桜才学園での生活   作:猫林13世

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必死な人が若干名


交流会で花見

 本日は桜才・英稜生徒会合同のお花見が行われる。合同と言っても、英稜の方は二人不参加ということで、実質何時も津田家に集まっているメンバーの花見という感じだ。

 

「皆さん、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 

 

 花見など場所取りが大変だと思っていたのだが、そこは七条家のメイドである出島さんがアリアの代わりに場所取りをしてくれていたので、私たちは問題なくベストポジションを手に入れることができた。

 

「場所取りご苦労様。大変だったでしょ?」

 

「いえいえ、皆さん程ではありません」

 

 

 出島さんの視線が弁当箱とタカトシを往復したことで、私と萩村は出島さんが何を意図してそのようなことを言ったのか理解した。確かにこの場所取りは花見の場所取り以上に大事なものだろう。

 

「それでは用意したお弁当もありますし、早速花見を開始しましょう」

 

 

 出島さんの合図と共に、私と萩村はぴっちりとタカトシの隣をキープする。そしてタカトシが腰を下ろしたタイミングで、私と萩村もその隣に腰を下ろす。

 

「タカく~……早っ!?」

 

「毎回毎回カナにタカトシの隣を取られていたからな。こればっかりは譲ってやるわけにはいかない」

 

 

 義姉の立場を最大限に利用してタカトシの隣を確保していたカナと、圧倒的リードを誇っている森への牽制も兼ねての場所取りなのだ。せっかく勝ち取った場所を譲ってやれるほど、私と萩村は余裕があるわけではない。

 

「仕方ないね。タカ君の隣は二人に譲ってあげる」

 

「「(何か勝った!)」」

 

 

 素直にカナが引き下がるとは思っていなかったので、今の発言で私たちはカナに勝利したのだと思った。だが――

 

「私はここで」

 

「「ロマンティックなひととき!?」」

 

 

――タカトシの背後に座り、自分の背中をタカトシに預けだす。

 

「義姉さん、そこじゃちゃんと食べれませんよ」

 

「タカ君に食べさせてもらうから大丈夫」

 

「いや、大丈夫じゃないでしょうが……」

 

 

 タカトシに注意され、カナは渋々移動する。座った場所は私の左隣。つまりタカトシとカナの間に私がいる状態だ。

 

「(これはこれで優越感だな)」

 

 

 なんとも小さい感じだが、タカトシの隣にいる為に苦労している私や萩村とは違い、カナや森は学校も違うのに自然に隣にいられるのだから、こういう時くらいは私が隣に座ってても文句は言えないだろう。

 

「そういえばタカ君、今日コトちゃんは?」

 

「アイツの分も弁当も用意しておきましたので、昼はそれでなんとかなるでしょう。洗濯物だけはしまっておけと言っておいたので、そっちの心配もありません」

 

「それはそうだけど、コトちゃんを家に一人にして大丈夫なの?」

 

「午後から八月一日さんと時さんが遊びに来るそうなので、そっちも心配ありませんよ」

 

「なら大丈夫だね」

 

 

 なんだ、この子供を心配する夫婦の会話を隣で聞いているような感覚は……この位置、失敗だったかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天草さん、萩村さん、魚見会長の壮絶な場所取り争いとは関係なく、私は空いている場所に腰を下ろしたのだが、その場所はタカトシ君の正面だった。

 

「しかし高校生で花見をしているのは我々だけのようだな。周りは大人ばかりだ」

 

「会長がこういうイベントに敏感に反応するからでは? 普通高校生がここまで派手に花見をしようとは思いませんって」

 

「まぁ、大人たちはお酒が飲める機会だとはしゃげるが、我々は飲めないからな」

 

「出島さんは飲まないのー?」

 

「私はこの後お嬢様をお送りしなければいけませんので」

 

 

 あちこちで盛り上がっている様子だが、タカトシ君はさっきから無言で上を見ている。ちょうど散ってきた花びらを見ているのか、その視線はだんだんと下りてきて――

 

「っ!」

 

 

――ずっとタカトシ君を見ていた私の視線とぶつかり、私は慌てて視線を逸らした。

 

「ところでタカ君」

 

「なんですか?」

 

「何度も聞きますが、どうやればタカ君のように美味しいお弁当が作れるのでしょうか?」

 

「義姉さんの料理も十分美味しいですよ」

 

「タカ君はそう言ってくれますが、タカ君の料理がおいしいのも事実。サクラっちなんてタカ君のお弁当を食べてショックを受けるレベルですから」

 

「そうなのか?」

 

 

 会話の流れでタカトシ君の視線が私に向けられる。確かにタカトシ君のお弁当を食べてショックを受けたことはあるけども、今この場で言う必要は無かったんじゃないだろうか。

 

「私は最低限しかできないから、タカトシ君のレベルの高さを羨んだことはあるよ」

 

「そもそも俺だって好きで上達したわけじゃないんだがな……両親不在でコトミが全くできないから仕方なく、という感じだから」

 

「前にも聞いたことあるが、よくお前の胃は無事だったよな」

 

「実際胃薬に頼ってた時期もありますがね」

 

 

 その時を思い出したのか、タカトシ君は苦々し気な表情を浮かべている。

 

「出島さん、さっきからタカトシ君が使ってた割り箸を見てどうしたの?」

 

「いえ……これを舐ればタカトシ様と間接ディープキスができるのではないかと思いまして」

 

「あらあら~」

 

「それで済ませて良いんですか?」

 

 

 隣に座っている七条さんにツッコミを入れるが、あまり効果は無さそうだ。出島さんの変態性は私たちの想像を遥かに超えているから……




出島さんの変態性はどうしようもないな……

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