室で借りればいんじゃないかな~?」
シノ会長とアリア先輩の提案のお陰で、私はどうしてそんな簡単なことに気づけなかったのかと思い知らされた。
「それじゃあさっそく、保健室でタカ兄相手に実技の練習をしましょう! 会長たちも一緒に!」
「なんてことを大声で言ってるんですか、貴女は!?」
「カエデ先輩? 何かおかしなことを言いましたか?」
「だって貴女……保健室でタカトシ君相手に実技の練習って……」
「包帯の巻き方を勉強する為に、タカ兄に練習台になってもらおうと思っただけですけど、カエデ先輩は何の練習だと思ったんですか? もしかして子作りの練習とか?」
私の言葉に顔を真っ赤にしてカエデ先輩が逃げていく。
「ふっ、勝った……」
だがこの勝利は無性に虚しい感じがしてならなかった。
この後コトミが怒られたことは言うまでもない