桜才学園での生活   作:猫林13世

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一枚で十分だと思うんですがね……


気になるメニュー

 タカトシは職員室に用事があるので、私だけ先に生徒会室にやって来たのだが、何だか汚れが目立つので他のメンバーが来る前に掃除をしておこうと思い、私は椅子に乗って入り口の上の小窓を掃除する事にした。

 

「(ふふん、何だか大きくなった気分だ)」

 

 

 生徒会室の前を通る生徒の頭を見下ろしながら、私は悦に浸る。こんなことで喜ぶなんて我ながら単純だとは思うが、普段見下ろされている分、こういう時は気分が良いのだ。

 

「あいたっ!?」

 

 

 ついつい行き交う人たちを見下ろすのに夢中になっていたのか、私は頭を鴨居にぶつけてしまった。

 

「私としたことが……こんな初歩的なミスを犯すなんて……」

 

 

 とりあえず小窓も綺麗になったので、私は椅子を片付けてぶつけた箇所を確認する為にトイレに向かう。

 

「あれ? スズ先輩、どうかしたんですか?」

 

 

 トイレにはちょうどコトミがいて、私の姿を見るなり駆け寄って来た。しかしこうして改めてみると、コトミも結構大きいのね……

 

「いや、ちょっと頭を鴨居にぶつけちゃってね」

 

「鴨居ってなんですか?」

 

「えっ、そんなことも知らないの、アンタ……」

 

 

 まさかここまで常識知らずだと思わなかったが、とりあえず鴨居の説明をすることにした――のだが、話の途中からコトミが不思議そうに首を傾げだした。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ、鴨居が何かは分かりましたが、スズ先輩がどうやってそこに頭をぶつけたのかなって思いまして。タカ兄に肩車でもしてもらってたんですか?」

 

「そんな子供っぽいことするか! 椅子に乗って窓を拭いてたんだよ!」

 

「なるほど! てっきり夢の中でぶつけちゃったのかとも思いましたけど」

 

「悪意が無くてもはったおす!」

 

 

 私の神経を逆撫でするようなことを平然と言ってのけたコトミを追い掛けようと駆け出したが、すぐにタカトシがコトミを確保してくれたお陰で、私は廊下を走るというミスを犯さずに済んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会メンバーで校内の見回りを済ませた後、食堂の前を通りかかった時ふと期間限定の文字が視界に入った。

 

「こんなものまで売ってるのか……」

 

 

 期間限定のメガ盛りパンケーキの写真を見て、私だけではなくアリアと萩村も興味を惹かれたようだ。

 

「一度カロリーを忘れて食べてみたいよね、こういうの」

 

「ですが、現実問題として、一人で食べきれる量ではないように思えますが」

 

「確かにそうだな……無理して食べても美味しくないだろうし」

 

 

 写真で見る限り、少なくとも五枚のパンケーキが積んである。厚さは写真からは分からないが、こんなのを一人で食べたら、間違いなく一日分のカロリーをオーバーしてしまうだろう。

 

「量もそうだが、同じ味が続くと飽きてしまいそうだ」

 

「だねー。変化でも付ければ行けるのかな?」

 

「あっ……」

 

「シノちゃん? 何かあったの?」

 

「いや、この写真を見ていたらお腹が空いてきてな……何か甘いものを食べたい気分になったんだ」

 

「会長もですか? 実は私も……」

 

「なーんだ。シノちゃんやスズちゃんも私と同じだったんだね~」

 

 

 女子三人で盛り上がっている隣で、タカトシが呆れたのを隠そうともしない視線を私たちに向けていた。

 

「な、なんだ? こういうトークは女子の特権だろ?」

 

「いえ、別に良いんですけど。というか、気になるなら三人で食べてくれば良いじゃないですか。俺は生徒会室で残ってる雑務を片付けておきますから」

 

「いやしかし……」

 

「今日は大して量も多くないですし、一人でも十分終わりますよ。それに、一人で食べきれないなら、三人で分ければいいだけの話ですし。メープルシロップ以外にも、イチゴジャムやバニラアイスなんかもあるみたいですし」

 

「ぐっ……」

 

 

 トッピングも豊富だと知らされ、私たちの意識は既にデカ盛りパンケーキに傾いている。タカトシは苦笑いを浮かべながら、私たち三人を食堂に入らせ、自分一人で生徒会室に戻っていった。

 

「なんだか悪い気分だが、せっかくの好意だし……」

 

「タカトシ君の分の仕事を今度肩代わりするってことで……」

 

「………」

 

「萩村?」

 

「……はい!?」

 

 

 萩村の意識は既にパンケーキに持っていかれているようだ。私たちはタカトシの好意に甘え、三人でパンケーキに舌鼓を打ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マキとトッキーと三人で食堂でお茶をしていたら、会長たちが食堂にやってきて期間限定メニューのデカ盛りパンケーキを注文して三人で分け合っていた。

 

「タカ兄は一緒じゃないみたいだね」

 

「兄貴があの中に混ざってる絵は想像できねぇな」

 

「津田先輩、あまり甘いもの食べないもんね」

 

「一年分の甘いものは、バレンタインで間に合ってるからね~」

 

 

 我が兄ながらモテすぎのような気もするが、そのくらいチョコレートを貰ってくるのだ。他の甘いものを食べたいと思うことは滅多にないだろう。

 

「そろそろ帰ろうっか……あれ? 私の鞄どれだ?」

 

 

 三人で同じ場所に鞄を置いていたので、パッと見ただけでは自分の鞄が分からなかった。

 

「コトミのはこれでしょ」

 

「良く分かるね」

 

「だって、中身が空っぽだから」

 

「失礼な! お弁当箱と水筒は入ってるよ!」

 

「教科書は?」

 

「………」

 

 

 マキの追及に、私は視線を明後日の方へ向けて口笛を吹いて誤魔化したのだった。




原作ではタカトシの鞄ですが、ここではコトミので……

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