桜才学園での生活   作:猫林13世

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普通はないよな……


車に足りない設備

 ちょっと用事があったので遠出をしたので帰りはバスを使おうと思ってバス停に行ったはいいが、バスは一分前に出て行ったばかりのようだ。

 

「仕方ない。少し遠いが走って帰った方が速いしな」

 

 

 すぐに来るなら待っていたが、次のバスは十分後だ。それだけの時間をただ待っているのなら、走って帰った方が運動にもなって良いだろうと思い振り返ると、そこにはアリアさんと出島さんが立っていた。

 

「こんなところで奇遇だね、タカトシ君」

 

「そうですね。アリアさんたちもこの辺に用事が?」

 

「たまには出島さんとお買い物でもと思ってね。タカトシ君、バス待ってるなら送ってくよ?」

 

「お気持ちだけ頂いておきます。走って帰ろうと思ってたので」

 

「遠慮しなくて良いよ。というかもう、出島さんもタカトシ君を送ってく気満々だから」

 

 

 アリアさんの言葉を受けて視線を出島さんに移すと、何故か鼻息が荒くなって頷いている出島さんが映ったので、自然な感じで視線をアリアさんに戻した。

 

「それでは、お願いします」

 

「うん、任せて! 出島さん、車をお願い」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 

 一応メイドということで、出島さんは恭しく一礼してから車を取りに行った。本来なら主を一人取り残すなんてマズいのだろうが、俺が一緒ということで出島さんは安心しているとアリアさんから聞かされた。

 

「それにしても、休日にタカトシ君とばったり会うなんて珍しいよね」

 

「そうですね。今日はバイトも休みで、義姉さんがコトミの面倒を引き受けてくれたので遠出ができたわけですし」

 

 

 昨日まで四連勤だったので、今日はさすがに休めと言われて休みになり、義姉さんも暇だったのかコトミの面倒を引き受けてくれたからここにいるわけで、普段なら来られない場所で出会ったのだから珍しいと言えるだろう。

 

「お待たせしました」

 

「それじゃあタカトシ君、乗って」

 

「こういうのって普通アリアさんが先に乗るんじゃ……」

 

「気にしなくて良いから」

 

「そういうわけには行きませんって」

 

 

 頑なに俺を先に乗せようとするアリアさんの手を取ってエスコートをする。手を取った時に少し驚かれたが、特に抵抗せずに大人しく乗ってくれた。

 

「さすがタカトシ様ですね。あまりにもお嬢様の手を自然につかむので、そのまま押し倒すのかと思いました」

 

「貴女の思考回路はどうなってるんですか?」

 

 

 運転席からおかしなことを言いだした出島さんを睨みつけ、すぐに無駄だと思い直しため息を吐くだけで留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかタカトシ君とばったり会えるなんて思っていなかったから、私は分かり易いくらい浮かれている。ましてやタカトシ君に手を取ってエスコートされるなんて思っていなかったから、心臓はバクバクだ。

 

「何か飲む?」

 

「相変わらず凄い設備ですね」

 

「そうかな?」

 

 

 私からしてみれば普通なのだけど、タカトシ君からしてみればやはり凄いらしい。普段意識していないけども、こういう感覚の違いから、私はズレているんだと思い知らされる。

 

「むっ? すみません、お嬢様。どうやら渋滞にはまってしまったようです」

 

「急いでいないから大丈夫だよ~」

 

「タカトシ様も、申し訳ございません」

 

「こればっかりは貴女の所為ないですから、謝る必要はありません」

 

 

 タカトシ君も渋滞じゃ仕方ないという感じで出島さんを慰め、備え付けのテレビを点けてニュースを視ている。

 

「コトミだったら浮かれそうな設備ですね。ここで暮らすとか言い出しそうです」

 

「いや、不十分だったよ」

 

「はい?」

 

「トイレも欲しかった……」

 

 

 浮かれすぎていたのか、私は冷たい飲み物を飲み過ぎて尿意を覚え始めた。このままじゃタカトシ君の前でお漏らししちゃう……

 

「タカトシ様、助手席に移動していただけますか? 椅子を倒せばそちらから移動できますので」

 

「それは構いませんが、いったい何を?」

 

 

 タカトシ君が助手席に移動した後、出島さんが操作して後部座席との間に仕切りが現れる。

 

「お嬢様、これでペットボトルに出すことができます」

 

「あ、ありがとう」

 

「これ、普通に見えるんじゃ……」

 

「ご安心を、こちらはマジックミラーですので。こちらからお嬢様の姿を見ることはできません」

 

 

 ちなみにこの車は窓ガラスもマジックミラーに変えることができるので、中でする時に便利だと出島さんが豪語してタカトシ君に怒られている。

 

「ですが、お嬢様の側からは私の姿は見えますので、こうして覗き気分を楽しむことができるのです」

 

「視線が気になって定まらないよぅ……」

 

「余計なことをするな」

 

 

 出島さんの首根っこを掴んで視線を前に固定させたタカトシ君。こういった気遣いが嬉しいんだよね。

 

「ところで出島さん、この出した後のヤツ、どうしよう」

 

「保管していただければ、後程美味しくいただきますが」

 

「それはさすがに……」

 

「では冷蔵庫にでもしまっておいてください。目に見えない場所においておけば、お嬢様も気にならないでしょうし」

 

「そうだね。タカトシ君、もう戻ってきて良いよ」

 

 

 私の老廃物を見られるのは、相手がタカトシ君でも恥ずかしい。私は津田家に到着するまでの間、なんどか冷蔵庫の方をチラチラと見て、自分で恥ずかしい思いをしたのだった。




何故飲みたいと思うのか……

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