今日は新たな校則を考えることになっており、生徒会室には風紀委員長の五十嵐がやってきている。ちなみに、タカトシは壁越しに会話を盗み聞きしようとしていた畑を連行していって不在。アリアは五十嵐の代わりに校内の見回りでおらず、生徒会メンバーで話し合いに参加するのは私と萩村の二人だ。
「風紀委員側は五十嵐一人なのか?」
「他のメンバーは見回りとかいろいろとありますので。正式に校則になるかどうかの段階で他のメンバーに決を採ることになっています」
「なるほどな」
確かに大勢で案を出した場合、どれもこれも必要に思えてくるか、どれも必要無いと感じてしまう可能性が出てくる。この人数で話し合いをした方が、より厳選した案が出せるかもしれない。
「まぁ、タカトシがいなくなって若干不安が残りますが、会長もふざけた案を出さないでくださいね?」
「私だって真面目にやる時とふざけて良い時は弁えているつもりだ!」
「そうだと良いのですが……」
どことなく萩村が不安げな表情をしているし、五十嵐も萩村に同情的な視線を向けているが、私だって真面目な話し合いくらいできるというところを見せつけてやらなければいけないな。
「それで五十嵐、新しく校則に加えたい事案があると聞いていたが、いったい何なんだ?」
「はい。最近カラーレンズの眼鏡を掛けている生徒が目立ちますが、これはおしゃれで掛けている場合がほとんどです。学外で掛ける分には問題ないですが、学内では必要ないと思います。ですから、眼鏡のレンズは透明なものだけにするという校則を作りたいのです」
「なるほどな」
確かコトミがカラーレンズの眼鏡を掛けているところを見たことがある。その時はあまり気にしなかったが、五十嵐の意見を聞いて改めて思い直すと、あれは学校には必要ないものだったかもしれないな。
「五十嵐の考えは私にも理解できる。それに透明の眼鏡って、何だか透ける眼鏡を連想させてなんだかエロいしな!」
「タカトシがいないからってアクセル全開にするな! というか、何故透明=透けるという連想をした」
「おっと……ついおかしな方向に妄想を馳せてしまったな。話を戻すが、確かにカラーレンズの眼鏡は学校では必要ない。これは正式に話し合いをするべき案件かもしれないな。一度職員室に話を持っていって、最終的には生徒会と風紀委員で決を採ることにするか」
「お願いします」
「まぁ、あまり厳しすぎると反発を呼ぶかもしれないが、この程度なら問題ないだろう」
化粧禁止とか、学外でも禁止とか言い出したら暴動が起こるだろうが、学内限定なら我慢してくれるだろうと考え、私は本格的に新たな校則を成立させるために動くことにした。
新学期も一ヶ月が経とうとしている頃、私は友人と一緒に教室に向かう。
「今度のゴールデンウイークは彼氏とこのテーマパークに行こうと思ってるんだ」
「学外での行動には文句は言わないけど、学生なんだから節度を保ってよね」
この友人は学校でも堂々とイチャイチャしているので、風紀委員の方で要注意人物としてマークされている。本人たちも見られていることには気付いているのだが、どうも『見られてると思うと余計に興奮する』などという思考の持ち主らしく、隠れて見ていては効果がないのだ。見つけ次第注意しなければやめてくれない。
「そんなに心配なら監視についてくる?」
「いや、それはさすがにお邪魔虫でしょ」
私だって男女交際全面反対というわけではない。カップルのお出かけに付いて行くような野暮な真似はしたくないし、したとしても一人でテーマパークなど惨めな思いをするだけだろうし……
「大丈夫だって。あっ、丁度良いところに」
そういうと友人は、向こうから歩いてきた生徒会メンバーに――タカトシ君に声を掛ける。
「津田君。今度のゴールデンウイークにダブルデートしよう」
「は?」
「なにっ!?」
「タカトシ君、彼女出来たのっ!?」
「誰よ!」
「あっ、説明不足だったね」
友人の発言で生徒会の三人に不穏な空気が流れたが、説明を聞いて何とか収まったようだった。
「――つまり、お二人が羽目を外し過ぎないようにカエデさんが監視役として同行し、そのカエデさんに俺が同行して欲しい、と?」
「そういうこと。さすがにカエデ一人で連れ回したら可哀想だし」
「お二人が自重する方向には考えが行かないんですかね?」
「うーん……さすがに羽目を外しまくるつもりは無いけど、盛り上がったら分からないじゃない?」
「いや、同意を求められても分からないですし」
「津田君ってモテるのに彼女いないんだよね? どうして?」
「はぁ……」
あまり接点のない先輩に絡まれているので、さすがのタカトシ君も居心地が悪そうだったので、私が助け舟をだすことに。
「まぁまぁ、そういうわけだから、タカトシ君。お願い出来ないかしら?」
「まぁ、出かける分には構いませんが」
「よし決まり! それじゃあカエデ、ちゃんとおしゃれしてくるんだよ?」
「私は別にデートというわけでは……」
語尾が小さくなったのは、心のどこかでタカトシ君とデートだと思っていたわけではない。きっと……
カエデがおいしい思いをした